猫の健康管理の知識
1.食餌の管理
猫は食べ物に対する適応力が強いため、今でこそ穀物や野菜なども食べますが、本来の食性は肉食です。
猫がもともと亜熱帯の砂漠型の動物ですからほかの動物と比較すると水の摂取量が大変少なく、水がある程度欠乏しても耐えられ、高タンパク質で高脂肪を好み、人間と違ってビタミンCは体内で合成します。さらに狩猟動物の特徴として胃が大きく食い溜めでき、食べなれた味に固執します。
猫の食餌には味付けは不要です。猫の食餌にとって菓子類は要注意食のひとつで、糖分を多く摂取すると消化にカルシウムやビタミンB群を大量に消費しますので理論的には欠乏症を引き起こすことにもなりかねません。他の調味料や香辛料にも同様のことが言えます。
キャットフードは手軽で栄養的にもまず安心できますが、いろいろなキャットフードの中から自分の猫に一番よいものを選ぶには、ある程度の知識をもつことが必要です。詳しくは当院に御相談ください。また買うときには期限の表示や成分の表示などを忘れずにチェックしましょう。
2.病気
体温、脈拍、呼吸数の正常値はおよそ次のとおりです。
もし異常があれば体の具合が悪いことを疑ってみます。
体温:38~39度 脈拍:100~130(1分間) 呼吸数:20~30(1分間)
【ウイルス感染症】
猫で注意すべき主なウイルス感染症には次のようなものがあり、
この中にはワクチンで予防できるものとワクチンがないものとがあります。
- ・猫汎白血球減少症(猫パルボウイルス感染症)
- ・猫ウイルス性鼻気管炎
- ・猫カリシウイルス感染症
- ・白血病ウイルス感染症(FELV)
【ワクチンで予防できるウイルス感染症】
【ワクチンの接種】
生まれた子猫が初めて飲む母乳を「初乳」と言い、さまざまな病気に対する抗体が含まれています。
子猫は生後2ヵ月目くらいまではこの抗体に守られているのですが、この期間を過ぎると病気に対して抵抗力が低下していきます。そこでワクチン接種が必要になるわけです。
ワクチン接種は生後7~8週頃に1回目、その3週間後に2回目、そしてその後は毎年1回の追加接種を行います。子猫をもらってきたり、ペットショップから飼ってきたりするのはちょうど1回目のワクチン接種の頃にあたります。もらってくる場合は前の飼い主にワクチン接種の有無を聞き、していなかったり、わからない場合は子猫が来たらなるべく早く病院に連れて行き、健康診断をしてもらうとともにワクチンの接種もするとよいでしょう。
「屋内飼いだからうちの猫はワクチン接種不要」と言う声もよく聞かれますが、猫が外に出なくても、パルボウイルスのように人の靴や衣類について家の中に侵入する可能性がありますのでワクチンは必ず接種するようにしましょう。
- ・伝染性腹膜炎(FIP)
- ・猫免疫不全ウイルス感染症(FIV)
【ワクチンのない怖いウイルス感染症】
感染源の猫は唾液の中にウイルスを出すので、同居猫が舐めあったり、ケンカの傷から感染することが多くあります。猫を複数飼っていたら感染源の猫は他の猫と接触させないようにしましょう。また、抵抗力のない子猫は外に出さないほうが安全でしょう。
いずれにしても日々の猫の体調や外見、行動等をよく観察し、何か異常が見られたらすぐに獣医師の診察を受けるようにしましょう。
【人と猫の共通感染症】
寄生虫とウイルスは原則として宿主特異性がありますから、通常、猫回虫はネコ科動物だけに寄生して、犬には寄生しません。
猫のカゼの原因であるウイルスは、犬にはうつりませんし、犬のジステンパーウイルスは、猫には感染しません。
細菌の中にも、サルモネラ菌、カンピロバクター菌のように、犬、猫、人間に感染し、下痢や腸炎を起こす菌もあります。
カビ(真菌)ではミクロスポーラム・カニス(犬小胞子菌)は、犬にも猫にも人間にも感染し、皮膚炎を起こさせます。
【皮膚糸状菌症】
猫の皮膚糸状菌症は、耳、眼の周辺、鼻や口の周り、首、四肢などに円形の脱毛がみられ、リング状に皮膚の病変が現れます。
疥癬のように、激しいカユミはありません。まれに、皮膚の抵抗力の弱い子供や女性では、顔や首筋、腕の内側などにミクロスポーラム・カニスが感染し、リング状の皮膚炎ができることもありますから注意が必要です。
ミクロスポーラム・カニスという、真菌による猫の皮膚炎は人間の白癬と同じ真菌の感染で起こるものです。
猫の皮膚に円形の脱毛ができたときは、この皮膚病の疑いがありますから、早めに獣医師の判断を仰ぐほうがよいでしょう。
【猫ひっかき病】
猫にひっかかれたり、咬まれたりした後に傷の部分が赤く腫れたり、1~3週間後にリンパ腺が赤く腫れたりすることがあります。
原因についてはいろいろな菌が報告され、なかなか特定されませんでしたが、最近わかりました。
猫に咬まれると必ずこれらの症状が出るのではなく、子供や免疫力が低下している高齢者などに多く現れます。
猫にひっかかれたり、咬まれたりした時は傷口を石鹸などでよく洗い、ヨード系の消毒液を使って十分消毒しておいた方が良いでしょう。
【トキソプラズマ(寄生虫)】
この寄生虫は、ペットの犬や猫が持っていて感染源になるから注意が必要で、妊婦はペットを飼わない方が良いと家庭医学の本や婦人雑誌などで警告されています。
しかし犬はトキソプラズマに感染することはあっても、感染源となるオーシスト(感染型)を出さないのでまったく心配ありません。
猫がトキソプラズマに感染すると、発熱、下痢、貧血、食欲不振などになり、1~3週間、便の中に感染源であるオーシストを排出するので注意する必要があります。
しかし猫を飼っていなくても血液検査をすると過去の感染を示すトキソプラズマ抗体陽性の人がみられます。正確な感染経路は不明ですが、豚にも多い病気であり、豚肉などの加熱が悪かったり、調理する過程で感染することも考えられます。また園芸や庭いじりをした時に土壌中のオーシストが口から入る可能性もあるので、手洗いの励行が必要です。
問題になるのは、妊娠中に感染すると、母体にはほとんど変化はありませんが、虫体は胎盤を通って胎児に移行し、流産や先天性トキソプラズマ症(脈絡網膜炎、水頭症等)の赤ちゃんが生まれることがまれにあることです。
もしトキソプラズマを心配するのでしたら、血液検査(トキソプラズマ抗体検査)を受けてください。陽性でしたら抗体があるので再感染の心配はありません。
陰性の時は注意が必要です。仮に猫がトキソプラズマのオーシストを便とともに出しているとしても、2日以内に便を処理すれば感染力がないことがわかっています。
毎日猫のトイレをきれいにして、手洗いを励行すればよいのです。
3.猫が遭遇しやすい事故
屋内飼育であれば、生命に関わるような事故は比較的少なくてすみますが、子猫は身軽でどんなことにも興味を示しますから油断はできません。
ドアにはさまれたり、お湯やてんぷら油でやけどをしたり、電気コードをかじってショートしてやけどをしたりすることもあるので注意が必要です。
じゃれていたビニール紐を飲み込んだり、お針箱の針山から糸つきの針やしつけ針にじゃれているうちに飲み込んでしまうこともあります。
また、殺虫剤や洗剤などが誤って体にかかったりすると本能的になめとろうとするため、中毒になることもあるので体に薬品などがかかった時はすぐにシャンプーをして洗い流してやらなければいけません。
集合住宅の高層階のベランダから落下する事故も都会ではよくあるので、ベランダへは出さないようにするか、ベランダの手すりは猫が出られないように金網等を張りめぐらせておく方が安全です。
また、猫の交通事故も多発しているので注意が必要です。
4.猫のノミ
猫に寄生するノミは猫ノミで本来は猫や犬の被毛の中に住み付いていて、動物たちの血液を栄養にしてどんどん繁殖し続けます。
ノミに刺されると痒いだけでなく、アレルギー性の皮膚炎を起こしたり、多数寄生すると吸血されるために猫に貧血が見られたり、瓜実条虫(猫条虫)を媒介します。
人には刺すだけで住み付くことはありません。
ノミの生涯(ライフサイクル)は、卵→幼虫→さなぎ→成虫と変化します。ノミの卵は小さく芥子粒大で粘着力がなく、猫の毛の間で産み落とされてもすぐ床に落ちてしまいます。床で孵化した幼虫は光が嫌いなのでカーペットの下などの暗いところに隠れてしまい、そこでさなぎになり、そこへ猫や人が近づくのを待ちます。人や猫が近づくと振動でさなぎの殻が開き、成虫(ノミ)になります。