ウサギの解剖生理
解剖生理
骨格
骨は弱く骨折しやすい。骨質は猫の3分の1であり、特に長骨や腰椎に骨折が多発する(猫では体重の13%に比べ、ウサギでは8%)。
・頚椎7、胸椎12~13、腰椎7、仙椎4~5、尾椎15~18である。胸椎は小さく、腰椎は大 きい。肋骨は12~13対である。
・鎖骨は前肢を器用に使う動物の場合発達しているが、ウサギにも小さい鎖骨がある。ア ナウサギであるので前肢が意外と発達している。
・下腿骨の脛骨と腓骨とが遠位で完全に一体化している。
・指の数は、前肢は5本、後肢は4本である。前後肢とも犬猫のようなパッドがなく、ブ ラシ上の毛が生えて、クッションの役をしている。また、この毛によって走行中に硬い地面をとらえやすくしている。
・尻尾はへら型で、短くフワフワしている。危険を感じると尾を立てる。また、弱い雄は 強い雄に対して尻尾を下げ、服従を表す。
外皮
生理的な皮膚の現象として、皮膚が部分的に肥厚してその部分の毛の発育も早くなる現象(アイランドスキン)がみられる。原因は不明であるが、遺伝的、季節的、あるいは換毛の時期と関係しているとも言われている。
・耳介は長く、品種によっても異なる。ウサギの耳も特徴は聴力を高める集音の役目を担う点である。これは外敵から身を守るためである。密な末梢血管があり、皮膚の汗腺機能が未発達なため、体温を放散することで体温調節に役立っている。また、耳を動かすことで、他の個体にサインを送る役目もある。
・顎と肛門部と鼠経部に臭腺を有する。いわゆるウサギ臭いにおいは、ここから由来する 分泌物が原因であり、肛門と鼠経部の分泌物は炭水化物、グリセル基を含まないエステル、遊離脂肪酸、コレステロールからなっている。一方、顎の分泌物は蛋白と結合した炭水化物の混合物からなる。首の下を物にこすりつける習性が顎の臭腺の臭いつけであり、頭を左右に動かす。一回の臭いつけは5秒程も続く。雌より雄の方が、このような行為を3倍の頻度で行なう。また雄の中でも優位なものが頻繁に行ない、自分のテリトリーを主張している。これらはテストステロンの支配によるものである。 ・肛門のわきには鼠経腔があり、その中に臭腺があるため、分泌物が溜まりやすい。
・咽の下にはたるみができることがある。これは太った雌に多くみられ頚袋、肉水、肉垂 と言われている。雄にはほとんどみられないか、あったとしてもそれほど大きな物にはならない。
・雌は4~5対の乳頭を持つ。ドワーフ種は数が少ない傾向にある。
口腔
上唇裂といって上の唇が縦に裂けており、自由に開いたり、閉じたりする。口のなかには切歯と臼歯の間に厚い頬粘膜が張り出している。
・胎生期にはすでに乳歯(計16本)を持つが、切歯は出生前に吸収され、生後40日齢 までには乳臼歯も永久歯に生え変わる。歯式は2(2/1 0/0 3/2 3/3)で全部で28本である。かつてはウサギはげっ歯目に分類され、その切歯の特徴から重歯亜目と呼ばれていた。切歯は一年で10~12cm伸び、その唇側面に縦走する一本の溝がある。そして上顎の切歯は4本で、大きな切歯の裏に小切歯が並んで生えている。この小切歯は小さく円柱状である。切歯のエナメル質は前面は非常に厚く、後面はほとんどない。つまり硬いエナメル質が前面にあるので後面よりも摩耗が遅く、ゆえに鋭い切断面を形成している。また切歯も臼歯も混尖が開いており、一生成長を続ける常生歯である。
消化管
胃は単胃構造で、胃底部が大きい。一方、盲腸は大きく、胃の10倍の大きさで重要な消化過程を営んでいる。盲腸は右側にやや片寄り、右腹腔の大半を占めている。ここでは蛋白質の変換と繊維の消化が行なわれ、繊維質消化には、盲腸および結腸内の繊維素を分解する細菌、あるいはプロトゾアを必要とする。大腸の菌叢は独特で、ほとんど嫌気性菌Bacteroidaceae科 Bacteroides属であり、これがセルロースを分解する。
・原則的には嘔吐は起こらない。これは、胃の噴門と幽門が接近し、胃盲嚢を形成し両方 の門の径が小さい為である。肝臓は外側左葉、内側左葉、方形葉、外側右葉、内側右葉、尾状葉の6葉からなる。内側左右葉に胆嚢が位置する。
・通常ウサギの糞は大きく分けて2種類ある。硬便と、柔らかい盲腸便である。ウサギは繊維質を盲腸にためて、腸内細菌に発酵させ、多量の蛋白質(腸内で死んだ細菌)とビタミン類を含んだものに変える。それを再び食べて胃腸で消化する仕組みを持つ(食糞)従ってウサギの食糞行動は必須な行為である。約3週齢から始まり、通常は夜中から早朝にかけて肛門から直接食べることが多い。人の目に触れられることは稀である。食糞の糞(盲腸便)は柔らかく高蛋白、高ビタミン(ビタミンB12、パントテン酸、リボフラビン、ナイアシン)でみずみずしい(一日の排泄量の60~80%)。ドイツ語では、盲腸便のことをビタミン便とも呼ぶ。
・回盲末端部は1つの袋のような構造物、すなわち円形の小嚢(膨大部)がみられる。大 腸は太く、結腸隆起と呼ばれる小嚢と外側に縦走する筋肉帯である結腸ヒモが特徴であるが、内容物が長く滞留するので、微生物によるセルロースなど繊維質の消化に都合がよい。小腸において消化を受けた内容物は、ラセン形をなす盲腸壁に沿って虫垂(盲腸先端部)まで流れ込み、次いで盲腸中央部を通って盲腸基部へ戻る。
胸腔
気管挿管は困難である。開口範囲が狭く、切歯と臼歯の間に頬粘膜が張り出しているためである。
・胸腔は極端に小さく、肺活量も少ない。肺は左肺は前葉、後葉の2葉、右肺は前葉、中 葉、後葉、副葉、の4葉に分かれる。肺活量の少なさにより持久力は持たず、長時間の無理な保定でも低酸素症を起こす。
・体の大きさの割には心臓は小さく、同じサイズの猫と比べるとほぼ半分である(心体重 比は犬で約1%、ウサギでは0.2~0.4%)。なお右房室弁は二尖弁である。
・心臓の前腹側面上に横たわっているのは胸腺である。他の動物とは異なり、成長しても胸腺はその大きさを維持している。
泌尿生殖器
雌は重複子宮で膣は2つに分かれ、それぞれに独立して膣に開口している。
・雄は無毛の陰嚢を持つ。また左右の精巣上体から出た輸精管は膀胱の後方で精管膨大部 を形成し、精嚢と合流する。精嚢の後背側に小胞腺があり、精嚢と小胞腺を合わせたものが他の動物種の精嚢に相当するものと思われる。
生理
絶食が続くと脂肪肝になりやすいので、強制給餌が必要になる。
・アトロピン分解酵素を持つので、アトロピンに関連した薬剤を不活化する。この酵素量 は遺伝的な特徴であり、犬猫のアトロピンの用量では効果はみられない(1~3mg/kgを必要とする)。
・抗生物質は腸内細菌叢に変化をきたし、腸性中毒を起こすものがある(リンコマイシン、 クリンダマイシン、ペニシリン系、マクロライド系)。また、腸蠕動を妨げる可能性のある薬も避ける(アトロピン、ブスコパンなど)。
・尿の色は黄色から茶褐色不透明である。多量の炭酸カルシウムとリン酸アンモニウム マグネシウムを含んでいるためである。尿色は、ポルフィリンおよびビリルビンの誘導体に加え、脱水や高カルシウム飼料で濃くなる。
・夏期交配は甲状腺機能低下と精子形成減少のため受精能力が低下する。
・白血球の増加が必ずしも感染に起因する感染症を示すわけではない。
・好中球はエオジン好酸性顆粒がみられるへテロフィルである(偽好酸球)。