人と猫の共生を図るために

1.しつけ

猫は「単独生活者」であるのが基本なので命令に服従することがないため、犬のように「しつけ」をすることが難しいと言われています。
猫の「しつけ」は、猫が本来とっている行動の中で、我々人間と共同生活する上で、不都合なことや、迷惑になる行動をコントロールすることで、母猫が子猫にものを教えるように、あせらず、穏やかに根気を持って続けることが大切です。もし猫を叱る場合でも現行犯で現場をおさえ、猫の眼の前で強く手をたたいたり、「ハリセン」や空き缶等の大きな音の出るものを猫の近くでたたいて脅かすことで、やってはいけない行動を学習させます。
猫にしつけられることとしては、決まった場所で排泄、爪研ぎをすること、慣れさせた方が良いこととしては、体の隅々まで触らせること、ブラッシング、コーミングなどの手入れ、ケースやバスケットに入れること、リードを付けて散歩することなどがありますが、ここではトイレのしつけについて説明します。

「トイレのしつけ」

猫類の生態は単独生活が基本ですが家猫は家畜化されることで生態が変化することもあり、一軒の家の中で複数の猫が暮らす場合や、餌場、休息場所を共有する場合、 コミュニティーを形成するなどして生活する場合もあります。
社会生活をする上では動物相互間の情報交換や意志伝達が大切になりますが、 猫の意志伝達手段としては音声、顔の表情、ボディランゲージの他、マーキング行動でみられる 「尿マーキング」、「顔や脇腹などの擦り付け」、「前肢による引っかき行動」、「肛門嚢からの分泌物」、「雌の発情期の性フェロモン」など、 匂いによる伝達手段も極めて重要です。

2.避妊・去勢

わが国では年間約30万頭の猫が不幸にして処分されています。しかもその多くが離乳期前後の子猫です。
将来、子供を生ませるつもりがないのでしたら、メスもオスも繁殖防止のために避妊、去勢をして飼うようにすべきです。避妊あるいは去勢するかどうかは、猫を飼うと決めた時点で決めておくべきです。手術の時期についてはいろいろな考え方がありますが、猫が成長しきらない生後6~7ヶ月頃が適切と思われます。手術はいくつになっても、また、いつでも実施可能です。
もし、メスを手術しないで飼うと、メス猫は平均して生後7~8ヶ月で性成熟して、繁殖の能力が備わります。猫は交尾排卵というメカニズムですから妊娠の可能性は約90%と高く、そして、妊娠期間も60日前後と大変短く、出産頭数は平均3~5頭です。さらに子育ての時期もたった3ヵ月と短く、しかも離乳中に妊娠可能となることも珍しくありません。 また、猫の発情期は春と秋が中心ですが、家族同様に大切にされている猫は、ほぼ年間を通して、妊娠、出産する傾向にあり、出産回数が年に3回という例もまれではなくなっています。このようなことから多くの子猫が生まれることとなり、新しい飼い主探しに苦労することとなります。
メス猫が発情すると、かなり遠くからオス猫が集まってきて鳴き声を交わすので、夜間など迷惑に感じる人も少なくありません。中にはトイレ以外の場所で放尿(マーキング)するものもいます。
オスの場合は子供の処置の心配はありませんが、発情期のメスを求めて鳴く鳴き声や、屋外と出入り自由に飼われている猫はメスがいる家へ侵入して尿マーキングをしたり、メスをめぐる闘争や威嚇のうなり声は近所の迷惑になるでしょう。
性成熟したオスは外出したがります。それを外出させないでいると、家中に尿スプレーをして回ります。また、よその複数のメス猫と交尾して妊娠させることにもなります。オス猫の尿スプレーの独特のにおいはとても耐えられるものではありません。
避妊、去勢のメリットは、以上のような問題解決のほかに、メスの場合は乳腺や子宮、卵巣などの疾病が、オスの場合は前立腺の疾病等が予防できます。
また、メスは妊娠、出産、育児から解放されるので、そのため老化が遅くなり、そして子育ての経験をしないために子供っぽい無邪気な気質を長く保つようです。 オスは、数日から長いときには10日間近くも飲まず食わずで発情中のメス猫を張り込んで家に帰らなかったり、放浪中、他の猫との接触で感染症にかかったり、ケンカによるケガや交通事故などに遭うことが少なくありません。去勢により、このようなトラブルが減少します。

3.屋内飼育

猫は餌が充分得られれば特に広い生活空間は必要としませんので、農村地帯や交通量の少ない郊外や庭付き住宅地などを除いて、都会では猫を屋内で飼うほうが猫にとって安全です。
猫は他人の庭に糞をしたり、鳴き声等、迷惑をかけたり、そのため猫がいじめられたりするだけでなく、交通事故に遭ったり、猫の多い地域では猫の伝染病の病気の流行も多く、接触感染の機会も多くなります。
また、外猫では餌やりの際の共有食器が感染源となり、結果として短命になるので、自由に屋外を徘徊できるようにするのは勧められません。特に屋外飼育では自由な交配が行われるので、野良猫を増やしてしまうこととなり、結果的に不幸な猫を増やしてしまうこととなります。
飼い始めた子猫のときから、その習性に充分配慮してやれば、屋内飼育にしても比較的狭い縄張りで満足するものなので、猫にとってはストレスになることもありません。また、留守がちで一頭で退屈している猫にとっては、もう一頭仲間を増やすことも良い対策であると動物行動学者は提唱しています。
屋内飼育の場合の配慮、注意事項には次のようなことがあります。
・避妊、去勢手術をする。これは屋内飼育をする場合の必須条件でもあります。避妊、去勢の効果等については前述したとおりです。
・トイレのしつけをする。このための快適なトイレを設置する。
・猫は犬と異なり高い場所によじ登る習性があり、この運動は猫の重要な部分をなしているので、立体的な運動ができるように配慮する。また、猫が遊べるような道具を与えたり、外を眺める場所を設けるなどして気を紛らわせてやることも重要です。
・猫から食べ物の要求があったり、「遊び」の要求などがあった場合、できるだけ応えてやり、また、時々話し掛けたり、なでたりして愛情深く接する。
・猫が嫌がらない程度に、ブラッシングやコーミングをしてスキンシップを図る。
・屋内に危険がないかを確かめ、屋内が猫にとって安全で、過ごしやすい環境を作る。例えば、テレビの上や飾り棚やたんすの上にあがってもよいようにしておく。

4.輪と飼い主の明示(迷子札)

猫の首輪をつけることは、猫が狭い場所をくぐり抜けたりした時に、首輪がものに引っかかって首を絞めかねないので、危険ではないかと言う意見もあります。
しかし、猫の行動を見ているとヒゲが何かの障害物に触れると、すぐに後戻りをするためよほど不運でない限り心配なく、これまでも首輪による事故報告というのは極めてまれです。もし心配でしたら、伸縮性のある首輪や多少ゆるめに首輪をつけておくと良いでしょう。
首輪や迷子札を日頃からつけておくことは、飼い猫であることと、飼い主を明示することになり、飼い主責任を明らかにし、近隣への迷惑防止、いじめから猫を守り、また、迷子や病気、あるいは交通事故の場合の速やかな連絡に役立ちます。

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