モルモットの飼い方
スペイン人が南米を侵略した1530年代に、モルモットはすでにインカ帝国の人々によって家畜化されており、現地の人々は食料とし現在も飼育している。最も早い場合は紀元前1000年に家畜化されていたと考えられる。ヨーロッパには1600年代にドイツ兵により普及した。実験動物としては、1780年にLavoiserが発熱実験に使用したのが最初であり、その後次第にペットとして人気を集めるようになった。本邦では江戸時代にオランダ人により持ち込まれたのが最初である。
モルモットの分類と品種
分類
テンジクネズミ科の動物は体が短く尾がない(例外はマーラ)。頭は体長の3分の1にもなるほど大きい。また目も、耳も大きい。テンジクネズミ科の生息地は現在南アメリカに限定されている。そしてこのテンジクネズミを古代インディオが家畜化したものが、現在のモルモットである。
被毛の特徴により大きく4つの品種に分けられる。
イングリシュEnglish
イギリスで改良された短毛種で、被毛はなめらかでみじかく(3~4cm)、直毛である。主に実験動物として使用されている。ARBA(アメリカン・ラビット・ブリーダーズ・アソシエーション)という、アメリカ最大のブリーダー協会ではこれをアメリカンと呼んでいる。
ぺルビアンPeruvian
フランスのパリで愛玩用として改良された。柔らかい光沢のある長毛で巻毛もみられる。長毛種は特に背中の上の方の毛や頭の毛が長くのび、脇腹の毛はそれより短くかくれている。また、背中や頭より胸腹の毛が長くのびているものをシルキーと呼んでいる。そして巻毛のものはシェルティーと呼ばれている。比較的短毛のものと長毛のものがあり、長毛のものは別名アンゴラという。
アビシニアンAbissinian
イギリスで愛玩用として改良された。毛は粗剛で硬く、比較的短毛(4~5cm)で、体全体に巻毛(渦巻状)のつむじがある。このつむじは全身に10個以上ある。いずれも毛色は白、黒、褐色、野生色、チョコレート色、クリーム色などの短毛色と、これらの組み合わせによる二毛色、三毛色である。
スキニーギニアピッグSkinney Guinea pig
元来実験動物用として作られた種類で、体表の一部に被毛があるだけでほとんど無毛である。
その他
頭部にのみ巻毛のあるものはクレステッド、密集した縮れ毛はテディ、テディの毛の長いものはレックスと呼ばれている。
モルモットの名前
英語名は「ギニアピッグ」、和名は「テンジク鼠」。英語名のギニアはガイアナの誤りと思われる。当時ギニアは、コーヒー豆等の輸出でヨーロッパでは知られており、遠方から輸入されたモルモットもコーヒー豆同様ギニアから来たものと思われた。また、短くてずんぐりした体がブタのようにみえること、そしてその肉の味がブタ肉に似ていることも、その名前を生んだ理由である。
日本には江戸時代にオランダから輸入されたのだが、遠い国の代表であるテンジク(インド)から来たものと間違われた。そのため、和名にテンジクがつけられたと思われる。またモルモットという名前もmarmotからきたもので、リス科のアラスカマーモットと姿が似ているためそう呼ばれた。
モルモットの性質
モルモットは用心深く臆病な動物で、飼育環境を急に変えると物に対して怖がり、餌、水を口にしなくなる。 また、危険を感じると体を硬直させたり、逃走したりする。そしてストレスにより神経性のショックで死亡することもある。元来群れで生活しているのでけんかをすることもまれにある。耳や毛を逆立てて口を開けて威嚇し、後肢で立って攻撃の構えをみせた後、頭をぶつけ合う。壁の高さが18cmあればまず乗り越えることはできない。
モルモットの骨格
- 椎骨は頚椎7、胸椎13-14、腰椎6、仙椎3-4、尾椎4-7である。
- 指の数は前肢は4本、後肢は3本である。
- 尾は非常に短く、外観上は無尾にみえる。
モルモットの外皮・体形
- 乳頭は1対である。
- 皮脂腺は肛門周囲と臀部に密に存在し、しばしばにおい付けを行う。また臭腺が正中の臀部にみられる。
- モルモットはずんぐりした体躯に細くて短い四肢を持つ。
- 耳介の毛は薄毛である。
モルモットの口腔
歯式は2(1/1 0/0 1/1 3/3)の20本である。歯根は開放性で生涯伸び続ける。上顎の小臼歯と臼歯は外則に傾斜し、下顎の歯根は内側に傾斜する。咀嚼筋群はよく発達し、特に咬筋と顎二腹筋は大きい。翼突筋と側頭筋は比較的小さい。
耳下腺、下顎腺、舌下腺、臼歯腺の4対の唾液腺がある。
モルモットの消化管
胃は単胃で、異壁は著しく薄い。小腸の全長は約125cmで、十二指腸、空腸、回腸の明瞭な境界がなく、右側腹腔に位置する。盲腸は左側腹腔に位置し、長さ15~20cmである。盲腸壁が菲薄で無数の嚢胞からなり、よく発達した3本の紐(tenia)がある。
脾臓は他のげっ歯類に比べて幅が広く、赤脾髄には莢(さや)動脈を欠く。
肝臓は左葉、内側左葉、方形葉、外側右葉、内側右葉、尾状葉の6葉からなり、胆嚢は尾状葉の乳頭突起の下縁に位置する。
モルモットの胸腔
胸腺は頚部皮下にあり、左右2葉からなる。
肺は右肺が前葉、中葉、後葉、副葉の4葉、左肺は前葉、中葉、後葉の3葉からなり、左肺に中葉があるのが特徴である。
心臓は他のげっ歯類と同様に右の房室弁は三尖弁、左の房室弁は二尖弁で、右心室内腔には中隔縁柱(調節帯)があるが、左心室にはまれである。
モルモットの泌尿生殖器
雄には陰茎骨があり、中心部が細く、両端は背腹方向に平坦な形をしている。陰茎の先端の腹側面に尿道開口部がある。尿道開口部の後部に嚢があり、中に1対の細長い角質の物質を有し、勃起時に嚢が外反して突出する。
副生殖腺は精嚢腺、前立腺、凝固腺、尿道球腺がみられる。精嚢腺はコイル状によく発達し、成熟した雄では長さ10cmにも及ぶ。
雌の子宮は分裂子宮で、左右の子宮角は合わせて1つの外子宮口となり、膣に開口する。
モルモットの生理
L-グロノラクトンオキシターゼの遺伝子に変異があるため、この酵素を産出できずビタミンCを自ら合成できない。
禁忌薬剤の抗生物質の投与により致命的に腸内細菌叢のグラム陽性菌を絶やしClostridiumが増殖し、その毒素が広がり死亡する。
禁忌薬剤の抗生物質
- リンコマイシン、クリンダマイシン、エリスロマイシン、ペニシリン、アンピシリン、アモキシリン、セファレキシン、テトラサイクリン系など
- うさぎと同様に食糞を行い、肛門から直接盲腸便を食べる。
- 母体から子への抗体(IgG)移行は胎盤を介して行われる。
- 食餌性脂質によって血清が濁りやすい。
- 気管支平滑筋が発達しているのでヒスタミンの投与によりアナフィラキシーを起こし、収縮し、致命的になる。
- フェレットやサル類、ウサギ、ヒト同様にステロイドに抵抗性があると考えられている。 ステロイドを投与しても末梢リンパ球や胸腺の生理には大きな影響はない。
モルモットの繁殖
性周期
周年繁殖動物で自然排卵を行う。そのため、季節と無関係に多発情となる。雌は発情期にだけ膣が開口し、他期は膣閉塞膜により閉じている。開口は数日から約2週間と個体により異なる。
発情前期から発情休止期まで4期である。発情周期は16~19日である。発情期以外は雄を受け入れず、後肢で蹴り飛ばす。発情前期は膣の開口の有無にかかわらず、雄の乗駕を許容する。発情期には陰部が腫脹し、人が背に手を置くか、あるいは雄が乗駕すると、背を弓なりに曲げるいわゆるlordosis反応を示し、雄を受け入れる。発情期間は4~17時間くらい持続する。
交配
7~8ヶ月齢以降に最初の交配を行うと、恥骨分離が起こりにくく、胎児が通過するのに必要な2~3cmが開かなくなる。そのため、最初の交配は6ヵ月以内が好ましい。
なお、交尾の確認は膣栓で確認する。交尾後、雄の凝固腺の分泌物が膣に栓をして受胎効果を高めているが、数時間で膣栓が落ちる。
妊娠/出産
妊娠期間は60~80日、胎盤は血絨毛胎盤である。出産が近づくと恥骨結合が開き、15㎜まで開くと48時間以内に出産する。なおモルモットは巣作りを行わない。新生児は眼の開いた状態で生まれ、永久歯が生えており、体重も約100gと比較的成熟している。生後1時間以内に歩き始め、柔らかい飼料であれば食べ始める(離巣性)。
後分娩発情
分娩後約10時間で発情、排卵が認められ、この時の交配で妊娠が可能である(後分娩発情)。後分娩発情では排卵数が多いので出産数が多く、妊娠中毒になりやすい。
雌雄鑑別
モルモットはほかのげっ歯類より判別が困難である。肛門と生殖突起の距離の差が少ないからである。雌は生殖器の開口部がY字形に似る。雄は円形である。大人であれば雄は鼠径部に陰嚢が膨らんでみえる。また圧力をかければ陰茎を突出させることができる。
モルモットの飼育について
ケージ
蓋のない水槽やメッシュケージで飼育することが可能である。
理想面積 652~940c㎡(育児中雌は通常の2倍の床面積が必要である)
側面壁高さ 18~25cm モルモットは自分の高さ以上の壁を登ることができないので,それ以上の高さであれば天蓋はいらない。
- ケージの種類
- 衛生上の理由と管理のしやすさから、床が金網のメッシュケージが最適である。糞尿はメッシュの床から下に落ちるので、ケージの掃除回数を減らすことができる。しかし欠点は、動物が四肢を網にひっかけて外傷を負ったり、骨折、飛節炎になりやすいということである。従って床材には新聞紙、紙、干し草、木材チップなどを使用するとよい。メッシュのケージを用いる場合は、一部に固い床の部分を設けて床材を敷き、メッシュばかりに足が触れないようにするとよい。
- 巣箱
- モルモットは半地上性であるため、1階に巣箱を設置する。市販されている木製の巣箱でも手製でもよい。
- 餌入れ
- 餌、床材を散らかして、餌の上に乗って食べたり排泄をする性質があるので、餌入れははめ込み式か壁掛け式が清潔である。もしくは陶製の重いものを使用し、ひっくり返さないようにする。
- 水入れ
- 糞便による汚染を防ぎ、被毛の乾燥を保つには、給水ボトルを使って与えるのが最適である。床に置くタイプの水入れだと、モルモットが容器の中に入ることがあるので勧められない。またモルモットのなかにはボトルの口に空気を入れたり、餌を吹き込むものもいる。この時に飲水に餌等が混入し、汚染されることがあるので頻繁に交換する。
- 遊び場
- 隅に集まる習性があり神経質である。特に落ち着かない場所で集団生活をすると四隅に積み重なるように集まる。特別な遊び場や道具はなくてもよい。
温度、湿度
理想温度 18~24℃
理想湿度 40~70%
ケージは温度変化があまりない場所に置かなければならない。
トイレ
体臭はないが、排泄物は他のげっ歯目に比べかなりにおう。正常な糞は、乾燥していてあまりにおわないが、下痢をした時の軟便は独特のにおいを放つ。また、尿は体調にかかわらずにおう。尿のにおいを取る消臭剤入りペレットも販売されているが、完全ににおいがなくなるわけではない。頻繁にトイレやケージを掃除すれば、尿のにおいは特に気にならないと思われる。
モルモットはトイレを習性するのは困難である。餌箱から離れた隅をトイレとする習性はない。そして陰部、肛門が排泄物ですぐに汚れてしまう。
掃除
- ケージ
- ケージの掃除は容器や床材によって異なるため、それぞれに合った掃除を行う。床材は毎日交換しないとにおう。特に梅雨期は、なるべくこまめに水入れやトイレにしている場所を取り替える。また、ケージ全体を水洗いして日光消毒するとよい。
- トイレ
- ケージ内に設置してあるトイレとしている場所を毎日掃除する。モルモットは特に体に割に排泄物の量が多いのでにおう。
- 餌入れ
- 餌を与える時に餌入れを乾拭きする。これはペレットなど乾燥した餌を与える場合であり、野菜など水分の多い餌を与える場合は、食後水洗いして乾燥させる。
- 水入れ
- 水の汚れにくいボトルタイプの水入れが多用されているようだが、洗いにくいのが難点である。水筒などを洗うブラシを使うとよい。吸口側についているゴムの部分のぬめりもきちんと取る。また手間はかかるが、熱湯消毒するとよい。
モルモットの餌について
モルモットは完全な草食動物であり、野生のモルモットの食餌は、野草の茎、根、樹皮などで栄養が乏しく、たくさんの粗質食料(食物繊維等)を含んでいる。モルモットの消化器系統は非常にデリケートであるので食餌にも注意する。飼育下では下記のようなものを与え、バランスのよいメニューを考慮する。
◎ペレット
◎野菜、野草、干し草
○蛋白質(少量)
○種子類、果物
○その他
餌の量はなくなったら足すという方法でもよい。腐らない餌はなくなったら足していき、腐りやすい餌は朝晩にチェックして交換することが望ましい。モルモットは過食しないので自由採食させる。
種子類
理想は低脂肪の種子、例えばハトの餌に入っているトウモロコシ、小麦、アサノミなどであり、そのほかに鳥用の皮付き混合餌のヒエ、アワ、キビ、カナリアシードなどもよい。高脂肪のヒマワリ、ピーナッツ、アーモンド、ピスタチオ、クルミは控えめにする。(ピーナッツの殻などは腐ると発癌性のアフラトキシンが発生する恐れがある)
野菜
【与えてもよい野菜】ニンジン、ブロッコリー、パセリ、カブの葉、チンゲンサイ、大根葉、小松菜、サラダ菜、セロリ、みつば、カリフラワーなど
【与えない方がよい野菜】じゃがいもの芽と茎、生の豆、葱、玉ねぎ、にらなど
干し草
ほかの草食動物より蛋白質を多く必要とするので、マメ科(アルファルファ)の干し草を多く与えることが理想である。モルモットは硬い干し草を大量に食べると、口腔内の粘膜を傷つけて、頚部リンパ節炎を発症させてしまうため、大量に、そして毎日与えることはよくないとされている。しかし、その意義は不確実であると思われる。
- マメ科
- アルファルファなど(蛋白質、カルシウム量が豊富であり、嗜好性もよい。しかし大量に与えると鼓脹症の恐れがある)
- イネ科
- チモシー(マメ科に比べて蛋白質、カルシウム量が少なく、嗜好性はよくない。しかし減量用、または結石予防の餌として最適である。
果物
【与えてもよい果物】リンゴ、メロン、ブドウ、イチゴ、バナナ、パイナップルなど
【与えない方がよい果物】アボガドなど
野草
【与えてもよい野草】タンポポの葉、ノコギリソウ、ヒレハリソウ、ハコベ、クローバー、フキタンポポ、ペンペングサ、アルファルファ、オーチャードグラス、イタリアングラスなど
【中毒を起こす可能性がある植物】アサガオ、アジサイ、アマリリス、イチイ、イラクサ、イヌホウズキ、ウルシ、オシロイバナ、オトギリソウ、カジュマル、カポック、カラジュール、キョウチクトウ、クリスマスローズ、ケシ、ゴムノキ、サツキ、サトイモ、サフランモドキ、ジギタリス、シダ、シャクナゲ、ショウブ、ジンチョウゲ、スイセン、スズラン、西洋ヒイラギ、セントポーリア、チョウセンアサガオ、ツツジ、ツゲ、ディフェンバギア、デルフィニウム、ドクゼリ、ドクニンジン、トチノキ、トリカブト、ナツメグ、ヒヤシンス、ベゴニア、ベンジャミン、ホオズキ、ポインセチア、マロニエ、ヨモギギク、ワラビなど
ペレット
最近はいろいろなメーカーからモルモット用ペレットが販売されているが、モルモットもメーカーによって好き嫌いがある。形状はペレット状のものからクッキーのようなものまでさまざまである。モルモットは盲腸が大きいので粗繊維の消化率が高い。粗繊維は18%以上が理想とされ、カリウムとマグネシウムの要求量が高い。すでに述べたようにビタミンCを体内でつくることができない。
- 専用ペレットの成分含有量の一例
- 蛋白質 20.6%
- 脂肪 2.8%
- 炭水化物 35%以上
- 粗繊維 9.6%
- 灰分 7.9%
- ビタミンC 800mg/kg
妊娠、授乳中の母親の餌
母親には、妊娠中から栄養価の高い食物をいろいろ与え、さらにカルシウムとビタミンを添加する。(ヨーグルトや小松菜など)。母親はたくさんの乳を出さなくてはならないので多くの水分を必要とする。ペレットを主食としている場合は、特に出産から離乳まで水を切らさないように注意する。
新生仔の餌
新生仔の食餌は、授乳中は母親の乳で十分である。モルモットの新生仔は同時に柔らかいペレットや野菜も食べ始めることが可能である。4週間目頃から乳量が減り、完全な離乳期に入る。
水
給水ボトルを使って与えるのが最適である。あまり飲みすぎて下痢をするようであれば量を控えめにする。生野菜からも水分を吸収できるので生野菜を多く与えた場合は水の量を減らす。生野菜を多く与えると全く水を飲まないものもいる。主食がペレットの場合は、必ず水を与える。水が不足すると採食量が減少したり、結石などの病気になることもある。また水道水は塩素を含むのでビタミンCを破壊するともいう。
モルモットのケア
ブラッシング
毛は主に春と秋に、冬毛から夏毛へ、また夏毛から冬毛へと変化する。時期や期間は個体によって異なるが、ほぼ全身の毛に変化がみられる。通常、自分でグルーミングを行い毛を除去するが、毛球症になることがある。猫のように毛玉を吐き出すことができないので、毛球症から腸閉塞を起こすことがある。特に長毛腫(ぺルビアン)はブラッシングを必ず行う。
シャンプー
体臭はないが、排泄物はにおう。猫と同様きれい好きであり、自分で手入れを行う習性がある。シャンプー(入浴)の必要はない。
爪切り
爪の中に血管が通っているので、その先を切る。伸びすぎると、絨毯などに引っ掛かり、折れることもある。
道具は人間用の爪切りで切ることは割ることになるので勧められない。犬猫用(歯に丸い穴がある)の爪切りで小さいサイズのものを利用する。
慣れないうちは、抱く係と切る係とに分かれたほうが安全である。切る時に暴れることがあるため、しっかりと抱く。
ビタミンCについて
モルモットは霊長類同様、体内でビタミンC(アスコルビン酸)の合成ができないため、補給する必要がある。必要量は1日約5~20mg/kg。妊娠中や授乳中の雌は、1日に20~30mg/kg以上必要とされる。
市販のモルモット用ペレットにはアスコルビン酸が添加されてはいるが、ビタミンC欠乏症がよくみられる。市販の餌には製造時に800mg/kgのビタミンCが含まれている。しかし、22℃以下で貯蔵し、90日以内に使用しなければ、ビタミンC濃度は十分に保たれない。ビタミンCは熱や湿気、金属類にさらされると劣化する。温度、高湿度や、製造日からペットショップの店頭に並ぶまでに日数がかかると劣化する。
銅管や金属がビタミンCを劣化させるため、給水ボトルはプラスチック製かガラス製の容器であれば、24時間経過後でも約50%の有効率がある。日量200~400mg/kgの濃度で補給すれば、ビタミンC欠乏症を予防できる。
主な野菜のビタミンC含有量(可食部100g中)
パセリ(200mg) レモン(90mg) イチゴ(80mg) キウイフルーツ(80mg) ピーマン(80mg) 小松菜(75mg) 柿(70mg) ほうれん草(65mg) キャベツ(44mg)みかん(35mg) サツマイモ(30mg) ハクサイ(22mg) トマト(20mg) カボチャ(15mg) キュウリ(13mg) バナナ(10mg) ニンジン(6mg)
注意すべき疾病
栄養性疾患
ビタミンC欠乏症はすべての疾患時に頭に入れておかなければならない。消耗性疾患時には必然的にビタミンCの要求量が多くなり、二次的に欠乏症が併発することが多い。
- 転移性石灰化
- 1歳以上のものに好発する。症状は雌の方に強く現れるといわれている。主に胃が石灰化し、運動が障害され次第に閉塞が起こる。カルシウム含有量が多く、リン含有量が少ない餌が転移性石灰化を悪化させる要因とされている。
- ビタミンC欠乏症
- モルモットおよび霊長類は、D-グルコースからアスコルビン酸を生成するのに必要なL-グロノラクトン酸化酵素を欠く。アスコルビン酸(ビタミンC)は、コラーゲン内のヒドロキシプロリンやヒドロキシリジンの生成に不可欠である。
症状は、肋軟骨の接合部の腫脹、長骨端骨板の変性、象牙質の変性出血などである。また全身的に、食欲不振、嗜眠、粗い被毛、鼻汁、体重減少などがみられる。重症例は歩行を嫌い、四肢をひきずり、全身を痛がる。診断は症状や給餌歴を調べて推測し、診断的治療を行う。ビタミンC要求量は年齢や個体によりかなり異なると推測される。
呼吸器疾患
モルモットでは呼吸器疾患が好発する。初期では症状が明確でなく、キャリアーのままでいることが多く、ストレス等があったり、もしくは、末期になって呼吸困難等の症状が現れることが多い。このような段階では治療に反応しない場合が多い。
鼻炎/気管支炎/肺炎
原因はBordetella br /onchiseptica、Streptococcus zooepidemicus、Streptococcus pneumoniae等の細菌、ウイルス(アデノ、パラインフルエンザ等)、ストレス、アレルギーが原因となる。症状は鼻汁、鼻腔異常音、くしゃみ、咳、食欲不振がみられ、次第に体重が減少する。早期の治療が必要である。
気管支敗血症
原因菌はBordetella br /onchisepticaである。若齢やストレス、ビタミンC欠乏時に二次的に発生しやすい。症状は鼻腔周囲の汚れ、呼吸困難、食欲不振等などがみられ、内耳中耳炎等に進展することもある。ウサギでは不顕性感染であるが、モルモットでは症状が顕著に現れるので、ほかのモルモットとの同居は避けたほうがよい。診断は培養検査で行い、抗生物質で治療する。
肺炎球菌症
原因菌はStreptococcus pneumoniaeである。症状は鼻腔周囲の汚れ、呼吸困難、食欲低下で、体重減少により死亡するものが多い。若齢では不顕性感染で、敗血症で急死する場合もある。診断は培養検査で行い、抗生物質で治療する。
連鎖球菌症
原因菌はStreptococcus zooepidemicusである。急性感染では眼脂、膿性鼻汁がみられ、敗血症で急死する。多くは慢性経過をとり体重減少、結膜炎、体表リンパ節、特に頚部リンパ節が腫脹して、小豆大からクルミ大になる。触診で容易に触知できる。診断は培養検査で行い、抗生物質で治療する。もしくは外科的処置も必要となる。
皮膚疾患
モルモットは複数で飼育されている場合が多いので、感染性の皮膚疾患の発生がよくみられる。衛生的に環境の整備を行わなければならない。
潰瘍性肢端皮膚炎
爪の過長、不潔な衛生管理、メッシュ製の床等が誘因となり、細菌感染が起こる。症状は小さな潰瘍から膿瘍までさまざまである。重症例では骨髄炎が生じる。治療は衛生状態を改善し、抗生物質を投与する。場合によっては外科処置が必要になることもある。
トリコマニア(抜毛狂)
モルモットは被毛を咬んだり、抜いたりする行動が時折みられる。この行動は繊維分の不足、過密飼育などによるストレス、あるいは攻撃性のある性格に関係し、自己損傷のみならず、ほかの個体にも向けられる。被毛は短く、不揃いであるが、皮膚には発疹が認められない。
ホルモン性脱毛
妊娠末期に脇腹の脱毛がみられるが、これは分娩後自然に治癒する。卵巣嚢腫により、同様の脱毛がみられることもある。治療として卵巣子宮摘出手術を選択することもある。
皮膚糸状菌症
Trichophyton mentagrophytes、Microsporum gypseum、Microsporum canisなどが原因菌である。発疹は環状で、脱毛がみられ、皮表には鱗状の痂皮がみられ、掻痒がある。通常、顔面、背部、四肢に好発する。診断は真菌培養を行い、治療では抗真菌剤を投与する。
皮下膿瘍
Streptococcus zooepidemicusなどの感染によって起こる。固い餌などに起因する口腔内の外傷が感染経路と考えられているが、詳細は不明である。特に頚部のリンパ節からクリーム色でチーズ状の膿を認めることが多い。
頚部のリンパ節炎
β型溶血性連鎖球菌Streptococcus zooepidemicus、Lancefield groupC等の感染で起こる。本症は年齢、性別に関係なく発症する。
顎下や頚部腹側部のリンパ節が腫大するが、ほかの体表リンパ節に異常を認めることは少ない。腫大したリンパ節は、厚く被包されて、白色の膿汁で満たされている。
治療は軽症例では抗生物質の投与により加療されるが、病巣が複数のものや大きなものの場合は、所属のリンパ節を含む広範囲の外科切除が必要である。
感染性疾患
モルモットは複数で飼育されている場合が多いので、感染症の発生がよくみられる。衛生的に環境の整備を行わなければならない。
サルモネラ感染症
原因菌はSalmonella enteritidis、S.typhimuriumが多い。症状は流産や下痢などで、時々結膜炎や眼脂がみられる。若齢では無症状のまま敗血症で急死する例がある。不顕性感染も多く、ストレスにより発病する。
ティザー病
原因菌はBacillus tyzzerである。自然感染例では水様性下痢が起こり、食欲減退がみられ、不活発になり死亡するものが多い。下痢による尾部、後肢、腹部の汚れが顕著である。
寄生虫感染症
細菌感染性疾患と同様に、複数飼育による寄生虫感染症も多くみられる。
モルモット蟯虫Paspidodera nucinate
モルモットの盲腸に寄生する蟯虫である。症状は一般的には無症状であることが多い。多数寄生すると体重減少がみられる。診断はセロハンテープ法で虫体を検出する。治療には駆虫薬を用いる。
毛皮ダニChirodiscoides caviae
症状はまれで、会陰部の毛軸に寄生する。症状も無症状であることが多い。診断は寄生しているダニの確認である。治療は殺ダニ剤で治療する。
ヒゼンダニTrixacarus cavaie
体躯や四肢に脱毛や掻痒感があり、自損することがある。皮膚は落屑性に乾燥肥厚する。重度の寄生で、食欲不振や体重が減少し、死に至ることもある。診断は皮膚の掻把検査で行われる。治療は殺ダニ剤を使用する。
コクシジウムEimeria caviaega
特に幼若なもので下痢、成長遅延がみられるが、不顕性感染が多い。生後2~5週齢では感受性が高く、輸送等のストレスなどの要因が加わると発症する。診断は検便によるオーシストの検出である。サルファ剤で治療する。
モルモットハジラミGliricola porcelli,Gynopus ovalis
被毛に白いものがみえ、肉眼でも確認できる。特に耳の周囲にみられる。伝播は直接接触により、重度の寄生で掻痒がみられる。診断は寄生しているシラミの確認である。殺ダニ剤の外用で治療する。
消化器疾患
モルモットは他のげっ歯目に比べて消化器疾患の発生が少ない。しかし、選択的にグラム陽性菌にスペクトルを持つ抗菌剤の使用はClostridium属の増殖、そして毒素産出がみられ、下痢や食欲不振を誘発するので、絶対に避ける。
不正咬合
臼歯の不正咬合の発生が多い。切歯の過長は臼歯の不正咬合に伴い二次的に発生することが多い。下顎臼歯は内側に伸長するので、舌に触れ、潰瘍を起こす。上顎臼歯は外側に伸長するので、頬側粘膜に潰瘍を形成する。
不正咬合は餌や遺伝的要因が関与すると考えられている。ビタミンCが欠乏するとコラーゲンや象牙質、細胞間セメント質などが十分に形成されなくなり、不正咬合が発症するといわれている。
症状としては、空腹状態でも採食を拒否する。あるいは、柔らかいものや果物だけを採食するだけで、ペレットを拒絶するものもいる。口臭が酸臭をおびることがあり、口周囲の被毛も流涎により着色されて湿潤している。不正咬合は再発徴候の有無を検査し、定期的な処置が必要となる。
毛球症
長毛種に特異的に発生する。モルモットは毛づくろいを行うが、消化管の中に毛玉ができても吐くことができず、幽門が小さいため、消化管内で毛玉となって閉塞する。誘因として高炭水化物、低繊維食の食餌、ストレスやホルモンなどが考えられる。短毛種にはほとんど好発はみられない。
症状は食欲不振、便の欠如、消化管内ガス貯留等で次第に飲水だけを行い、体重減少がみられ、衰弱する。急性イレウスでは無気力、鼓脹症、脱水、低体温症、ショックなどの症状が現れる。触診による診断のほかには、レントゲン検査、バリウム造影などで鑑別を行う。
泌尿生殖器疾患
モルモットは妊娠、出産に伴うトラブルの発生が多い。栄養不良やストレスが原因に大きく関与している。
膀胱炎/膀胱結石
比較的多くみられる疾患である。慢性ではほとんど症状を示さないが、血尿、膣からの血性の排出物、あるいはケージ内に血液が検出され発見される。雄や若齢のものより老齢の雌に多いといわれている。結石の組成は、炭酸カルシウム、リン酸マグネシウムアンモニウム6水和物(MAP)やリン酸カルシウムである。
診断は臨床症状およびレントゲン検査、尿検査で鑑別される。
卵巣嚢腫
身体検査時、触診時に腹部腫瘤が触れる。診断は超音波検査が有用である。治療法は卵巣子宮摘出手術である。
妊娠中毒/ケトン症
妊娠後期に最も多くみられる。肥満(800g以上)、餌の変化、初回または2度目の妊娠や遺伝などが誘因となる。
肥大した子宮に大動脈が圧迫されて起こる子宮胎盤の虚血が原因であるという説もある。ケトン症の症状は急死するか、あるいは食欲不振、悪臭尿、呼吸困難、黄疸で、2~5日以内に死亡する。
血液検査では低血糖、高脂血症、ケトン血症、貧血、血小板減少症、高カリウム血症、低ナトリウム血症や低クロール血症、肝臓酵素上昇がみられ、尿検査では蛋白尿や酸性尿がみられる。予後は不良である。
異常分娩
モルモットの恥骨結合は繊維軟骨で、妊娠末期にホルモンの作用で融解が起こり、分離する。分娩時には2cmの隙間ができる。本症は恥骨結合部が癒合した7ヶ月齢以降に繁殖させた雌、肥満雌、陣痛微弱、過大胎仔、胎位異常などの原因が考えられる。 症状は元気消失、緑色や血性の分泌物の悪露、産道に胎仔の一部が突出しているのがみられる。治療は帝王切開である。陣痛微弱である場合は、オキシトシンの投与を行う。
腫瘍
乳腺腫瘍
良性の繊維腺種や悪性腺癌がみられる。周囲のリンパ節、腹部臓器や肺に転移することもある。病巣部の組織を除去し、局所転移がないかを確認するのに周囲の腺組織と所属リンパ節の広範囲の切開が必要である。
皮膚の腫瘍
モルモットで最も多い皮膚腫瘍は毛包腫だといわれている。毛包腫は固く丸い結節として背部や体躯の側面(脇腹、大腿外側)によくみられる。治療は外科的に切除する。そのほか、繊維肉腫、皮脂腺種や脂肪腫などがみられる。