犬の代表的な病気⑥
犬の代表的な病気
うっ血性心不全の食餌療法
うっ血性心不全というのは、あらゆる心臓疾患の末期症状としてあらわれるもので、運動時の動悸、息切れ、呼吸困難などをはじめ、ひどくなると、安静にしている時でも、このほかにもいろいろな症状が見られるようになります。
心臓病の程度によっては、薬を与えることのほかに、塩分をきびしく制限した食餌を与えなければならないことがあります。
体の中の塩分(ナトリウム)が増えると、それだけ血液の量も多くなるので、心臓に負担がかかります。
まったく健康な状態であれば、余分な塩分は、腎臓から水分と一緒に尿として、じゅうぶん排泄できるのです。
しかし、心臓病が進むと、塩分と水分を体の中にためてしまい、浮腫や腹水や胸水が起こり、ついには肺水腫を起こして死亡することになります。そのような時は、利尿剤を使って、塩分を強力に取り除かなければなりませんが、同時に塩分のない食事を与えなければなりません。
心臓病の患者に理想的な処方食が輸入され、動物病院に用意されていますから、獣医師に相談してください。
いつも味のついた食事を食べている犬は、低塩食では喜んで食べないこともあります。このような場合、動物性脂肪などで、味付けをするとよいでしょう。
うっ血性心不全の食餌
うっ血性心不全の食餌管理は塩(NaCl)のNa(ナトリウム)が体内に入るのを防ぐことにあります。
-
【意外にNaの多い食品】
- 1.パン
- 1切れ(118mg)
- 2.牛乳
- 28g(16mg)
- 3.チーズ
- 7g(50mg)
- 4.マーガリン
- 5g(49mg)
-
【ドッグフードのNa(ナトリウム)含有量】
- 1.カンヅメ食
- 100cal当り (Na177mg)
- 2.バーガー
- 100cal当り (Na154mg)
- 3.ドライフード
- 100cal当り (Na123mg)
- 4.k/d処方食
- 100cal当り (Na53mg)
- 5.h/d処方食
- 100cal当り (Na8mg)
-
【与えてはいけない食品】
- 卵
- ほうれん草
- ソーセージ
- 乾燥果実
- 肉のカンヅメ
- レーズン
- 魚のカンヅメ
- 食塩
- レバー
- ドッグビスケット
- 保存肉
- 犬のチューインガム
- バター
- ポップコーン
- クラッカー
- 加塩ナッツ
- ケーキ
- アイスクリーム
- キャベツ
- ゼラチン
-
【与えてもよい食品】
1.ナトリウムの比較的少ないもの
- 豚肉少々
- 赤身の牛肉少々
- 鳥肉少々(白身)
2.ナトリウムの少ないもの
- ジャガイモ
- モヤシ
- キュウリ
- ラード
- トマト
- サラダ油
- バナナ
- ジャム
- リンゴ
- 落花生
- ナシ
- 蜂蜜
- 桃
- ゴマ
- トウモロコシ
- ペッパー
- 米(炊いたもの)
- にんにく
- マカロニ
- ショウガ
- スパゲティー
肥満症
肥りすぎは、人間社会と同様に、犬の世界にもますます多くなっています。肥満は、心臓、呼吸器、肝臓、膵臓、関節の病気や糖尿病にかかりやすくさせます。
この原因のほとんどは、飼い主があまやかしすぎて、摂取するカロリーが多すぎる割に運動不足で、消費するカロリーが少ないためですが、ホルモン性の病気もあるので、必ず獣医師に相談してください。
肥満症の予防には、正しい食餌を習慣付けることや、適度な運動をさせることが重要です。しかし、すでに肥りすぎになってしまった犬には、特別な低カロリー食を作るか、または、肥満症用の処方食(動物病院にあります)を与えるようにします。同時に、少しずつ運動させながら、毎日または数日ごとに、定期的に食餌の前に体重の測定を行い、食事の量と運動の量をコントロールしていくようにします。このように肥満症の治療は、獣医師の指導に基づいて、根気よく飼い主が努力していく以外に方法はありません。
最近の新聞や雑誌などで取り上げられるほどに、栄養過多や肥満症に伴う糖尿病は多くありません。その点は、人と犬では大いに異なっています。現在のところ犬の糖尿病によくきく内服薬はありません。人の内服剤はいずれも犬にはききませんし、有害です。
てんかん(癲癇)
元気に過ごしていた犬が、突然、口から泡を出して倒れ、全身がけいれんを起こしたとすれば、飼い主のみなさんは、「どうしたらよいのか」と、きっとたいへん動転することでしょう。
長くても通常2~3分で終わり、しばらくすると、いつものふるまいにもどる、このような発作は、てんかんかもしれません。
てんかんの場合、このような全身のけいれん症状のほかに、意識がなくなったり、または、けいれん中やけいれんの後に便や尿をもらしたりすることもあります。
しかし、てんかん以外にも同じような発作をあらわすいろいろなこわい病気がありますから、素人判断はいけません。必ず検査を受けて、どんな病気であるのかをはっきりさせてもらわなければなりません。
てんかんという病気は完全にもどることはありませんが、ほとんどの場合は治療により発作を起こさないようにコントロールすることができます。
しかし、多くの場合、薬を一生飲ませ続けることが必要になります。毎日薬を飲んでいるかぎり、健康な犬とまったく変わることなく過ごすことができます。
壮年老年病
人間は誰もが、いつまでも若くありたいと思いつつ、やがては壮年期、老年期と年をとっていくものですが、動物にもまったく同じことがいえます。
予防医学の発達とともに、若年齢での死亡率が低くなり、多くの動物が長生きできるようになって来ました。人間社会では、高齢化がいろいろと問題を投げかけていますが、動物社会においても、犬・猫・小鳥・エキゾチックアニマルなどの高齢化により、これに伴う疾病も多くなってきました。動物も年齢が進むにつれて、いくつかの特徴を示してきます。たとえば、首をすくめていたり、背をまるめていたり、尿のしつけがくずれてきたりします。
それでは、このような動物の体の中ではいったいどんなことがおきているのでしょうか。そのいくつかをあげてみますと、
①睾丸が軟らかくなったり、卵巣が小さくなり、生殖器の機能が低下してくる。
②末梢血管がもろくなってくる。
③肝臓に脂肪が多くついてくる。
④体温の調節がうまくいかなくなる。
⑤のどのかわきに気づく能力が低下し水分不足が起こりやすくなる。
⑥消化管にガスがたまりやすい。
⑦腎臓の働きが低下してくる。
⑧下垂体の萎縮やホルモン産生器官の機能が低下してくる。
⑨乳腺の腫瘍が増えたり、前立腺が肥大する。免疫反応が弱くなる。
⑪肥満、不活発などと関係する甲状腺機能低下症も非常に多い病気です。
以上、動物の高齢に伴う一般的な体の変化について述べてきましたが、いくつかよくある病気についてお話しましょう。
前立腺肥大と前立腺の病気
6歳以上の雄犬の60%に前立腺の肥大が起きているといわれています。しかし、幸いにもその多くは症状を出さないまま過ごしています。この良性の肥大は、年をとるとともにアンドロゲン(男性ホルモン)とエストロゲン(女性ホルモン)のバランスがくずれることによって起こってきます。特に、アンドロゲンの分泌が多すぎるためだといわれています。
前立腺の病気が起こると、犬は体がどことなく痛くて、抱こうとしたり、さわったりすると、「キャン、キャン」と泣いたり、歩き方がなんとなくおかしくなったりします。また、排便の時に強い痛みがあったり、便秘が起こってきたりすることも多いのです。
治療には、いろいろな方法が行われていますが、一番よいのは、去勢手術をすることです。若いうちに去勢手術を行った犬では、前立腺肥大は起こりません。予防のためにも、子供をもうけない犬では若いうちに去勢手術を受けておきましょう。
子宮蓄膿症
子宮蓄膿症は、中年から老齢の雌犬に最も多くみられる生殖器の病気で、症状によっては救急の処置が必要となり場合もあります。
この病気は、卵巣機能不全が原因で、発情の後期に細菌が入りこみ、子宮内膜炎が起こるためと考えられています。膣から膿が出ているのが見られれば確実に病気とわかりますが、それがまったくみられない場合もありますから、気をつけなければなりません。この病気の進行はゆっくりで、初期にはなかなか気がつかない場合もあります。
多飲多尿、発熱、嘔吐等の症状があり、重症になると、激しい嘔吐、渇きがあり、脱水や昏睡もみられます。
この病気が疑われた場合には、腹部のレントゲン検査や血液検査によって診断されますが、子宮の腫大がわずかな場合は診断が難しいこともあります。
治療は、卵巣と子宮を外科手術で摘出することが最良の方法です。乳腺腫瘍の場合と同じで、卵巣子宮摘出手術を受けた犬では、この病気になりませんので、若いうちに避妊手術を受けておくことをおすすめします。
腫瘍
犬も7歳を過ぎるころには、人間でいえばちょうど癌(ガン)年齢に入ったということができます。皮膚、脾臓、肺、卵巣、乳腺等に腫瘍ができやすくなります。
雌犬の乳腺の腫瘍は、その中でも最も多いもので、良性の腫瘍と悪性の腫瘍(乳腺ガン)とがあります。悪性腫瘍では、発見が遅れると転移が起こり、手遅れになってしまうことがよくあります。乳腺のしこりを見つけたら、すぐに動物病院で診察を受けてください。乳腺腫瘍の良い治療は、なるべく早期に手術して摘出してしまうことです。
成犬になる前に卵巣子宮摘出手術を受けた犬では、乳腺腫瘍の発生がまれですので、繁殖させない雌犬は、若いうちに避妊手術を受けて起きましょう。