サルの飼い方
サルはペットとして難しいエキゾチックアニマルの一つであり、コンパニオンアニマルとして勧められない。慣れるとはいえ、トイレなどのしつけをすることは困難である。餌、飼育管理、法律、心理的ケアー、健康維持などに精通していなければならない。さらに人畜共通伝染病に関しても十分に学んでおかなければならない。 また、本邦ではこれまでは霊長目は検疫対象動物ではなく、各都道府県などの簡単な許可(特定動物)だけで飼育可能であった。しかし1998年10月2日公布で、サル等の動物の輸入検疫等の措置が行われることになった。サルは人間を咬んだ場合や公衆衛生上の問題が起こった場合などに無免疫であったり、無許可である事実が大きな問題となることが多かった。
サルの分類
霊長目にはサル類だけでなく、分類上ではヒトも含まれている。サル類は多くの種類から成り立っており、それぞれが特有の形態、生理、生活様式をもっている。下等なものから高等なものまでの差は極めて大きい。
サル類は原猿類と真猿類に二分され、前者は下等霊長類、後者は高等霊長類と呼ばれている。真猿類はさらに広尾猿と狭鼻猿に分かれ、広尾猿は中央アメリカ、南アメリカ大陸に棲むため新世界ザルとも呼ばれている。また、狭鼻猿はアジア、アフリカ大陸および南太平洋諸島に棲むことから、旧世界ザルとも呼ばれている。
主なサルの分類(原猿亜目)
- キツネザル科
- ワオキツネザルLemur catta
- チャイロキツネザルLemur fulvus
- ロリス科
- オオガラゴOtolemur crassicaudatus
- ショウガラゴ(セネガルガラゴ)Galago sene
- スローロリスNycticebus pygmaeus
主なサルの分類(狭鼻下目)
- オナガザル科
オナガザル亜科
マンガベイ属 - スーティーマンガベイC.atys
- オナガザル属
- ミドリザルC.aethiops
- パタスモンキー属
- パタスモンキーE.patasu
- マカク属
- ベニガオザルM.arctoides
- カニクイザルM.fascicularis
- ニホンザルM.fuscata
- アカゲザルM.mulatta
- ブタオザルM.nemestrina
- ヒヒ属
- キイロヒヒP.cynocephalus
- サバンナヒヒP.cynocephalus
- マントヒヒP.hamadryas
- マンドリル属
- マンドリルP.sphinx
- コビトグエノン属
- タラポワンM.talapoin
- コロブス亜科 コロブス属
- アビシニアコロブスC.guereza
- リーフモンキー属
- ハヌマンラングールP.entellus
- シルバールトンP.cristata
- テナガザル科 テナガザル属
- シロテテナガザルH.lar
- フクロテナガザルH.syndactylus
- ショウジョウ科 チンパンジー属
- チンパンジーP.troglodytes
- ピグミーチンパンジーP.paniscus
- オランウータン属
- オランウータンP.pygmaeus
- ゴリラ属
- マウンテンゴリラG.g.beringei
- ウエスタンローランドゴリラG.g.gorilla
主なサルの分類(広鼻下目)
- マーモセット科(キヌザル科) ゲルディモンキー属
- ゲルディモンキーC.goeldii
- マーモセット属
- コモンマーモセットC.jacchus
- ピグミーマーモセット属
- ピグミーマーモセットC.pygmaea
- タマリン属
- セマダラタマリンS.fusciollis
- クチヒゲタマリンS.mystax
- ワタボウシタマリンS.Oedipus
- オマキザル科 ホエザル属
- マントホエザルA.palliata
- クモザル属
- アカクモザルA.geoffroyi
- ヨザル属
- ヨザルA.trivirgatus
- ティティ属
- オラバッスティティC.moloch
- オマキザル属
- フサオマキザルC.apella
- ノドジロオマキザルC.capucinus
- ナキガオオマキザルC.nigrivittatus
- ウーリーモンキー属
- フンボルトウーリーモンキーL.lagotricha
- リスザル属
- リスザルS.sciures
- ブタオザルMacaca nemestrina
- 原産地:ミャンマーからマレー半島、スマトラ
頭胴長:雄49.5~56.4cm 雌46.7~56.4cm
尾長:雄16.0~24.5cm 雌13.0~25.3cm
体重:雄6.2~14.5kg 雌4.7~10.9kg
体毛は褐色で、腹側は淡い色をしている。顔のまわりは濃い褐色である。 - フサオマキザルCebus apella
- 原産地:北アフリカ、中央アフリカ
頭胴長:35.0~48.8cm
尾長:37.5~48.8cm
体重:雄1300~4800g 雌1370~3400g
顔の周囲には黒くよく目立つ毛が生えている。頭頂部には黒い房毛がある。 - タラポワンMiopithecus talapoin
- 原産地:アンゴラ、ザイール
頭胴長:雄約3cm
尾長:雄約5.3cm
体重:雄1255~1280g 雌745~820g
体毛は緑がかった色で、腹部と四肢の内側は淡い色をしている。 - リスザルSaimiri sciureus
- 原産地:ブラジル、ギアナ、スリナム、ベネズエラ、コロンビア
頭胴長:雄約31.8cm 雌31.2cm
尾長:雄約40.9cm 雌約40.5cm
体重:雄554~1150g 雌651~1250g
ペットとして最も多く飼われている種類である。体毛は短く、肺側と四肢は黄色ないし、白。
顔、耳、喉は白。鼻口部と尾の先端は黒。頭頂と頬から鼻にかけての部分の毛は濃い緑ないし黒。 - コモンマーモセットCallithrix jacchus
- 原産地:ブラジル
頭胴長:雄約18.8cm 雌約18.5cm
尾長:雄約28.0cm 雌約27.4cm
体重:雄約256g 雌約236g
白くて長い耳すさを持ち、体毛は灰褐色で、尾には輪状のしま模様がある。頭部は黒っぽいが、前頭部には白い部分がある。 - ノドジロオマキザルCebus capucinus
- 原産地:エクアドル~ホンジュラスにかけて
頭胴長:33.5~45cm
尾長:35~55.1cm
体重:雄約900g 雌約700g
体毛は腕、体の両側および腹側は淡いクリーム色ないし、白。背中と四肢の尖端にいくにつれて黒くなる。
頭頂部にはよく目立つ黒い毛が生えており、顔の毛は白い。 - スローロリスNycticebus coucang
- 原産地:東南アジア
頭胴長:26.5~38cm
尾長:1.3~2.5cm
体重:雄約1210g 雌約1190g
体毛は変位が大きい。くすんだ灰色の濃い線が背中を通り、頭部で2本に分かれたあと、眼のまわりを囲む。 - ピグミースローロリスNycticebus pygmaeus
- 原産地:ベトナム、ラオス、カンボジア
頭胴長:21.0~29cm
尾長:痕跡的
体重:雄約460g 雌約370g
スローロリスの亜種と分類されることもある。
霊長類の特徴
霊長類の脳は、ほかの哺乳動物の脳と比べて大きく、大脳の溝と皺がより複雑になっている。皺は高等なサルほど多い。霊長類はすべて小脳よりも大脳のほうが発達しており、その大脳には感覚を司る中枢が含まれている。
また霊長類は、進化の過程で嗅覚に頼ることが少なくなり、嗅覚は退化し、一方、視覚の方は著しく発達した。ほとんどのサル類は目が前を向いており、完全な両眼視(立体視)が可能である。このため正確な距離を判断することができ、遠方の物体の大きさや形も判断でき、色の識別も可能である。
さらに霊長類は、物を持つ、握る、つかむ、投げる、弾く、つまむといった複雑な動作ができる。指の先の方は知覚神経が発達しており、手触りによって物体の大きさ、形を知ることができる。
狭鼻猿と広鼻猿の違い
サルには体の大きなチンパンジーから小さなコモンツパイまで、それぞれに大きな違いがある。
狭鼻猿(旧世界ザル)は、鼻孔のが広く、両頬の内側に頬袋があり、そこに食物を貯めて徐々に食べられるようになっている。また、多くのものは坐骨結節の上に尻ダコを有する。アカゲザルの永久歯の歯式は、2(2/2 1/1 2/2 3/3)で総数32本である。特に犬歯は性的に二次的成長を示し、大きく成長する。
一方、広鼻猿(新世界ザル)は、鼻腔の間隔が広く、体格は小さめのものが多い。ものに巻き付くことのできる尾を持っている。マーモセット科のサル類の永久歯の歯式は、2(2/2 1/1 2/2 3/3)で総数32本、オマキザル科のサル類は、2(2/2 1/1 3/3 3/3)で総数36本である。
狭鼻猿は性周期の特徴として月経があり、多くは季節繁殖を持っているが、一年中発情を迎えていると推測される。
生理学的情報(種類によって大きな差があるのでおおよその参考値にとどめてほしい)
呼吸数 30~40回/分
循環血液量 50~80ml/kg(3~7kgのサル)
心拍数 260(230~290)回/分
体温 36~40℃
基礎代謝 約50kcal/kg/日
寿命 マーモセット類 10~15年
リスザル、カニクイザル、ニホンザル、アカゲザル 15~25年
ヒヒ類、テナガザル類 約30年
チンパンジー 約40年
マカク属サル類の解剖
骨格
椎骨は、頚椎7、胸椎12、腰椎7、仙椎3である。個体により違いがみられるが、尾椎は二十数個で、12対の肋骨を持つ。
消化管
食道は12~18cmの長さである。
胃の形態は人間と似ている。小腸、大腸はそれぞれ80~100cm、約50cmの長さを持っている。回盲弁(回腸の開口部)の先に袋状の盲腸があり、また、盲腸には類人猿などの一部を除いて虫垂(虫葉突起)は存在していない。
肝臓の形状は不規則であり、胆管が十二指腸に開口している。
腹腔の背壁に位置して左右2つの腎臓がある。左腎は右腎に比べやや大きく、左腎の位置よりかなり下方に見られる。膀胱の尿貯留量は50~60mlである。
脾臓は個体によってサイズに大きな差が見られる。膵臓は胃の背側横軸に沿って位置する。2本の膵管が十二指腸に開口する。
胸腔
気管は長さ9~12cmの軟骨輪に囲まれている。
肺は、左肺が3葉(前葉、中葉、後葉)右肺は4葉(前葉、中葉、後葉、副葉)である。
人間と類似した形態の心臓を持つ。右心室の壁厚が非常に薄いことが特徴的である。左心室の壁は厚い。
泌尿生殖器
生殖器系も人間に形態が類似している。子宮は単子宮である。
飼育上の留意点
サルは感情的な動物である。そのため乳仔期の環境によって性格が異なる。成長後は人間に危害を加えることもあるので、飼主は注意が必要である。野生ではどの種類も自然の社会グループからルールを学ぶ。従って幼齢期からの飼育は、野生下での豊かな環境をどれだけ飼育下で与えられるかが重要である。
つがいやそれ以上の数でサルを飼育することは、メリットとデメリットがある。仲間を持つということは社会的に利点である。ボスからいじめられることも含めて、社会行動の参加は必須である。しかし、ペアで飼育しても退屈したり、無視したり、どちらかの個体が優位に立つことが多い。原則として、霊長類では、他種の霊長類と一緒の飼育は病気の伝播面ばかりでなく、種特有の行動が妨げられるため、行うべきではない。
ケージ
サル用にデザインされたケージで飼育するべきで、実際、鳥かごなどは強度の面や衛生維持の面からも不適切である。外国にはサル専用ケージも市販されているが、本邦では一部のショップでの注文販売となる。サル専用ケージはサルがケージをかじっても塗料がはがれないように焼き付けてある。また、餌や排泄物が飛び散らないように、すのこの下に大きな囲いが取り付けてある。繁殖をさせるには、広めのスペースとさらに巣箱や隠れ場所が必要である。
寝具/隠れ場所
夜行性の原猿であれば、昼間に睡眠用に暗くなる場所が必要である。木製箱などを利用してもよい。また中型のサルにはハンモックは最適である。バスタオル等をケージの角にとりつける。2ヶ所はケージにつなげて、もう2ヶ所はバンジーゴムでつなげると跳ねるようになる。また、一般に寝具とは別に隠れる場所は必要である。ペア飼育の場合は、隠れ場所が、ほかの個体と離れられる安全なスペースとなる。
付属品
止まり木や巣箱などの付属品は、耐久性の優れた掃除しやすい材質でなくてはならない。
照明器具
完全室内飼育の場合、夜行性の種類以外には照明器具としてフルスペクトルの蛍光灯の使用を勧める。紫外線はもちろんのこと、すべてのスペクトルを有するもので、できれば時間調節も可能であるものがよい。
湿度、温度
多くの霊長類の環境至滴温度は18~27℃の間で、急激な変化があってはならない。湿度の理想値は55~70%の範囲であるが、マーモセットのような新世界ザルは、特に育仔中にはやや高めの湿度(70~80%)にする。
トイレ
小型の種類はオムツをつけて生活することが可能である。人間の生理用ナプキンを工夫改良してサル用にする。しかし、小さい頃からしつけなければ不快に思い、外してしまうことが多い。原猿、中大型種はオムツをつけるのは困難である。 オムツができない中大型の霊長類はケージのすのこに排泄物を落とす。さらに、排泄物を手にして遊んだり、投げつけたりするので注意する。
掃除
適切な消毒と衛生保持に留意する。消毒薬はできれば殺菌、殺ウイルス作用のあるものを使用する。
- ケージ
- ケージの掃除の仕方は形によって異なるため、それぞれに合った掃除を行う。時にはケージ全体を水洗いして日光消毒するとよい。
- トイレ
- ケージ内の床やすのこは毎日、時には一日に数回掃除する。特に尿量の多い種類、体の大きい種類は掃除はまめに行う。
- 餌入れ
- 餌入れを乾拭きする。これはペレットなど乾燥した餌を与える場合であり、昆虫、野菜や果物などの水分の多い餌を与える場合は、食後水洗いして乾燥させる。
- 水入れ
- 水の汚れにくいボトルタイプの水入れが多用されているようだが、洗いにくいのが難点である。水筒などを洗うブラシを使うとよい。吸口側についているゴムのぬめりもきちんと取る。
サルの餌について
種類によって与える餌の内容はもちろん異なる。新世界ザルは昆虫(動物性蛋白)を多く食べるが、旧世界ザルは果物や野菜を多く食べる。実験動物用のモンキーフードは、マカク種に対するものが圧倒的に多い。餌の要求量など、詳しくその特性がフードのパッケージに記載されている。現在ショップでは、数種のブランドで市販されており、飼主は入手可能である。しかし、飼主の多くは市販のフードやビスケットより、人間と同じものや好物などを与えたがるので、市販の餌を食べさせるのが困難であることが多い。ペットのサルは主に次のような要素のものから成り立っている餌を与えられている。やはり栄養のバランスが大切である。
- ◎モンキーフード、モンキービスケット
- ◎ドッグフード、キャットフード、フェレットフード
- ◎動物性蛋白質(昆虫)
- ◎果物、野菜
- ○その他
霊長類の多くは、1日に体重の約3~5%量の餌を消費するが、遊んだり、こぼしたりして餌の多くが無駄になるので、より多くが無駄になるので、より多量の給餌が必要になる。1日に1回、全量を餌入れに入れて与えるより、2~3回に分けて餌を与えたほうがあまり無駄がない。
野菜類
ニンジン、ブロッコリー、パセリ、カブの葉、チンゲンサイ、大根葉、小松菜、カリフラワー、サラダ菜、サツマイモ、ニンジン葉、セロリなど。
種子類
大豆、落花生、えん麦、大麦、小麦、ふすま、アーモンド、くるみなど。
高脂肪の種子は嗜好性が高く、よく食べるが、栄養的な偏りがある。
果物
リンゴ、メロン、ブドウ、イチゴ、バナナ、パイナップルなど。
果物を多く与えると、糖尿病や歯牙疾患の発生が多くなる。
ペレット
モンキーフード、モンキービスケット
・蛋白質
専用フードのうち、新世界ザル用の餌の蛋白質含有量は、約20~25%であるが、旧世界ザル用では15%である。
・ビタミンD
新世界ザルはビタミンD3(cholecalciferol)を必要とするが、旧世界ザルはビタミンD2(ergocalciferol)を代謝によって得ているため、ビタミンD3を必要としない。ただし、市販の餌の多くはビタミンDを含有している。
・ビタミンC
ビタミンCは市販のペレットやビスケットに添加されているが、劣化しやすいため、新鮮な果物かビタミン剤で毎日補うようにする。ビタミンCは、どのような液体中でも酸化されてしまうので、飲水やジュースに混ぜたりすると劣化する。また、光線でも劣化が起こり、金属が触媒となって劣化することもある。霊長類には、1日体重1kg当たり1~4mgの推奨量以上に投与するべきである。ペレットやビスケットは正しく保管し、製粉後90日以内に使用しなければならない。また補給用のビタミンCの錠剤は、遮光して密閉容器に保存しておく。
蛋白質
動物性蛋白質が推奨される。例えばゆで卵、低塩煮干し、低塩チーズ、小動物用ミルク、肉(鶏頭、レバーなど)、ピンクマウス、ピンクラットなど。
昆虫
ミルワーム(チャイロコメノゴミムシダマシの幼虫)、スーパーワーム、ミルクワーム、ハニーワーム、コオロギ、ミミズ、つり餌の赤虫、イナゴなど。
水
給水ボトルを使って与えるのが最適である。床に置くタイプだと、手で放り投げたり、遊んだりするので勧められない。
サルのケアについて
シャンプー
サルは本来きれい好きである。自分で手入れを行う習性があるが、ペットとしてのサルは水を嫌わないならシャンプーや入浴も問題なくできる。シャンプーや入浴はリラックスや楽しい時間にはなるが、反対にストレスになることもある。原猿以外では最初は人が見本となり、入浴を見せることも一つの手段である。
グエノン、オマキザル、マカクは自ら入るものが多いが、クモザルはあまり入らない。公衆衛生上、免疫力の弱い人や乳幼児は一緒に入ってはいけない。
ブラッシング
サルはグルーミングで被毛を清潔に保つが、ペットのサルはブラッシングが可能である。時には学習によって、人にブラッシングされても安全であると理解できる。グルーミング以外にブラッシングすることは皮膚を清潔にするのに役立つ。ブラッシングはサルをリラックスさせ、お互いに信頼感を養える。
・グルーミング
サルの場合、グルーミングはペアで行う。心理的には社会形成に重要な行為であり、物理的にも効果がある。下位のサルが上位にサルに行うことが多い。
玩具/運動
霊長類のために作成された玩具は、安全で耐久性にも優れ、ケージに閉じ込められたサルが操作して遊ぶことができるので、大変役立つが、本邦ではあまり市販されていない。サルの種類によって玩具の好みも異なり、その玩具で遊ぶ時間の長短も異なってくる。サルが退屈しないよういろいろな玩具を試してみたり、玩具を時折、順に取り替えたりするようにする。
サルは飼主が不在の時は、必ずケージに収容しておくべきで、決して家の中を自由に動き回れるようにしてはならない。中大型のサルをケージから出す場合は、常に首輪を装着しておくと、動物の制御やケージに戻す時に便利である。
検疫
1998年10月2日公布で本邦でもサルは検疫対象動物となった。従って輸出国によって異なるが輸出前に検査を受けた健康個体のみが輸出され、本邦でも検疫を行い輸入される仕組みになる。しかしこれまで未検査で輸入されていたこともあり、サルの卸業者もしくはペットショップ自身が自主検疫検査を行っていた。しかし、経済的理由により検査が行われていないことも多い。
予防接種
予防接種は、サルにとって重要なだけではなく、彼らと接触することによって人に感染する人畜共通伝染病の危険性を可能な限り防止する意味でも重要である。安全が保障されているワクチンであれば、積極的に行うべきである。その使用は種類、年齢、飼育環境によって多少異なる。しかし動物用でなくヒト用のものを使用するので、飼主とよく話し合いをするべきである。そして、もちろん接触する側の人間も予防接種を行うべきである。
サルが人へ及ぼす傷害
サルは相手に咬みついて身を守る習性がある。野生では群れの中でルールを身に着けて覚えるものであるが、人間に対する対応は幼仔時の環境が左右する。ペットのサルでは自分をボスと思い込んだり、咬みつくときの力加減を知らなかったり、またはストレスによる凶暴化などが人への攻撃へとつながる。特に旧世界ザルの雄は大きな犬歯を備えており、強力な顎を持っている。たとえ犬歯を欠いていても安全な動物とは言えない。
サルの飼主の中には犬歯をニッパなどで破折させることがあるが、これは露髄して感染を起こし、歯髄炎や根尖病巣の発生の原因になる。また犬歯を抜歯しても体重20kgのマカクは一瞬にして成人の指を咬みちぎることがある。実際はこれほど大きなサルを飼育している人は少ない。
サルの身を守る手段として、咬みつくことに次いで引っかくことがある。サルは力のある指と固い爪でがっちりとものをつかむことができる。そのため、引っかかれた後にできる傷は深く、疼痛の強いものとなる。中型や大型のサルでは人にひどいつねり傷や打撲傷を与えることがある。
サルのそばで、指にかかる恐れのあるポケット、マフラー、ネクタイを身に着けていると、強引に引っ張られてしまう。このほかに眼鏡、帽子といったものもサルはひったくる。原猿は大概はおとなしく、上述のような咬みつくことの危険性はないが、スローロリスなどはものをつかむ力が強く、棒にしがみついたらなかなか離さない。また、チンパンジーの動きを抑えるのに成人の男性4人の力を要したという例もある。大型のサルに手や足をつかまれると、人間の力ではこれを解くことができない。オランウータンやゴリラに指一本で手をつかまれても、払いのけることは不可能であるといわれている。
また、サルは周囲の人間にものを投げつけることができ、人が重傷を負う場合もある。大型のサルは麻酔銃などにより注射を受けると、その注射筒を体から抜き、麻酔銃を撃った人に投げ返すことが知られている。チンパンジーやゴリラは興奮すると、麻酔銃の注射筒、糞、小石、木片など手近にあるものを拾い上げて、麻酔銃の射手に投げつけたり、水をかけたりする。ペットのサルでは自分の糞を投げつけることがよくある。新世界ザルはものをつかむことのできる尾を持っている。保定する場合には、この尾は特に危険ではないが、邪魔になり、面倒である。
サルは嫌いな人を覚えて、ほかの人と区別できる。嫌なことをされると、そのことを一生覚えている。
従って、サルの飼主は、咬創や掻創を負ったときの応急処置について訓練する必要がある。サルによるケガを決して甘く見てはならない。創口から感染を起こす確率は極めて高いため、十分な処置が必要である。
注意すべき疾病
呼吸器疾患
呼吸器疾患は肺炎像を示すことが多い。症状としては顕著な呼吸困難を伴い、開口呼吸、運動不耐性、嗜眠、食欲不振や咳などがみられる。
- 結核
- 初期症状をみることなく、急速に全身臓器に伝播し、臓器に粟粒性のの結節巣を形成することが多い。診断にはツベルクリン試験を行う。治療では基本的に安楽死を勧めるべき疾患でもあり、公衆衛生上から、希少種でない限り治療は行わない。
そのほか、飼主をはじめ、同居している人間、サルにも結核の検査を行う。重症例や老齢個体では、免疫能の低下により反応が陰性を示すことがある。この場合には、レントゲン検査、胃液や喉頭粘液を採取し細菌培養を行い、結核菌の検出で診断する。
・ツベルクリン試験
26ゲージの針を付けたツベルクリン用注射器を用い、左右いずれかの上眼瞼の皮内にツベルクリン液を接種し、24、48、72時間後に観察する。
病変がある場合には、12時間後にも接種場所の発赤や腫脹が明瞭になる。結果が疑陽性の場合には患者を隔離し、2週間後に初回に接種した対側の眼瞼で再検査する。 麻疹
原因菌はStreptococcus spp.,Klebsiella pneumoniae,Staphylococcus spp.,Haemophilus spp.などである。Bordetellaは新世界ザル類の肺炎でよくみられるものである。
細菌性肺炎は麻疹やインフルエンザなどのようなウイルス感染に二次的にみられたり、旧世界ザルにおけるPneumonyssus属、Rhinophaga属のような肺ダニが併発する場合もある。また、Candida albicansによる真菌感染を併発する場合もある。
症状は、鼻腔からの膿性鼻汁の排出、呼吸困難などである。肺の聴診で異常と確認できる。 - フィラリア
- サルに寄生する糸状虫類には、ディロフィラリア亜科のDirofilaria属、Edisonfilaria属、Loa属、Macacanema属と、オンコセルカ亜科のDipetalonema属、br /ugia属、br /einlia属、Wuchereria属などが知られている。特にマーモセットやオマキザル類では、腹腔内からDipetalonema属の糸状虫が多種検出されている。
まれに類人猿で右心房からDirofilaria pongolの成虫が見いだされ、狭鼻類ではリンパ節やリンパ管からマレー糸状虫(br /ugia malay)がみられる。Dirofilaria pongolとマレー糸状虫以外は、皮下織、筋、体腔内などに寄生する種類のすべてが末梢血中にミクロフィラリアを産出する。
消化器疾患
感染以外にも餌の急な変更、栄養障害、またストレスによっても発生する。人畜共通伝染病である細菌性赤痢、サルモネラ症、エルシニア症やカンピロバクターの感染、一部の寄生虫症は特に注意する。また、ヒエ、グエノン、マカクなどでは月経による出血が下痢便に混在することがあるので、血液が混じった便が認められる場合には外陰部の観察を行う。南米産のサル類では月経出血はみられないか、ごく少量である。
内部寄生虫
- 糞線虫
- サル全般から高率に検出される。広尾類からStrongyloides cebus、狭鼻類からは乳頭線虫(S.papillosus)、サル糞線虫(S.fuelleborni)、類人猿からは糞線虫(S.stercoralis)が検出される。いずれも幼虫形成卵、または第一期幼虫で糞に排出する。 ・赤痢アメーバEntamoeba histolytica
アメーバのなかでも唯一病原性があるものとされている。しかし最近では、この中にも病原性があるものとないものが同定されている。 ・鞭毛虫類
ランブル鞭毛虫(Giardia lamblia)、腸トリコモナス(Pentatrichomonas hominis)などが下痢の原因として感染する。 赤痢 原因菌はShigella dysenteriae、S.flexneri、S.boydii、S.sonneiの4菌である。潜伏期は2~9日で症状は急性の粘血便、食欲低下である。無症状の保菌個体も多く、ほかの個体の感染源となることもある。感染経路は経口感染である。診断は糞便の培養検査である。 - サルモネラ
- 原因菌はSalmonella typhimurium、S.Stanleyでほかのサルモネラは陰性となることが多い。症状は下痢が発現することは少なく、むしろ感染源としての保菌状態が問題となる。感染経路は経口感染である。
診断は糞便の培養検査である。しかし各種の抗生剤に耐性を示す菌株に遭遇することも普通であり、検出菌株の各種抗生剤に対する感受性試験を行うことが推奨される。 - 歯牙疾患
- 炭水化物、特に果物や人間の菓子が多量に給餌されている場合に、歯石、歯肉の炎症の発生が多く見られる。また、ペットショップ、飼主による犬歯の破折、噛み癖による犬歯、臼歯の咬耗で歯髄が露出した場合は感染により歯髄炎が発生する。症状は上顎歯なら上顎の眼周囲、副鼻腔にあたる付近が腫れ上がったり、下顎歯なら下顎に腫大がみられ、瘻孔からの排出を認めることもある。レントゲン検査を行うと、患歯根尖周囲の骨吸収像が認められることがある。この場合は歯髄炎か根尖病巣が発生しているので、早期に抜歯や歯内処置をすべきである。根尖に問題がなくても、時間の経過に伴い、根尖病巣が発生すると予想されるので、早期に処置すべきと考えられる。また、う蝕による歯髄炎の場合も同じ処置が必要となる。またビタミンC欠乏による歯肉の出血も見られる。
ウイルス性疾患
サル類からは多数のウイルスが分離されており、ヘルペスBウイルス、サルポックスウイルス、サルサイトメガロウイルス、ヒトヘルペスウイルス6様ウイルス、麻疹ウイルス、サルアデノウイルス、サルフォーミュラーウイルス、サルT細胞指向性ウイルスなどがよく知られている。また、中には、サル免疫不全ウイルス、フィロウイルス、サルレトロD型ウイルス、サルエボラ様フィロウイルス、サル伝染性単核球症ウイルスなど重大な病原性を有するものも少なくない。
これらに関する検査は、本邦で行えるものと海外でのみ行えるものがある。そして診断の際には、サルの種類によって感染し得るかどうかも考慮しなければならない。
内分泌性疾患
糖尿病、クッシング症候群など人と同様に内分泌性の疾患はみられる。果物中心に餌を与えている個体には糖尿病をはじめ多様な疾患がみられる。
- 真生糖尿病
- 中年齢期から老齢期に好発する。体重は軽度から過度に肥満なものまで、糖分の多い人と同じ食物を摂取しているものに多い。品種ではオマキザルに好発する。 動物がおとなしく注射をさせないのでインスリン療法で維持することは困難なことも多い。治療は食事管理とインスリン療法である。
栄養性疾患
霊長目で最も多くみられる疾患である。
- ビタミンC欠乏症
- 症状は出血を伴う歯肉炎がみられ、歯が揺れるようになることが多い。そのほか、長骨端の腫脹、関節痛や骨膜の出血および血腫などもみられる。症状として跛行、鈍い動作や取り扱い時に痛みを示すなどがみられる。治療はアスコルビン酸の投与を行う。
- 頭部の血腫
- 頭部の血腫は、特にリスザルでよくみられる。これらの血腫は小さな創口から二次的に発生するもので、結果的にかなり大きな血腫になることもある。外科的に数日間、創液を誘導排出して包帯をしておくことが必要である。ビタミンC療法に対する反応は極めて急速で、食餌を修正すると、通常、数週間で多くの病巣は治癒する。
神経筋疾患
環境の不備や事故で外傷が発生したり、栄養性疾患のため骨折がみられたりすることもある。
- 脳炎
- 連鎖球菌感染症と併発あるいは続発して、脳炎、髄膜炎あるいは脳脊髄膜炎がみられる。脳炎になると進行性の衰弱、悪液質、運動失調、斜頚などがみられ、不自然な体位で異常な動きをするようになったりする。全眼球炎、眼瞼浮腫、眼球振盪がみられる。脊髄穿刺での培養検査や細胞診で診断する。予後は不良である。
- 外傷
- 指先が器用であるので、身の周りのさまざまなものに興味を示し、思わぬ事故を起こすことがある。小さな穴に指を突っ込んで抜けなくなってしまったり、ほぐれた糸が指に絡むなどの事故が発生する。こうしたことから骨折、脱臼、裂傷、熱傷などの外傷がよくみられる。これらの事故は幼若な個体や好奇心旺盛な個体で起こりやすい。
- 代謝性骨疾患
- 成長期にカルシウム不足に伴い、くる病として病状が出現する。さらに、食餌に含まれるカルシウム、ビタミンDの欠乏やカルシウムとリンのバランスの悪さから、代謝性骨疾患になる可能性がある。骨組織の繊維性置換がみられる。
新世界ザルはビタミンD3の要求量が高いことから、特に多くみられる。症状は動くことを嫌い、骨折、脊柱後湾、血清アルカルフォスファターゼ値上昇や皮質の骨密度の低下などがみられる。治療はビタミンD3とカルシウムを含むバランスのとれた餌、フルスペクトルを含む光源の使用が含まれる。
予後は動物の年齢、障害の度合いなどによりさまざまである。
生殖器疾患
環境、ストレス等が性ホルモンへ影響するために発生すると思われる。特にマカク属での発生が多くみられる。
- 卵巣子宮疾患
- 高齢の雌に発生しやすい。症状は子宮内膜炎、卵胞嚢腫が多くみられる。不妊や性周期の延長、不規則性などの症状に気づく。治療は、外科的に卵巣子宮を摘出するか、あるいはホルモン療法を試みる。