うさぎの飼い方
現在の飼いウサギは、アナウサギを家畜化したものである。初めて飼われたのは2000年程前のことで、主に食用とされてきた。地中海付近(イベリア半島からアフリカ北西部)で飼育されてきたが、ウサギの繁殖力が強かったため世界各地に広まった。中世の初めからウサギは修道院でも飼育されるようになり、修道士や修道院に宿泊する人の食料として飼育された。現在、オーストラリアやニュージーランドでは、野生化したアナウサギが農地を荒らすため、害獣扱いされている。地域によっては、捕獲者に賞金が支払われるところもある。 日本には16世紀頃オランダから渡ってきたが、明治以降、日本の軍事主義が拡大し、日清・日露戦争が激しくなるにつれ、毛皮は衣料、肉は食料として利用された。安価で簡単に繁殖ができるウサギは、国から飼育を奨励されたこともあった。その頃、日本では「白い毛に赤い眼」という日本白色種が各地で飼育されており、昭和4年にはその数は全国で660万頭にのぼったこれは、ウサギの飼育にスペースも経費もかからないという利点があったためである。第二次世界大戦後、ウサギが家畜として飼われることは激減し、医学の実験用やペットとしての飼いウサギが多くなっている。
分類
ウサギはもともと自然界に分布していたが、人間の手で移入されたかはともかく、現在は世界中に分布する動物である。過去には、げっ歯目にも分類されていたが、1912年、J.W.グリドリーが血清学的な相違と、小切歯という構造により、重歯目(ウサギ目)と新たなる分類を行なった。
俗称
ペットショップで見られるウサギの多くに、ミニウサギと命名されているが、ミニウサギと血統的に大きくならない小型種、そして中大型に成長する品種の幼若なウサギを指す。大抵は、後者であることが多い。
うさぎの品種
ペット用に改良され、ドワーフ(小型)種から大型種まで現在約150ものさまざまの種類がみられる。
ネザーランドドワーフ
オランダ原産でダッチを更に改良した。体重が1~1.5kgの小型種である。飼育者であるJ.メイジェリング、C.W.カーカー等がこの種類の普及に貢献した。顔が詰まっていて頭は丸く、尖った耳も特徴である。被毛も豊富で、活発な性格の個体が多い
ヒマラヤン
ヒマラヤ地方原産でイギリスで改良された。1800年代半ばにハンズーナハツハイム博士が、遺伝的な突然変異の種類であると照明した。体重は2kgで目は赤い。体は白く、鼻先、耳、尾、と四肢の先は有色(白、青、茶、藤色)である。猫のヒマラヤンは、ウサギの後に登場したため、ウサギのヒマラヤンから名前を借りた。
アンゴラ
トルコのアンゴラ地方を原産地とする。毛皮のためにつくられた種類で、毛の長さは約8cmである。雄より雌の方が毛質は上等で、体重1kgあたり0.2kgの毛皮が取れる。アンゴラ種の毛は大変軽く、羊の毛と比べるとその重さは4分の1程度。毛質は断熱と保温性に大変優れている。アンゴラ種はイングリッシュ、フレンチ、サテン、ジャイアントの4つの種類に細分化される。日本にアンゴラウサギが輸入されたのは大正時代で、イギリスから五党入ってきた。保温力があり、軽く、肌ざわりの良いアンゴラの毛織物はとても人気があり、昭和初期には日本各地度品評会が開かれた。また副業として飼育することが大流行となり、昭和17年にはアンゴラの飼育頭数が世界一までになった。この流行は昭和30年ごろまで続いたが、現在では毛を取るための飼育はほとんどされていない。
レッキス
原産地はフランスで、ビードロのような手触りの毛質である。もともとは毛皮種であり、毛の長さは15~18mmと短くてやわらかい。ひげは良くみると縮れている。オーバーコートとアンダーコートが同じ長さのため、毛の密度が濃く見える。1919年、突然変異によって毛がほとんどはえていない仔ウサギが発見され、兄弟姉妹を掛け合わせてつくられた。生後7ヵ月ぐらいの仔ウサギの毛皮が高級だといわれている。最近はレッキスとドワーフ種を交配してミニレッキスといる小型種もみられる。
フレミッシュジャイアント
ベルギーのフランドル地方原産で、ドイツで食用に改良された。耳は厚く、先がスプーンに似た狭いV字型を描いている。体重も5~8kgと最大種である。ジャイアント種にはアメリカン、ブリティッシュ、ジャーマン種などがある。飼育種としては向いていない。体重を十分に支えることが困難で、四肢に障害がおきやすく、また暑さにも弱い。
ジャパニーズホワイト
フレミッシュジャイアントとニュージーランドホワイトの交雑種で、日本で作られた種類であり、白い被毛と赤目が特徴である。体重は4~5kgで元来は毛皮と食肉用だったが、現在その数は減少している。
ニュージーランドホワイト
アメリカで作られた、一般的なウサギである。食肉用、毛皮用、研究用など多用途である。
うさぎの性質
ウサギは夜行性で、明け方と日暮れ頃に最も活発に活動する、これはウサギの視力に関連している。しかし、ある程度は人の生活時間に適応することができる。眼をあけたまま眠ることができるのは、もともと外敵の多いウサギが、不意に襲われてもすぐ逃げられるように身構えている為と推測される。ただし、よく観察すると眠っている時はうつろな目をしていたり、瞬膜がかなり伸展していることもある。また外敵に対して聴覚が発達し、逃走するための脚力も発達している。
骨格
骨は弱く骨折しやすい。骨質は猫の3分の1であり、特に長骨や腰椎に骨折が多発する(猫では体重の13%に比べ、ウサギでは8%)。
・頚椎7、胸椎12~13、腰椎7、仙椎4~5、尾椎15~18である。胸椎は小さく、腰椎は大 きい。肋骨は12~13対である。
・鎖骨は前肢を器用に使う動物の場合発達しているが、ウサギにも小さい鎖骨がある。ア ナウサギであるので前肢が意外と発達している。
・下腿骨の脛骨と腓骨とが遠位で完全に一体化している。
・指の数は、前肢は5本、後肢は4本である。前後肢とも犬猫のようなパッドがなく、ブ ラシ上の毛が生えて、クッションの役をしている。また、この毛によって走行中に硬い地面をとらえやすくしている。
・尻尾はへら型で、短くフワフワしている。危険を感じると尾を立てる。また、弱い雄は 強い雄に対して尻尾を下げ、服従を表す。
外皮
生理的な皮膚の現象として、皮膚が部分的に肥厚してその部分の毛の発育も早くなる現象(アイランドスキン)がみられる。原因は不明であるが、遺伝的、季節的、あるいは換毛の時期と関係しているとも言われている。
・耳介は長く、品種によっても異なる。ウサギの耳も特徴は聴力を高める集音の役目を担う点である。これは外敵から身を守るためである。密な末梢血管があり、皮膚の汗腺機能が未発達なため、体温を放散することで体温調節に役立っている。また、耳を動かすことで、他の個体にサインを送る役目もある。
・顎と肛門部と鼠経部に臭腺を有する。いわゆるウサギ臭いにおいは、ここから由来する 分泌物が原因であり、肛門と鼠経部の分泌物は炭水化物、グリセル基を含まないエステル、遊離脂肪酸、コレステロールからなっている。一方、顎の分泌物は蛋白と結合した炭水化物の混合物からなる。首の下を物にこすりつける習性が顎の臭腺の臭いつけであり、頭を左右に動かす。一回の臭いつけは5秒程も続く。雌より雄の方が、このような行為を3倍の頻度で行なう。また雄の中でも優位なものが頻繁に行ない、自分のテリトリーを主張している。これらはテストステロンの支配によるものである。
・肛門のわきには鼠経腔があり、その中に臭腺があるため、分泌物が溜まりやすい。
・咽の下にはたるみができることがある。これは太った雌に多くみられ頚袋、肉水、肉垂 と言われている。雄にはほとんどみられないか、あったとしてもそれほど大きな物にはならない。
・雌は4~5対の乳頭を持つ。ドワーフ種は数が少ない傾向にある。
口腔
上唇裂といって上の唇が縦に裂けており、自由に開いたり、閉じたりする。口のなかには切歯と臼歯の間に厚い頬粘膜が張り出している。
・胎生期にはすでに乳歯(計16本)を持つが、切歯は出生前に吸収され、生後40日齢 までには乳臼歯も永久歯に生え変わる。歯式は2(2/1 0/0 3/2 3/3)で全部で28本である。かつてはウサギはげっ歯目に分類され、その切歯の特徴から重歯亜目と呼ばれていた。切歯は一年で10~12cm伸び、その唇側面に縦走する一本の溝がある。そして上顎の切歯は4本で、大きな切歯の裏に小切歯が並んで生えている。この小切歯は小さく円柱状である。切歯のエナメル質は前面は非常に厚く、後面はほとんどない。つまり硬いエナメル質が前面にあるので後面よりも摩耗が遅く、ゆえに鋭い切断面を形成している。また切歯も臼歯も混尖が開いており、一生成長を続ける常生歯である。
消化管
胃は単胃構造で、胃底部が大きい。一方、盲腸は大きく、胃の10倍の大きさで重要な消化過程を営んでいる。盲腸は右側にやや片寄り、右腹腔の大半を占めている。ここでは蛋白質の変換と繊維の消化が行なわれ、繊維質消化には、盲腸および結腸内の繊維素を分解する細菌、あるいはプロトゾアを必要とする。大腸の菌叢は独特で、ほとんど嫌気性菌Bacteroidaceae科 Bacteroides属であり、これがセルロースを分解する。
・原則的には嘔吐は起こらない。これは、胃の噴門と幽門が接近し、胃盲嚢を形成し両方 の門の径が小さい為である。肝臓は外側左葉、内側左葉、方形葉、外側右葉、内側右葉、尾状葉の6葉からなる。内側左右葉に胆嚢が位置する。
・通常ウサギの糞は大きく分けて2種類ある。硬便と、柔らかい盲腸便である。ウサギは繊維質を盲腸にためて、腸内細菌に発酵させ、多量の蛋白質(腸内で死んだ細菌)とビタミン類を含んだものに変える。それを再び食べて胃腸で消化する仕組みを持つ(食糞)従ってウサギの食糞行動は必須な行為である。約3週齢から始まり、通常は夜中から早朝にかけて肛門から直接食べることが多い。人の目に触れられることは稀である。食糞の糞(盲腸便)は柔らかく高蛋白、高ビタミン(ビタミンB12、パントテン酸、リボフラビン、ナイアシン)でみずみずしい(一日の排泄量の60~80%)。ドイツ語では、盲腸便のことをビタミン便とも呼ぶ。
・回盲末端部は1つの袋のような構造物、すなわち円形の小嚢(膨大部)がみられる。大 腸は太く、結腸隆起と呼ばれる小嚢と外側に縦走する筋肉帯である結腸ヒモが特徴であるが、内容物が長く滞留するので、微生物によるセルロースなど繊維質の消化に都合がよい。小腸において消化を受けた内容物は、ラセン形をなす盲腸壁に沿って虫垂(盲腸先端部)まで流れ込み、次いで盲腸中央部を通って盲腸基部へ戻る。
胸腔
気管挿管は困難である。開口範囲が狭く、切歯と臼歯の間に頬粘膜が張り出しているためである。
・胸腔は極端に小さく、肺活量も少ない。肺は左肺は前葉、後葉の2葉、右肺は前葉、中 葉、後葉、副葉、の4葉に分かれる。肺活量の少なさにより持久力は持たず、長時間の無理な保定でも低酸素症を起こす。
・体の大きさの割には心臓は小さく、同じサイズの猫と比べるとほぼ半分である(心体重 比は犬で約1%、ウサギでは0.2~0.4%)。なお右房室弁は二尖弁である。
・心臓の前腹側面上に横たわっているのは胸腺である。他の動物とは異なり、成長しても胸腺はその大きさを維持している。
泌尿生殖器
雌は重複子宮で膣は2つに分かれ、それぞれに独立して膣に開口している。
・雄は無毛の陰嚢を持つ。また左右の精巣上体から出た輸精管は膀胱の後方で精管膨大部 を形成し、精嚢と合流する。精嚢の後背側に小胞腺があり、精嚢と小胞腺を合わせたものが他の動物種の精嚢に相当するものと思われる。
生理
絶食が続くと脂肪肝になりやすいので、強制給餌が必要になる。
・アトロピン分解酵素を持つので、アトロピンに関連した薬剤を不活化する。この酵素量 は遺伝的な特徴であり、犬猫のアトロピンの用量では効果はみられない(1~3mg/kgを必要とする)。
・抗生物質は腸内細菌叢に変化をきたし、腸性中毒を起こすものがある(リンコマイシン、 クリンダマイシン、ペニシリン系、マクロライド系)。また、腸蠕動を妨げる可能性のある薬も避ける(アトロピン、ブスコパンなど)。
・尿の色は黄色から茶褐色不透明である。多量の炭酸カルシウムとリン酸アンモニウム マグネシウムを含んでいるためである。尿色は、ポルフィリンおよびビリルビンの誘導体に加え、脱水や高カルシウム飼料で濃くなる。
・夏期交配は甲状腺機能低下と精子形成減少のため受精能力が低下する。
・白血球の増加が必ずしも感染に起因する感染症を示すわけではない。
・好中球はエオジン好酸性顆粒がみられるへテロフィルである(偽好酸球)。
視覚
視野は、眼球が頭蓋の両側に位置しているために広く、片目あたりの視野は、約170~190度である。左右の両目の視野はほとんど自分の背後まで見える360度程となる。野生では、その視野の広さで捕食動物から逃走して生き延びている。反面、両目を使って見える範囲は狭く、約10度程しかない。このことは、近距離のものが見えにくく、識別しづらい(立体的に見えづらい)ために認識力に欠けていることを表す。ウサギの網膜はかん体系、錐体系の両方の細胞を有し、レンズは多くの光を集めることが可能である。瞳孔反射を瞬間的に行なうため、明るさに対する適応力は低いが、人の約8倍の光への感度を持ち、わずかな光の中でも比較的良くみることができる。そのため、本来は夜行性であるといわれているが、実際は、明け方と日暮れ頃の薄暗がりの時間帯に活動する。ジャパニーズホワイトなどの白ウサギにみられる赤い目は、虹彩のメラニン色素の欠如により、網膜の裏側の血管が透けて見えるためである。ウサギの目の色はその他に、グレー、ブラウン(ナチュラル)、ブルーなどがあり、左右の目の色が異なる「バイアイ」、一つの目の中に2つの色が見られる「パーティーアイ」などがある。
嗅覚
多くのにおいを嗅ぎ分けられる優れた嗅覚を持つ。ピクピクとよく動く鼻は、揮発性のごくわずかな臭いでも感知すると言われている。どのウサギの臭い付けかを尿の臭いで識別できるほど嗅覚は鋭い。このように嗅覚が敏感なために、焦げたような臭い(たとえば焼肉などのにおい)、あるいは香料入りの洗剤、香水などはウサギには強すぎることがあるといわれている。
聴覚
耳の形が細長い「じょうご形」をしており、集音効果が高く、小さな音も聞き取ることができる。左右の耳はそれぞれに別の音も方向に向くことができ、360度の音源を聞き分け、その位置を確認することができる。外敵の多いウサギは、視覚と同様に聴覚を発達させて身を守るのである。優れた聴覚を持つウサギの近くで、大きな物音を立てること(ドアをバタンと閉めたり、大声を立てたり、犬が近くで吠えるなど)は、敏感なウサギを怖がらせることになる。
味覚
ウサギは約8000種類の味も判別できる(犬は約48000種類)とされているが、ウサギの味覚は、好き嫌いの区別のためで、有害なものの判別はできないといわれている。
触覚
ウサギは身体の表面全体で刺激を感じている。また、頬ヒゲでその場所の幅を測り、暗闇の中で道を見つけたりする。そのため、ヒゲを切ったり、引っ張ったりしてはいけない。欧米では外鼻孔をピクピクさせる動きは人気があり、「鼻でウインクする」などの表現がある。ちなみに1分間に20~120回も動かすことができる。
うさぎの発情
ウサギは周年繁殖動物の交尾排卵動物の為、ハムスターのように周期的な発情、排卵を繰り返さず、交尾により排卵を行なう。ウサギの場合、発情が長いことが特徴で、1~2日間の休止期と4~17日の許容期が繰り返される。交尾が行なわれないと卵胞はしばらく存続して退行し、新たの卵胞が相次いで発育する。卵巣には常に発育卵胞が数個存在しており、卵胞期が持続することで、持続発情を呈する。許容期には外陰部の腫脹および色の変化(桃色、赤色および紫色)が明瞭である。 許容期の行動として、雌は下顎の臭腺を物や他の動物にすりつける動作(Chin Mark)や、腰部を軽く押したり、または雄が乗駕しようとした時に、尾部をあげる許容姿勢(lordosis)が見られる。雄は縄張りの為に尿を飛ばしてにおいつけをしたり(marking)、人の腕や足などにすがり付いて腰を振り動かし、精液を出すような行動がみられる。気が荒くなって人に噛み付くものもいる。
性成熟
雌の性成熟は日照時間に影響を受ける。個体差があるものの、4ヶ月~1年である。長日では春季発動が早期に生じ、産仔数も多い傾向がある。 一方、雄の性成熟は、日本白色種では生後120日頃である。生殖が可能になるのは約6ヶ月である。雄の性成熟は日照時間以外に雌の尿臭が影響する。性成熟に達し後、雄は盛んに後肢で地面を床を打ち鳴らしたり、ケージの外へ放尿したりする。生殖可能な雌を同居させると、雄は雌を追い掛け回し、雌が許容姿勢を示すと乗駕姿勢し前肢で雌を抱える。口で雌の後背部をくわえ交尾運動を何回か行なった後、陰茎を挿入、射精し、奇声を発しながら雌もろとも横転し、交配が完了する。
排卵/妊娠
排卵は交尾後9~12時間から認められる。交尾が成立すると、数分内に中枢興奮伝達が始まり、1時間以内に黄体形成ホルモン(LH)が分泌される。妊娠期間は30~32日であり、多くの場合分娩は、朝方に見られ、夜間には数%といわれている。また、分娩後の交尾により、排卵、妊娠が可能である。産仔数は加齢とともに、平均よりも少なくなる。年8回まで出産可能である。授乳は1日に1回といわれており、授乳時に新生児を乳頭に誘導するフェロモンの存在が知られている。これは自然下でのアナウサギに敵が多く、子供の存在をできるだけ目立たせないように隠そうとするためである。なお偽妊娠期間は15~16日である。
新生仔
新生仔の開眼時期は、生後約10日目からである。この頃になると歯も生えてきて噛み始める。消化器官の機能が完全に発達し、固形の餌や消化しにくい植物、果物に対応するのが6週以降だが、6~7週で致命的な下痢を起こしやすい為、もう1~2週は母親と一緒して様子をみた方がよい。そのため里子に出すのは8週以降が安心である。早いところでは4週目で販売しているペットショップもあるが、腸疾患の発生などで育てるにはリスクが大きい。
雌雄鑑別
幼齢時は雌雄を見分けるのが大変難しい。3ヶ月を過ぎると、雄は睾丸が陰嚢に降りてくるので見分けがつきやすくなる。また肛門寄りの下腹部に、対になって2つ細長いむき出しの袋状の陰嚢が見えるようになる。陰嚢の外観はピンク色でやわらかそうに見える。雄は鼠経管が開いているので腹腔内と陰嚢内を自由に移動できる。雄の生殖突起は丸く開口するが、雌は縦にスリット状に開口する。
ウサギの飼育
ケージ
屋内ケージで飼育する方法と屋外の小屋で飼育する方法をがある。どちらにするかは家の状況や自分の好み、ウサギの種類によって選ぶとよい。 屋内飼育の場合:長所は様子をいつも観察できることと雨風に直接さらされないことである。一方、短所は世話や掃除がいき届かないと排泄物臭が部屋にこもってしまう事である。*理想的なケージの広さ;体重2kg未満まで 約0.45㎡ 体重5kg以上 約1.5 ㎡市販されている大きいラビットケージ(50cm×50cm)であれば、1頭もしくはペアでも十分である。ケージの床は、すのこか平板にして、わらや新聞紙などの床材を十分に敷くとよい。また衛生的な管理を望む場合は、床がメッシュタイプのケージで、メッシュの大きさが約2.5×1.2cmか1.5×1.5cmのタイプの使用が勧められる。
水入れ
餌や床材を散らかして、餌の上に乗って食べる性質があるので、餌入れははめ込み式か壁掛け式が清潔である。もしくは陶製の重いものを使用し、ウサギがひっくり返さないように注意する。
餌入れ
給水ボトルを使って与えるのが最適である。糞便による汚染を防ぎ、被毛の乾燥を保つにはこのスタイルが理想的である。床に置くタイプの水入れの場合、ウサギが容器の中に入ったり、口でくわえて放り投げたりするため勧められない。使用する場合は、ある程度重さのある鳥用の陶器の水入れにするとよい。それでもくわえることは可能なので、ケージに固定する。
屋内で遊ばせる時に注意するもの
電気コード・電話線
電気コードや電話線をかじって、感電したり漏電したりする為、特に危険である。ウサギが噛みきった電気コードが原因で引火し、火事になったという例もある(ペット災害)。コード類はまとめて高い位置にはわせるか、カバーをかけると良い。ドアの開閉・人間の足元:よく人間の後ろをついて歩いたりするため、踏まないよう足元には十分注意する。
テーブル周辺
ウサギは急に怒られるとテーブルの上からでも飛び降りることがある。高い場所にあがる足掛りになりそうなものは、遊んでいる間でも片付けておくと、飛び降りによる骨折を回避できる。
異物摂取
ビニール製品や発泡スチロールなどがこれに当たるが、体外に排出されれば問題はない。しかし、排出されない場合、胃や腸に閉塞が起きる可能性がある。ビニールや輪ゴムなども注意する。また、観葉植物の中にはウサギが食べないほうが良いものがあるため注意する。
屋内飼育の場合の運動量
運動させる決められた時間は特にない。完全ケージ飼いのウサギはケージの外に出ても、ずっと走り回っているわけではなく、寝転んだりじっとしている時間のほうが長い。運動させなければならない、ではなく、息抜きやコミュニケーションをとるくらいのつもりで行なう。
屋外飼育の場合
市販の小屋や自作の小屋を用いる。屋外飼育は常に目が届くわけではないので、温度湿度に気をつけることが必要である。土を掘って巣穴を作り、そこで生活するアナウサギが飼いウサギの原種であるため、床材はできれば土のほうが良い。冬は床が冷たくなるので、干し草やわらをたくさん入れることが必要である。隙間風が入らないように作るか、別に巣箱を入れると良い。また、湿気に弱いので、水はけが良くなるように工夫する。肢の負担を軽くする為にも、すのこやわらを敷く。もともとコロニーをなして住む習性があるので、複数での放し飼いも十分な広さがあれば可能である。雄1頭に対して雌は6~8頭が最適である。
屋外の場合の危険
毒のある植物
散歩中に野草を食べさせても良いが、もちろん有毒であるものを食べさせてはいけない。
他の動物
犬や猫はとても危険で、一噛みでウサギが死亡してしまうこともある。外に出す場合は、必ず人がついてみていることが必要である。
飼育温度、湿度
理想温度18.3~23.9度 理想湿度30~50%
まずは、適当な換気、定期的な排泄物の清掃またはアンモニア濃度を低下させる処置が必要である。ウサギは基本的に、暑さに弱く、寒さに強い動物である。約30度以上の高温では熱射病になりやすい。また、湿気にはとても弱いので、梅雨の時期などは風通りを良くする。
屋外で飼っている場合は、当然、冷暖房機などはないので、ウサギは自分で快適な場所を見つけ、そこでしのぐことになる。夏は日差しの避けられる風通しのよい場所を、冬は反対に日当たりがよく、冷たい風が吹き込まない場所を確保する。しかし5度以下になる場合暖房するか、寒さを防ぐ工夫をする。
室内で飼っている場合は、通常、人が快適な湿度に設定されているため、ウサギにとっても過ごしやすい環境といえる。
トイレ
ウサギと言うと「臭い」と言うイメージがある、体臭はほとんどないが、排泄物はかなりにおう。正常な糞は、乾燥しているため臭いは少ないが、下痢をした時の軟便は独特の臭いを放つ。また、尿は体調にかかわらず臭う。そのため、最近では、尿臭をとる消臭剤入りペレットが市販されている。しかし、完全に臭いがなくなるとは言い切れないのが現実である。効果はあるようだが、どれだけ効いているのかは不明である。この臭いは、トイレやケージの掃除を頻繁に行なえば、特に気になるということはない。
トイレのしつけ
野生のアナウサギは穴の内外でトイレを決めている。そのため、飼いウサギも犬猫と同様にトイレのしつけをすることができる。ただし個体差があり、数日で覚えるウサギもいれば、数ヶ月かかるウサギもいる。
トイレの場所
ウサギは、隅のほうでトイレをする習性がある。ケージの隅、部屋の隅、小屋の隅などをトイレの場所にする。トイレ用の器具として、猫用トイレや、浅いトイレなどが使われることが多い。しかし床にすのこつきのケージであれば特に用意をせず、そのままケージの下のトイレに落とさせることができる。
いずれの場合も、トイレの場所にはペット用のシーツや猫砂などを敷いておくと、後始末が簡単になる。仔ウサギの頃はトイレの場所が定まらない。
掃除について
ケージ
ケージは飼い方(完全ケージ飼いか室内放し飼いか)や大きさにより異なるので、それぞれにあった掃除を行なう。大きさなどに関係なく共通しているのは、底に新聞紙やペットシーツを敷いていることである。これは汚れ具合により、毎日または何日かおきに取り替える。特に梅雨の時期は、ウサギの嫌いな湿気がこもりがちになるので、なるべくこまめに取り替える。また、頻繁にできなくても、ケージ全体を水洗いして日光消毒すると良い。
トイレ
室内やケージ内に設置してあるトイレは、毎日掃除する。猫砂やペットシーツを取り替えるだけではなく、水洗いもせめて何日かおきにすると清潔である。尿の結晶はアルカリ性なので、乾くと白く尿の跡が残るが、酢で溶かしてから拭くと簡単に取れる。 餌入れ:餌入れは、餌を与える時に乾拭きをする。これはペレットなど乾いた餌を与える場合のことで、野菜など水分の多い餌を与える時は、食べ終わった後水洗いしてきちんと乾かす。
水入れ
水入れは、ボトルタイプのものが多く使われているようだが、洗いにくいのが難点である。これは、水筒などを洗うブラシを使えばきれいに洗える。吸い口のほうについているゴムの部分のぬめりもきちんと取ることが必要である。その他、受け皿タイプの水入れは、ウサギが肢を入れたりして汚れやすいので、こまめに水洗いや熱湯消毒すると良い。
餌について
ウサギは完全な草食動物であり、野生のウサギの餌は野草の茎、樹皮などで栄養が乏しく、粗繊維を多く含んでいる。その一方で、ウサギの消化器系統は非常にデリケートである。飼育下ではバランスを考えて与える。
餌の量はなくなったら足すという方法もあるが、中には食べ過ぎてしまうウサギもいるので、できれば一度に食べ切れる量を1日2回に分けて与えるよう習慣づけると良い。ペレットには給餌量が明記してある。基本的には干し草を中心に野菜、野草を常に置き、ペレットは日に2回与える。その他のものはコミュニケーションとして時々与える。
野菜類
与えても良い野菜:にんじん、ブロッコリー、パセリ、カブの葉、ちんげん菜、大根の葉、小松菜、サラダ菜、セロリ、みつば、カリフラワーなど与えないようが良い野菜:ジャガイモの芽と皮、生の豆、玉ねぎ、にらなど
干し草
マメ科:アルファルファなど
イネ科:チモシーなど
野草
与えても良い野草:タンポポの葉、ノコギリソウ、ヒレハリソウ、ハコベ、クローバー、フキタンポポ、ペンペングサ、アルファルファ、オーチャードグラス、イタリアングラスなど
中毒を起こす可能性がある植物
アサガオ、アジサイ、アマリリス、イチイ、イラクサ、イヌホウズキ、ウルシ、オシロイバナ、オトギリソウ、カジュマル、カポック、カラジュール、キョウチクトウ、クリスマスローズ、ケシ、ゴムノキ、サツキ、サトイモ、サフランモドキ、ジギタリス、シダ、シャクナゲ、ショウブ、ジンチョウゲ、スイセン、スズラン、西洋ヒイラギ、セントポーリア、チョウセンアサガオ、ツツジ、ツゲ、ディフェンバギア、デルフィニウム、ドクゼリ、ドクニンジン、トチノキ、トリカブト、ナツメグ、ヒヤシンス、ベゴニア、ベンジャミン、ホオズキ、ポインセチア、マロニエ、ヨモギギク、ワラビなど
果物
与えても良い種子類:大豆、落花生、えん麦、大麦、小麦、ふすまなど(ピーナッツの殻、トウモロコシなどは腐ると発癌性のアフラトキシンが発生する)
ペレット
最近はいろいろなメーカーからウサギ用のペレットが市販されているが、ウサギによって好みも色々ある。一般的にはソフトタイプのほうが嗜好性が高い。しかし、なるべくなら小さくて硬いハードタイプのペレットが理想的である。ペレットの大きさとしては、直径0.3~0.5cm、長さ0.3~0.6cmのものが望ましい。具体的には、小さくて歯をよく磨耗できるような硬いものが良い。ソフトタイプは軽い咬合力で砕けて、磨耗を行なわないので不正咬合の原因にもなる。微粉状にしたアルファルファは腸炎を起こしやすいといる報告もある。不消化な繊維質の存在が、盲腸および結腸の上皮粘膜組織の維持に必要な為であろう。 ウサギはでんぷんを効率よく消化するが、6~7週齢までは消化酵素の働きが十分でないので、離乳後2週間は飼料中のでんぷん含量を15%以下にしておく方が良い。ウサギのペレットは、通常次の成分を標準とする。
- 粗蛋白質:大人のウサギの維持では12~15%
成長中の6ヶ月以上では16~18%
妊娠と授乳期では15~19%あるいは20% - 粗脂肪:維持では2~4%
成長では3~6% - 粗繊維:維持では16~25%
成長では12~16%
ウサギの偏食
餌に関しては保守的で偏食が多いため、幼齢時から適切な多種多様の餌を与える必要がある。
妊娠、授乳中の母親の餌
母親には、妊娠中から多彩で栄養のある食べ物、それにカルシウムとビタミンを加えて与える(ヨーグルトや小松菜など)。また、母親はたくさんの乳を出さなくてはならないので、多くの水分を必要とする。ペレットを主食としている場合は特に、出産から離乳までは水を切らさないようにする。
新生仔の餌
新生仔の食餌は、授乳中は母親の乳で十分である。4週目頃から乳量が減り離乳期に入る。母親と一緒に餌を食べているようであれば心配ない、食べにくそうであれば、ペレットを砕いて与える。
水
初めは飲み方が分からないウサギもいるので、飲んでいるかを確認し、飲み方を教える必要がある。ウサギののどが乾いている時に、口を水の飲み口に近づけて、水を少し出してやると覚える。
量はあまり飲み過ぎて下痢をするようであれば控えめにする。野菜からも水分を吸収できるので生野菜を多く与えた時は水を加減する。生野菜を多く与えると水を全く飲まないウサギもいる、主食がペレットの場合は必ず水を与える。水が不足すると採食量が減少したり、結石などの疾病が多く発症する。また授乳中の母親では、更に多くの水を必要とする。水は、必ず毎日取り替える。ウサギは湿気に弱い動物の為、水漏れなどで床がぬれないように注意する。
エネルギー
成長期のウサギは、体重1gの増加に約9.5kcalの可消化エネルギーを必要とする。ペレット1kg当たり2500kcalの可消化エネルギーであれば、成長が早い。また、2500~2900kcalのペレットを摂取した雌ウサギは繁殖が良好である。
ミネラル
飼料のカルシウム値が血清カルシウム値に直接反映される。これは、カルシウムの恒常性維持力に乏しく、甲状腺からのカルシトニン分泌が少ないためである。またウサギは、カルシウムの排泄経路は尿である。
要求量としては、リン0.22%、カリウム0.6%、カルシウム0.4%、飼料1kg中にマグネシウム300~400mg、銅3mg、マンガン8.5mg、妊娠および授乳ではカルシウム0.45%、リン0.37%を必要として、飼料中のカルシウム濃度が高い場合には、マグネシウムの要求量も高くなる。銅が欠乏すると貧血が起こり、毛が灰色になる。またマンガンが欠乏すると、骨格の発育不良などが見られる。
ビタミン
4~12週齢の成長期における要求量は、ビタミンA6000IU/kg、ビタミンD90IU/kg、ビタミンE50ppm、チアミン2ppm、リボフラビン6ppm、パントテン酸20ppm、ピリドキシン2ppm。さらにカロテン0.83ppmである。
お手入れについて
ブラッシング
ウサギの毛は大きく分けて春と秋の2回、冬毛から夏毛へ、反対に夏毛から冬毛へと抜け替わる。しかし、よくみると全部で4回換毛している時もある。時期や期間は個体によって異なるが、ほぼ全身の毛が抜け変わる。抜け方も、まとまって抜けるウサギもいれば少しずつ抜けるウサギもいる。大抵は、毛繕いすることでウサギ自身舐めとってしまうことが多いが、毛球症に注意する。ウサギは猫のように毛玉を吐き出すことができないので、まめにブラッシングを行なう。特に換毛期にはブラッシングをまめにする。またアンゴラ種などの長い毛を持つウサギには、毎日してやらなければならない。なお、口元の毛は常にカットしておくと、餌とともに毛を飲みこんでしまう誤嚥を防ぐことができる。
シャンプー
基本的には不要である。犬猫と異なり、ウサギ自体には体臭がなく猫と同じくらいきれい好きで、自分で手入れを行なう習性があるため、シャンプー(入浴)の必要がない。しかし、下痢などで臀部が汚れた場合や換毛期においては有効と思われる。ドライシャンプーは、ストレスにならなければ問題ないであろう。
爪切り
爪の中に血管が通っているので、その先を切る。伸びすぎると、絨毯その他に引っかかり折れることもある。犬猫と同様に家庭でも切れるが、暴れることがあるなど難しい面もある。
道具として人間用の爪切りは、切るのではなく割ることになるので勧められない。犬猫用(歯に丸い穴がある)の爪切りでちいさいサイズのものが良い。慣れないうちは、抱く係と切る係りとに分かれたほうが安全である。切る際に、ウサギがおびえて足蹴りなどして暴れることがあるので、暴れないようにしっかりと抱く。一人で切る際は、前肢の爪を切る時には胴体から後肢にかけて、後肢の爪を切る時には、前肢から胴体にかけてバスタオルなどをきっちり巻きつけ、仰向けにして切ると良い。
歯の磨耗
ウサギは顎を側方に動かして、餌をすりつぶして嚥下する。そのため、臼歯は磨耗され、なおかつ同時に切歯も摩耗される。従って一般に市販されている歯を摩耗させるというスナックタイプの餌もあまり有効でないものが多い。摩耗性の高い繊維成分を多く含む食物(野菜、野草の茎、干し草等)が適していると思われる。
毛球症の予防
ウサギは几帳面に毛繕いするが、猫と違い消化管に毛玉ができても吐くことができず、幽門が小さいので、胃内で毛球となって閉塞する。毛球症の予防のために次のようなケアーが絶対的に必要である ・ラキサトーンを週に一度1cc/kgを飲ませる。
- ・ブラッシングを毎日行う。長毛種には特に必要である。
- ・グルーミングの回数を減少させ、ストレスを回避させるために運動量や遊ぶ回数を増やす。
- ・繊維成分の多い野菜、野草、干し草を給餌し、消化管の運動を活発にさせる。
- ・パパイヤ酵素、パイナップル酵素剤を投与する。
消化器疾患について
幼若なものは急性に起こりやすい。食餌(炭水化物の過剰摂取、食物繊維の不足)、ストレス等によって胃腸運動が抑制されることが大きな要因となる。
毛球症
ウサギは毛繕いをするが、消化管の中に毛玉ができても嘔吐できない。また、幽門が小さいので、消化管内で毛玉となって閉塞する。誘因として高炭水化物、低繊維の食餌、ストレスやホルモンなどが考えられる。特に小型のウサギに好発する。症状は食欲不振、正常便の欠如、消化管内ガス貯留等で、次第に飲水だけを行い体重減少がみられ、衰弱してくる。
触診での診断のほかには、レントゲン検査、バリウム検査などを行う。治療は内科的に毛球除去剤消化管運動を亢進させる投薬を行う。イレウスもしくは毛以外の異物であれば外科的に切開を行う。
盲腸便秘/盲腸鼓脹
盲腸内に糞が停滞したり、同時にガスがたまることがある。症状は食欲不振、便秘などである。そのほかの消化器疾患(不正咬合、毛球症等)の併発症としてみられることが多い。腸閉塞がみられると死亡率はかなり高い。
寄生虫感染症コクシジウム
ウサギに寄生するコクシジウムはEimeria属である。腸に寄生するものはE.irresidua(小腸)、E.magna(大腸)、E.media(小腸と大腸)など8種がみられる(腸寄生が7種、肝寄生が1種)。食物や水による経口感染が主であり、腸の上皮に感染し、有性ならびに無性生殖によって増殖する。腸の感染による症状はまれであるが、濃厚感染を持つ動物は激しい下痢を起こし、しばしば致死的である。症状は幼若なものに発生することが多く、発育不全や体重減少が顕著となる。診断は糞便の浮遊法検査によって確認され、治療はコクシジウム抑制剤の投与である。
ウサギ蟯虫(Passalurus ambiguous)
盲結腸に寄生し、片利寄生であるため病原性はほとんどない。診断は肛門周囲に産卵するため肛門のセロハンテープ法や直接発見を行う。成熟期間が短く直接感染のため防御は困難である。
豆状条虫(Taenia pisiformis)
終宿主は犬、キツネで中間宿主はウサギとげっ歯類である。六鈎幼虫が中間宿主に取り込まれると、腸粘膜、体網で嚢尾虫に発育する(約45日)。嚢尾虫は豆状嚢尾虫Cysticercus pisiformisと呼ばれる。終宿主に捕食されると犬では40日、キツネでは85日で成虫となる。
腸性中毒
Clostordium spiroformeの毒素様物質による毒素の腸と血管における透過性の変化が原因とされ、Spiroforme Mediated Diarrhea(SMD)とも呼ばれている。症状は元気消失、食欲不振、水様性下痢(タール状の黒色~茶色)、鼓脹、腹部疼痛で、うずくまった姿勢で歯ぎしりをみせることもある。最後には麻痺や痙攣がみられ死亡する。症状は急性で数時間から3日以内に起こる。誘因は細菌、真菌、寄生虫、抗生物質、ストレスなどさまざまである。生前診断は困難で、病理解剖診断や盲腸のグラム染色による分離で診断する。治療は困難である。
粘液性腸疾患
3~10週齢の幼若なものに好発する。腸内にガスや液体がたまり、発病したウサギは致死的である。症状は食欲低下、多渇、下痢(タール状の黒色)、歯ぎしり、鼓脹、脱水である。胃酸過多、液体貯留の盲腸拡大、最終的には盲腸の閉塞と結腸の粘腋分泌等が一連に発生する。診断は組織学的に腸粘膜の杯細胞が過形成している所見である。
ロタウイルス
ロタウイルスは腸の常在細菌叢の一つである。このウイルスは時に、二糖類分解酵素を産生する細胞を破壊したり、糖類を過剰に貯留させて軽度の病原性を示す。
抗生物質性胃腸疾患
ウサギに禁忌とされている薬剤の使用によって起こる。つまりグラム陽性好気性菌やグラム陰性嫌気性菌の一部に効果のある抗生物質である。しかし状態や年齢、環境によっても感受性が異なる。症状は胃潰瘍、腸内細菌の破壊による腸性中毒などさまざまである。発症は抗生物質摂取後、数時間から3日以内に起こる。治療は胃粘膜保護剤、乳酸菌、不適切な抗生物質投与の中止である。
禁忌薬剤
リンコマイシン、クリンダマイシン、エリスロマイシン、タイロシン、スピラマイシン、オレアンドマイシン、ペニシリン、アンピシリン、アモキシリン、セファレキシン等
消化器疾患について
ウサギは高湿度に弱く、皮膚疾患が発生しやすい。表皮は非常に薄いので損傷に弱い特徴がある。
細菌性皮膚炎
- 飛節潰瘍sore hock
- 環境の不備(ワイヤーメッシュや固い床、過小ケージの運動不足など)、肉球のない足底、肥満、爪の過長などが関与した飛節の細菌感染である。症状として潰瘍がみられ、過角化症、慢性炎症に発展し、動くのを嫌うようになる。原因細菌はStaphylococcus、Pasteurella、Salmonella、Streptococcus、Pseudomonasなどである。治療は発症の原因を改善し、抗生物質の投与を行う。また、環境の消毒を行う。
- 湿性皮膚炎
- 高温多湿が関与し、肥満の雌に好発する。不正咬合によるりゅうえん流涎で口の周りにも発症する.尿や臭腺が原因となり、下腹部や肛門にも発症する(Hutch burn)。また水や餌がこぼれ、肉垂が持続的にむれるために発症することもある(Wet dewlap)。尿による皮膚炎は尿失禁、膀胱炎、尿中の多量カルシウム、不十分な世話、不潔なケージが原因となる。治療は環境の改善と抗生物質である。
- 皮下膿瘍
- 膿汁がチーズのように固まるため結節を呈する。腫瘍と誤認されやすい。原因細菌はPasteurella multocida、E.coliなどである。特に上下顎に発生した場合は予後不良である。不正咬合などにより根尖膿瘍を起こしている場合、早期であれば抜歯を行い、完治させることも可能である。
- 緑膿菌感染
- 原因菌はPseudomonas aeruginosaである。症状は限局性の脱毛と湿疹であり、時に潰瘍を形成する。脱毛周囲の被毛は緑色(Blue fur)を呈する。治療は抗生物質の投与である。
心因性脱毛
食餌の粗繊維不足、雌のホルモン起因、ストレス等により過剰のグルーミングが行われる。口の届く範囲を自咬することで脱毛が生じる。四肢や脇腹などに好発する。一般に発赤以外の皮膚病変を認めない。治療は原因療法である。雌の場合は卵巣子宮摘出術を選択することもある。
皮膚糸状菌症(人畜共通伝染病)
原因菌としてTrichophyton mentagrophytesがよく分離されるが、Microsporum spp. もみられる。発疹は四肢や顔によくみられる。皮膚は乾燥し、らくせつ落屑、軽度のそうよう掻痒を呈する。犬猫でみられる球状の発疹をつくらないこともこともある。診断には真菌培養検査を行い、治療として抗真菌剤の投与を長期的に行う。
寄生虫性皮膚炎
- ウサギキュウセンヒゼンダニPsoroptes cuniculi
- ウサギギュウセンヒゼンダニは、耳に寄生し、皮表の脱落表皮と組織腋を摂取し、体表で生活している。組織内に穿孔しない。症状は耳の激しい掻痒であり、ウサギは頭を激しく振ったり、後肢で耳をひっかく。患部は肥厚乾燥し、耳介内側表面に灰色、黄褐色のかひ痂皮が形成される。外陰部、顔面、頚部、四肢にもみられることがある。
診断は、じこう耳垢の鏡検によりダニを検出して行われる。治療はイベルメクチンの投与、耳掃除である。予防はウサギ間の接触を避け、さらにダニ汚物の拡散を最小限にする。 - ウサギツメダニCheyletiella parasitovorax
- 本症の発病はまれであり、症状を認めないことが多い。背部から肩甲部の脱毛、落屑、掻痒などが軽度にみられる。このダニは人畜共通伝染病で時々人を刺し、皮膚炎を起こすこともある。診断は毛の検査や皮膚のそうは掻爬検査によるダニ検出である。このダニは皮表に寄生し、組織内に穿孔しないため、患部の落屑をセロハンテープで採取し、鏡検してもよい。治療は外用殺ダニ剤により行われる。なおオーストラリアではツメダニ属の一種が粘液腫症を媒介するといわれている。
- ノミ
- ウサギノミは野生のウサギによく寄生し、飼いウサギにはほとんどみられない。飼いウサギの多くにみつかるノミは、犬ノミや猫ノミである。野生のウサギにはヨーロッパウサギノミ(Spilopsyllus cuniculi)が寄生し、粘液腫症を媒介するといわれている。
- ハエウジ症
- 屋外で飼育されているうさぎによくみられ、夏から秋にかけて発生することが多い。ヒフバエCuterebr /a属の数種類がウサギに寄生する。幼虫は皮下組織にもぐりこみ、体内に移行する。頚部腹側面、そけい鼠径部、後躯、えきか腋窩部が好発部位である。症状として疼痛があり、動くのを嫌う。患部には皮下腫瘤があり、中心性に壊死し幼虫が検出される。
- ウサギズツキダニLeporacarus gibbus
- 発生は多くみられる被毛ダニである。症状は大量寄生により、違和感のため、ウサギ自身が毛をかんで、途中から刈り取られたようになる。
口腔疾患について
ウサギは重歯目といわれ、特有の歯の構造と形態を持っている。従って肉食、雑食性動物と同様の歯のメンテナンスでは、人為的な疾病が発生するのは当然である。
不正咬合
ウサギの歯は常生歯(無根歯:通常の歯根形成を示さない)といって、犬猫と異なり、根尖で生涯歯を形成し伸び続ける。通常は自ら餌で、歯を磨耗させたり、歯と歯を合わせてはハマグリのように歯を咬耕させて、歯冠の長さを調節している。しかし、事故による歯の破折(ニッパ等での切歯切断、落下事故等)、遺伝的に不正な咬合(常染色体劣性による下顎過長症等)、歯が磨耗しない餌の給餌(パン、炊いた白米、ソフトタイプペレット、軟らかい野菜等)などの要因により、磨耗の回数が減り、切歯も臼歯も過長や湾曲、捻転、歯棘形成等がみられ、正確な咬合ができなくなる。
症状は食欲不振、りゅうえん流涎、体重減少、下痢などである。歯冠が十分に削れないと歯冠が伸びるが、上下顎の歯で互いに抑制し合う。ところが歯の形成が続くために歯根が伸びてしまう。過長した下顎の臼歯歯根は下顎骨を突き刺し、根尖病巣を持つものは感染がみられ、歯槽骨膿瘍と進展し、骨髄炎や歯の脱落などが起こる。また、上顎の臼歯歯根は鼻涙管の圧迫、狭窄、眼窩への歯の突出で涙目、膿性眼脂、眼窩膿瘍、眼球壊死等の症状がみられる。
切歯の不正咬合は一見してわかる。上顎は内側に向かって著しく湾曲し、下顎はゆるやかにカーブを描いて前方に伸びる。臼歯の不正咬合は口腔内の耳鏡検査、レントゲン検査で鑑別を行う。臼歯が不整に削れると下顎は舌側に、上顎は頬側に鋭い尖端を形成し、頬粘膜や舌に潰瘍病巣を形成する。 症状は食欲不振、柔らかいものだけ採取、りゅうえん流涎またはそれによる顎から胸部にかけての湿性皮膚炎、体重減少等である。臼歯の不正咬合がみられるものは予後不良で、口腔内に潰瘍をつくり、ウサギは口を痛がる。従って定期的に過剰歯を研磨しなければならない。
二次的に進行した症状を持つウサギは、原因歯の抜歯を行ってから、膿瘍切開などそれぞれの治療を行う必要がある。予防は歯を磨耗させる餌の給餌である。
- 根尖膿瘍
- 歯が破折して、露髄する。例えば落下事故、ケージメッシュの噛み癖、ニッパ等での人為的破損で歯髄に感染がおこり、歯根部に膿瘍を形成する。さらに歯槽骨の骨髄炎まで併発する。骨までを破壊し、皮膚までろうかん瘻管を形成し、眼の下や下顎に膿瘍がみられる。予後不良である。
- 湿性皮膚炎
- 不正咬合によりりゅうえん流涎がみられ、顎から頚そして前胸部の被毛が濡れて皮膚炎がみられる。またグルーミングが上手くできず、体表の被毛全体が流涎の状態ですかれることにより、分泌物で固まった被毛がみられる。
泌尿生殖器疾患について
ウサギは生理的な有色尿を呈するので、血尿、陰部からの汚露との鑑別が素人では困難であることが多い。泌尿器系疾患は加齢とともに発生が多くみられる。
子宮疾患
子宮内膜の変化(子宮内膜症、子宮内膜炎、乳頭過形成、嚢胞性過形成、腺腫様過形成)と腺癌がよくみられる。症状は初期は無症状であるが、攻撃性を持つ雌もいる。次第に持続的偽妊娠(嚢胞性乳腺腫等)、受胎率低下、流産死産、陰部からの出血がみられる。診断は臨床症状とレントゲン検査で鑑別する。治療は卵巣子宮摘出手術である。
出生前死
ウサギは13日前後と20~23日目ぐらいに流産することが多い。原因は妊娠中毒、ビタミンE不足、ビタミンA過剰、高熱、感染症、硝酸塩(アルファルファ、クローバー、オーチャード草、チモシーなどに多く含まれている)などである。
血尿
異常尿で血液が混入している場合は、膀胱炎、膀胱ポリープ、腎盂腎炎、尿石症等が考えられる。もちろん生理的なポルフィリン色素や餌の代謝産物に関する有色尿がみられることもある。生理的有色尿は症状を示さないが、膀胱炎、膀胱結石では排尿障害、食欲不振等がみられる。診断は尿検査、血液検査、レントゲン検査で行う。
乳腺炎
原因菌はE.coli、Pseudomonas、Pasteurella、Klebsiellaなどである。エストロジェンの増加、子宮過形成、子宮腺癌に関連して発生する。また乳腺の外傷による感染として敗血症が起こる。症状は乳腺の腫脹、紅斑、熱感がある。敗血症の乳腺炎では発熱、食欲不振等もみられる。治療は抗生物質または卵巣子宮摘出手術である。
共食い
雌が分娩後に新生仔を食べてしまうことがある。特に初産時や衰弱している仔が食べられることが多い。ストレスやビタミン欠乏、不十分な巣、自分以外のにおいの付着などにより起こると考えられる。
尿結石
食餌、細菌感染、解剖生理学的要因が関与している。結石は典型的にカルシウムを主成分(炭酸カルシウムが好発)とするものが多い。症状は血尿、排尿障害、食欲不振等である。結石は外科的に摘出し、内科的に治療予防を行う。
神経筋骨格疾患について
ウサギの神経疾患は微胞子虫以外は予後がよく、骨折脱臼は予後がよくない。元来敏捷性を持ち、外敵から逃走して身を守る動物なので、運動系に問題が起きると生活環境においておおくの問題が生じる。
開張脚
遺伝的疾患で一般に4ヶ月齢に達するまでにみられる。侵された動物は敏捷であるが、手足のうち少なくとも1つを内転させることができないため、遊泳運動で移動しようとする。この異常は片側もしくは両側性であり、前または後脚あるいは両側が侵されることもある。長期の予後は不良である。
外傷性骨折
ウサギは骨質が薄いこともあり、骨折しやすい。特に脊椎の骨折や脱臼を起こすことが多い。キックしたときの強い筋肉の収縮によって、比較的強度の低い脊椎が脱臼したり、骨折する力が生じる(第七腰椎が一番の好発部位である)。保定のミス、狭いケージ、肥満など腰に負担がかかる原因によって起こる。
症状は後躯麻痺、肛門括約筋や膀胱のコントロール喪失である。診断はレントゲン検査で病変部を特定する。脊椎の骨折の治療は外科的に脊椎を安定化させるか、ケージレストにてステロイドの投与である。
脱臼
股関節や膝関節、肘関節に多く見られる。ケージ内で暴れたり、無理な保定により発生する。特に股関節は犬猫以上にしっかりしているので、脱臼しづらいのである。その半面、脱臼した場合は非観血的な整復は困難である。ピンやネジを使用しての観血的整復が必要である。
斜頚
内中耳の細菌感染が原因であることが多い。例えば耳ダニの感染であるとしても蔓延することは少なく、おそらく細菌感染と混合していると考えてよい。症状は急性のものと、進行性のものとがあり、斜頚のほかに運動失調、起立不能である。この段階では通常、食欲は低下しない。また眼球しんとう振盪や顔面神経欠損の症状は、脳や髄膜に病変がある可能性を示している。長期に症状が続けば摂食も困難になり、衰弱してしまう。治療は脳血液関門を通過する抗生物質を中心に、食糞ができないためにビタミンBを投与することである。時にはステロイドの使用も必要である。
微胞子虫(Encephalitozoon cuniculi)
levaditiら(1923)がウサギの肉芽腫性脳炎の病理組織の中に認めたのが最初で、ウサギのほかにもマウス、モルモット、ハムスター、犬、人等を宿主とし、全世界に分布している。
この原虫は経口摂取された後に腸壁に侵入し、血中へ入り、脳、腎臓、肝臓、脾臓などに寄生する。伝播経路は明確ではないが、排泄物からの伝播が最も可能性が高いとされている。
病原性は、通常慢性的に感染し、不顕性である。感染ウサギでは、痙攣、不全麻痺などの神経症状を示すことがある。診断は、組織材料の病理学的検査による。
呼吸器疾患について
ウサギの呼吸器疾患は、初期ではあまり症状がみられず、スナッフル以外では末期で発見される場合が多い。従って、治療が奏功(そうこう)しない場合も多い。
気管支敗血症
Bordetella br /onchisepticaによる細菌感染である。通常は不顕性感染で終始するが発症すると異常な呼吸音が聞こえるようになる。症状が悪化することはまれである。治療は抗生物質の投与を行う。ウサギでは病原性は強くはないが、モルモットでは重症となる。
スナッフル
原因はパスツレラ感染症や黄色ブドウ球菌等の細菌感染、真菌感染、ウイルス感染、切歯の歯根部の炎症の波及などである。原因はともかく鼻炎、副鼻腔炎、気管支炎、肺炎等の俗称をスナッフルという。鼻炎や副鼻腔炎による鼻汁音、気管支閉塞音を『Snuffling noise』という。症状は呼吸器症状で初期では鼻汁程度であるが、放置して悪化すると肺炎や胸膜炎等で死亡する。
肺炎
原因は細菌感染(Pasteurella multocida、Bordeterlla br /onchiseptica、Staphylococcus aureus等)、腫瘍(子宮腺癌の転移)、毒物による肺浮腫でみられる。ストレスは大きな要因となるので突然の気温変化、不潔な環境、換気不良によるアンモニア濃度の高い環境は、症状を進展させる。ウサギの場合、突然死として現れることもある。聴診、培養検査、血液検査、レントゲン検査等で鑑別診断を行う。
感染性疾患について
パスツレラ以外は、ペットでの発生はまれである。学校の飼育ウサギや繁殖場での発生は、非常に重要な問題となる。
トレポネーマ
ウサギ梅毒、生殖器スピロヘータとも呼ばれている。原因はTreponema paraluiscuniculiである。これは交尾によって感染するが、仔ウサギは母親との接触で感染する。寒い環境は本症を進行させる要因となる。症状は皮膚、粘膜の潰瘍、かひ痂皮、しんしゅつえき滲出液で、主に肛門、包皮、陰門に多い。まれに鼻や眼瞼にもみられる。ウサギ自身の行動には変化がおきない。診断は病変のサンプル暗視野検査によって病原菌の確認を行う。治療はベンザチンペニシリンGあるいはプロカインペニシリンGの投与である。
野兎病(人畜共通伝染病)
原因菌はFrancisella tularensisである。多くの動物種に発生するが、その中でもウサギは感受性が高い。急性の敗血症を呈し、症状が現れる前に死亡することが多い。じっと動かなくなり、食欲の低下もしくは廃絶がみられる。自然界では比較的普通にみられるが、ペットとして室内で飼われているウサギにはほとんどみられない。感染経路は感染動物に接触することにより、皮膚を通して伝染されることが多く、またダニ、サシバエ、蚊、ノミなどの吸血節足動物により伝播されることもある。人畜共通伝染病である。
ウイルス性疾患(粘液腫症(人畜共通伝染病))
アメリカ西海岸の繁殖コロニーで時々みられる。ヨーロッパやオーストラリア、南アメリカでは風土病である。原因は、天然痘ウイルス群(ポックスウイルス)に含まれる粘液腫ウイルスのうち、比較的病原性が強い株によるものである。ウイルスは節足動物(ノミやダニ)により伝播されるか、もしくは直接感染する。
症状の多くは眼からの分泌物で始まり、眼がボーッと重たそうになる。そして、眼の周囲、唇、頚部の皮膚が腫脹し、耳、肛門、生殖器に広がることもある。顔中が腫れ上がったようになり(Lion face)、破裂部分からは滲出液がみられる。
治療法は知られていない。媒介している蚊から守ることが予防となる。
栄養性疾患について
最近、栄養性疾患の発生が急激に増加している。ペットフードの種類が増え、栄養価の悪い餌が多くなったこと、ウサギの生理を知らない飼主が、誤った餌を与えていることが大きな問題となっている。
ビタミンE欠乏症
ビタミンE欠乏は、不飽和脂肪酸の多い食餌、粗悪なペレット、長期保存されたペレットやコクシジウムのような肝疾患が関与して発生する。症状は腹腔内に脂肪が沈着したり、血液検査でCPKが上昇したりする。症状は元気、食欲が減退したりして体重の減少がみられる。
ビタミンA欠乏症
ビタミンA欠乏もビタミンEと同様に食餌や内臓疾患に関与する。症状では、耳が垂れることが多い。これは軟骨が弱まることにより発生する。そのほかには、成長の遅延と眼の病変がある。角膜の混濁、角膜炎ならびに盲目へと進行する。また繁殖障害もみられ、胎仔に流産や吸収が起こったり、水頭症を持って生まれたりする。
高脂血症/動脈硬化
遺伝的に高脂血症の系統も存在する。後天的な原因としてはビタミンD過剰症、高脂食餌等である。症状は食欲不振、体重減少である。レントゲン検査で硬化した大動脈弓が明瞭にわかるものもいる。