とかげの飼い方
爬虫類の病気の多くは、不適切な飼育によって引き起こされる。爬虫類を飼育するためには、温度・湿度・照明などさまざまな条件を満たしてやることが必要である。
とかげの飼育環境について
照明
照明はビタミンD3の合成以外に食欲を増進するさまざまな理由で必要である。また繁殖を試みようとするならば、一年を通じて照明時間に変化を持たせることが必要になる。
フルスペクトルタイプの蛍光灯などを用いるとビタミンD3合成が促進できる。しかしガラス越しでは効果がない。暖かい時期には日光浴をさせるとよい。紫外線灯の使用には注意が必要で、もし使用するのであればケージ前面に一日中照射せず、一部にあるいは短時間照射し、常に紫外線が当たっているような状態にならないようにする。
スポットライトなどは照明器具として使用する以外にホットスポットとして、食後消化を助ける目的などで使用できる。
ホットスポットは光のあたっている部分をケージ内の設定温度以上に暖める目的で使用するので、この目的に用いるライトはケージの片隅など一部のみに当たるようにする。ホットスポットのあたっている部分の温度は種類によっても異なるが、30~40℃程度になるように設置する。小さなケージではこのライトのためにケージ全体が高温になってしまうことがあるので注意する。ホットスポットの下にレンガや平たい石などを置くと腹部も下から暖められる。ホットスポットは日中、特に食事を与える前後に3~4時間程度つけて置けばよい。ホットスポットと同じ目的でパネルヒーターなどが用いられることがある。いずれもケージの暖房の目的で使用するのではないので、ケージの一部に設置するだけでよく、ケージ内に温度差があることが重要である。
保温
爬虫類は外温性の動物であり、特に外国産のものでは寒い時期に暖房器具が必要になる。
空気を暖めるのであればヒヨコ電球やパネルヒーター、赤外線灯や園芸用の温風ヒーターなどが利用できる。水中を暖めるならば熱帯魚用の各種ヒーターが利用できる。
ヒーターにはサーモスタットを接続して、その動物に適した温度の調節する。サーモスタットはホットスポットから離れた場所に設置する。また検温部の温度と実際に動物が行動するスペースの温度が異なっていることがあるので、カメであれば底面に、樹上性のものではケージの中部にとそれぞれの種類にあった部位にサーモスサットの検温部を設置する。
ヒーターはケージの中央に設置してケージ全体を一定の温度に調節するよりも、片寄らせて設置し、ケージ内に若干の温度差があるようにすると、動物は自分である程度の体温の調節ができるようになる。しかし低温部が限界温度以下にならないように注意する。
ヒヨコ電球など高温になるものには、直接動物が触れないようにカバーをつけるとよい。
ケージ内には必ず温度計を設置して、常に適切な温度に保たれていることを確認する。
水
水中で生活しているものや砂漠で生活しているものまで、その水分要求量は種類によってさまざまである。
水中で飼育するような種類では、水質の悪化は直接病気につながるので十分注意する。特に濾過器などを入れて外見上は便などが取り除かれている水でも、水換えを怠るとアンモニア濃度が高くなるなど水質が悪化していることがある。しかし濾過器はないよりもあったほうがよい。
陸棲のものでは、数ヶ月水を与えなくても餌からの水分で生きていけるものや水浴びが好きなものや、逆に多湿に弱いものなどさまざまである。また水飲みから水を飲むものや、ヤモリやカメレオンなどのように、霧吹きなどでケージの側面やケージに入れた観葉植物に吹きつけたしずくをなめるようにして飲むものもいる。
飲み水は、それぞれの種類に適した方法で与え、常に新鮮な水を与えるようにする。必要であれば飲み水に各種ビタミン剤を溶かして与えることもできる。
床材
床材としては新聞紙やミズゴケ、砂、小石、バークチップ、天然素材で作った猫砂などさまざまなものが利用できる。床剤を選ぶ上で重要なことは、誤って食べてしまった場合に害のないものを選ぶことである。
床材はある程度使用したならば一部または全部を交換するようにする。また砂や小石は定期的に水洗いして汚れを落とす。ミズゴケなどはカビが生えていないことを確認する。新聞紙は動物が動かしてヒーターに接触すると、火災の原因にもなるので注意する。
とかげの餌の種類
餌は種類によってもさまざまであるが、必ずその動物が必要としている栄養を満たすものでなければならない。嗜好性のよいものが栄養のバランスがよいとは限らない。本来その動物が食べているものを与えるようにするのが一番よく、嗜好性のよいものばかりを与えていると、栄養障害を起こすこともある。
- ミミズ
- カメ、トカゲ、サンショウウオ、カエルなどの餌として用いることができる。
- イトミミズ
- イモリやサンショウウオの幼生や淡水産のカメの幼体の餌になる。
- カタツムリ
- トカゲやカエルなどの餌として用いる。
- ミルワーム
- 市販されているので入手しやすいが、カルシウムとリンのバランスが悪いので、この虫のみを餌として長期飼育するのはよくない。コオロギなど他の昆虫と混ぜて、あるいはビタミン剤やカルシウム剤を添加して与えるようにする。
- コオロギ
- 小型や中型のトカゲやカエルなど昆虫を主食とするものや、雑食性のカメなどに与えることができる。各種ビタミン剤やカルシウム剤を添加して与えることもできる。
- カマキリ
- 卵を採取してきて孵化させると、一度に大量の餌が確保できて、小型のトカゲやカエルなどのよい餌となる。
- ショウジョウバエ
- ヤドクガエルなど小型のカエルの餌として最適である。
- ハエ・クモ・チョウ
- 上記以外にもさまざまな昆虫を餌として与えることができる。これらの昆虫は春から秋にかけて野原など屋外で採取する。
- アメリカザリガニ
- カメや大型のカエルの餌として用いることができる。またエビなども利用できる。
- 魚
- カメやトカゲ、カエル、イモリなどに与えることができる。金魚は容易に入手でき、ドジョウやクチボソなどの淡水魚も丸ごと与えればよい餌となる。
- カエル
- アフリカツメガエルは一年を通じて購入することができ、繁殖することも可能である。
- トカゲ
- アノールトカゲなどが餌として売られていて、特にトカゲしか食べない種類のヘビやトカゲなどに餌として用いられる。
- ヒヨコ・ウズラ
- 大型のトカゲやヘビの餌として利用できる。
- マウス
- マウスについては新生子から成体までさまざまなサイズのものが大型のトカゲやカエル、ヘビなど広範囲の爬虫類・両生類の餌として用いられている。マウスはまるごと与えれば栄養価も高い。マウスによる咬傷を防ぐために、安楽死させてから与えるようにしたほうがよい。冷凍されたマウスは湯につけてしっかり解凍し、特にヘビなどに与える場合は、37~40℃程度に暖めてから与えるようにする。
- 卵
- 一部のヘビで卵を常食としているものがいる。またテグートカゲなどは生卵を好んで舐める。餌としては鶏卵やウズラの卵が利用できる。
- 肉
- ニワトリのササミやレバーなど脂肪の少ない部分を与える。ササミなどは単独で与えるより、カルシウム剤やビタミン剤を混ぜて与えるようにしたほうがよい。
- 野草
- オオバコ、タンポポ、ハコベ、クローバー、その他のイネ科植物やマメ科植物などさまざまな野草が草食性の爬虫類の餌として用いることができる。特にリクガメなどに繊維質の多い野草を与えると便通がよくなるなどのよい効果がみられる。
- 野菜
- 小松菜、カブ、サラダ菜、モロヘイヤ、チンゲン菜、ナズナ、白菜、レタス、キャベツ、トマト、ニンジン、春菊、など多くの野菜が草食性爬虫類の餌として利用できる。ソラマメなどは蛋白質含量が多く、ナズナ,モロヘイヤ、小松菜などはカルシウム含量が、また春菊、モロヘイヤ、パセリなどはビタミンA含量が多い。ホウレン草はカルシウム吸収阻害物質であるシュウ酸などが含まれているのであまり与えないほうがよい。また、レタスなどはそのほとんどが水分なのでそれのみで飼育すると栄養障害を起こす。
- 果物
- リンゴ、バナナ、スイカ、イチゴ、ブドウ、ミカンなど果物のほとんどが餌として利用できる。
- 配合飼料
- 各種爬虫類用のフードやコイの餌、ラビットフード、キャットフード、ドッグフードなどが利用できる。キャットフードやドッグフードなどはそれぞれ犬猫用に開発されたものであり、爬虫類や両生類に作られたものではなく、それのみを単独で長期間にわたり給与した場合、障害があらわれることがある。これらの配合飼料はいずれも主食にはせずに、副食として不足している栄養分を補う程度に使用したほうがよい。
夏冬のケア
- 夏
- 高温多湿の夏はカビや細菌が増殖しやすい。また梅雨の時期には特に乾燥地帯に生息しているものには注意が必要で、多湿に弱いものにはホットスポット用の電球などを用いて、ケージ内の湿度を下げるように心がける。ただしこの際、温度が上がり過ぎないように注意して、風通しをよくする。夏は高山地帯などに生息しているものにとっては気温が高すぎる場合が多く、クーラーを用いたり、一部のサンショウウオなどは冷蔵庫に入れるなどして、温度の上昇を防ぐ。
炎天下での日光浴は日射病や熱射病の原因になる。真夏の日光浴は朝夕の涼しい時間帯に、風通しのよい場所で行い、必ず自ら体温を調節できるように日陰を作るようにする。屋内飼育でも、ケージ内が高温にならないように注意する。 - 冬
- 自然の状態で冬眠する種類では冬眠させることができる。しかし飼育下での冬眠は失敗も多く、冬眠中に死亡させてしまったり冬眠から覚めた直後のトラブルも多いので、特に幼若な固体では無理に冬眠させる必要はない。
しかし冬眠は生殖行動などにも関与しているので、繁殖を試みるのであればできる限り自然状態を再現すべきである。冬眠させるのであれば、夏から秋にかけて冬眠にそなえて十分に餌を食べさせて徐々に温度を下げ、冬眠中は5~10℃程度に保つようにする。
主に陸上で生活するトカゲの飼育
- アガマ科 Agamidae
- トゲオアガマ Uromastyx aegypticus
アゴヒゲトカゲ Pogona vitticeps - ヨロイトカゲ科 Cordylidae
- ワーレンヨロイトカゲ Cordylus warreni
オオヨロイトカゲ C.giganteus - カナヘビ科 Lacertidae
- ミドリカナヘビ Lacerta viridis
ホウセキカナヘビ L.lepida - スキンク科 Scincidae
- アオジタトカゲ Tiliqua gigas
マツカサトカゲ Trachydosaurus rugosus など
ケージ
陸上で生活するトカゲではホットスポットの下に岩を組んでおくと、そこに上がって日光浴をする。植木鉢を半分に割ったり、レンガを組んだりしてケージの一部にシェルターを作るとよい。床材に砂などを敷き詰めてやるとその中に潜る。これらのトカゲはほとんど平面的な動きしかしないので、底面積の広い乾燥したケージで飼育する。
保温
パネルヒーター、ヒヨコ電球、遠赤外線ヒーターなどを用いてサーモスタットで温度を調節する。ホットスポットもケージの一部に必ず作る。日中は25~30℃程度にし、夜は20℃くらいまで下げてもよい。ホットスポットは30~40℃程度にする。
主な餌
多くのトカゲには昆虫、カタツムリ、マウスの赤子などを与える。アゴヒゲトカゲやトゲオアマガ、アオジタトカゲなどは雑食性なので昆虫などのほかに少量の野草や野菜なども食べる。
樹上で生活するトカゲの飼育
- ヤモリ科 Gekkonidae
- ヒルヤモリ Phelsuma sp.
トッケイ Gekko gecko
ホワイトラインゲッコウ G.vittatus
トビヤモリ Ptychozoon lionotum - カメレオン科 Chamaeleonidae
- メラカメレオン Chamaeleo melleri
フイッシャーカメレオン C.fischeri
パーソンカメレオン C.parsoni など
ケージ
カメレオンの飼育は難しく、相当ていねいに飼育しても寿命をまっとうさせることはできない。ケージはできる限り広く、また風通しのよいものを用いる。ケージ内には観葉植物やさまざまな太さの木の枝を入れて、行動範囲を広げてやるとよい。カメレオンは葉についた水滴をなめるようにして飲むので、毎日霧吹きなどでケージの側面や観葉植物の葉などを湿らせてやるとよい。ただし一日中じめじめさせておくのはよくないので、ふだんはケージ内を乾燥させておく。朝夕に霧吹きしてケージ内の湿度を一時的に上げるとよい。また一つのケージで多数のカメレオンを飼育することは避ける。
昼行性のヤモリはほとんどカメレオンと同じような方法で飼育することができ、またヒルヤモリなどはあまり湿度を気にしないで飼育できる。夜行性のヤモリではホットスポットを作る必要はない。小型のヤモリでは保温さえしっかりしていれば、プラスチック製の小さなケージなどを用いて、ケージ内を特にレイアウトしなくても飼育できる。これらのトカゲは立体的な行動をするので、ケージにはしっかりとしたフタをつけるようにする。
保温
各種の保温器具を用いて保温する。カメレオンでは日中25~27℃前後にし、一日の温度差を10~15℃程度つける。夜間は10~15℃くらいまで下げてもよい。ケージ内を乾燥させるためにも、ケージの一部にホットスポットを作る。ヤモリでは日中の温度を24~30℃、夜間は20℃程度まで下げる。
主な餌
特にカメレオンでは単一の餌を用いての長期飼育には限界がある。長期飼育を目指すのであれば、常に数種類の餌を用意しておく必要がある。コオロギ、セミ、イナゴ、ハエ、コガネムシなどの各種昆虫やマウスの赤子など、できる限り多くの種類の餌を与えるようにする。ヤモリにも同様に各種の昆虫を与える。ヒルヤモリの仲間はヤモリには珍しく昆虫以外に果汁も好んでなめるので、ミカンなどの果物を適当に切って入れてやるとよい。またヒルヤモリ専用の餌も売られている。
樹上で生活する大型トカゲの飼育
- 種類
- グリーンイグアナ Iguana iguana
オマキトカゲ Corucia zebr /ata
バシリスク Basiliscus vittatus
ザラクビオオトカゲ Varanus rudicollis
エメラルドツリーモニター V.prasinus など
ケージ
樹上で生活するトカゲは立体的な動きをするので、高さのあるケージで飼育する。イグアナやオマキトカゲなどでは園芸用の温室をケージとして利用することができる。大きな木の枝を組んでやり、温室内に付属している棚を何枚か置いてやると、トカゲの行動範囲が広がる。ケージの一部にはホットスポットを作る。イグアナやバシリスク、ザラクビオオトカゲなどではケージ内に身体が半分以上入る程度の大きさの水場をつくる。バットなど軽い素材を使う場合は中にレンガなどを入れて重しをして、水をこぼさないようにするとよい。オマキトカゲなど、森林や林に生息するものはあまり湿度を気にしないで飼育できる。また水辺に生息するものには必ず大きめの水場を用意する。
保温
ヒヨコ電球やパネルヒーターを用いて保温する。日中は25~28℃程度に保温し、夜間はそれより5℃程度下げる。イグアナなどではホットスポットを30~37℃くらいにする。
主な餌
イグアナとオマキトカゲは草食性なので各種の野草や野菜、果物などを与える。オオトカゲ科の仲間はほぼ肉食性なのでマウスやヒヨコ、ウズラ、その他肉類を与え、オオトカゲの幼体やバシリスクにはコオロギなどの昆虫や小型のトカゲ、マウスの赤子などを与えるようにする。エメラルドツリーモニターは昆虫や小型の爬虫類、鳥類の卵などを食べるが、できるだけマウスやウズラなどを食べるように慣らしたほうが飼育しやすい。
その他の大型トカゲの飼育
- 種類
- サバンナモニター Varanus exanthematicus
アルゼンチンテグー Tupinambis teguixin
ゴールデンテグー T.rufescens など
ケージ
オオトカゲの仲間など非常に大きくなる種類のトカゲを飼育するには、かなり広いケージを用意する必要がある。ケージはオリジナルで製作するとよい。
サバンナモニターなど乾燥地帯に生息するトカゲではケージ内を常に乾燥させておき、水は常時入れておく必要はない。飲み水のみ与える。ケージ内にはトカゲの胴の太さと同じかそれよりやや太めの木などを入れてもよい。
テグーの仲間の多くではケージ内をあまり乾燥させる必要はなく、湿度を気にせずに飼育できる。ケージ内にはバットなどを入れて水場を作るようにする。
保温
温室用の温風ヒーターやヒヨコ電球、パネルヒーターなどを用いて保温する。乾燥地帯に生息するトカゲでは、日中25~30℃くらいに保温して、ホットスポットは35℃前後にする。夜間は日中より10℃程度下げてもよい。テグーの仲間では日中は25~28℃程度にし、夜間は22℃程度まで下げてもよいが、あまり温度を下げすぎるのもよくない。
主な餌
マウス、ラット、ヒヨコ、ウズラ、肉類、卵などを与える。
トカゲの骨格
トカゲなどの爬虫類の頭骨は多数の骨から構成されている。歯は通常円錐歯で、骨の内面に沿って付着しているのみで歯槽はなく、これらは生涯を通じて生え変わる。脊椎は頚椎、胸椎、腰椎、仙椎、尾椎に分けられる。仙椎は2~3個の仙骨からできていて、筋肉や靭帯で結合している。トカゲの尾椎は一部のものを除いて数が多く、尾を自切することのできるトカゲでは、尾骨のある部分に自切面があり、さらにその周囲の筋肉なども自切膜で仕切られていて、この部分で尾が切れる仕組みになっている。
四肢を持つトカゲでは前肢・後肢とも哺乳類の骨とほぼ同じ構成になっている。
トカゲの消化器
口蓋や口腔底部には単細胞腺がみられ、ドクトカゲHeloderma sp.にみられる毒腺は下唇部にみられる口唇腺が発達したものである。
トカゲの舌にはいくつかの形があり、多くのトカゲでは途中で二分していて次第に細くなっていくが、ヤモリやアオジタトカゲTiliqua sp.などいくつかの種類では扁平で、いわゆる舌状になっている。カメレオンでは発達した舌をもち、この舌は前方が膨らんだ棍棒状をしていて、非常に長く伸ばすことができる。またこの舌の内部には舌内突起と呼ばれる舌骨からの突起が収まっている。
消化器は食道、胃、小腸、大腸に大別される。食堂壁は薄く腹側左側から胃に入る。胃は嚢状か紡錘状をしている。腸管は肉食性あるいは雑食性よりも草食性の種類のほうが長い。肝臓はみかけ上、二葉に分かれているものや分葉のみられないものもある。
トカゲの循環器
トカゲの心臓は左右の心房と不完全に分かれた心室からなる。中隔によって完全に二分されていない心室は、日光浴により体を効率よく温めるのに都合がよいと考えられている。日光浴をしているトカゲでは皮膚面の血管が拡張し、多量の血液が通過するようになる。このとき暖められた静脈血は肺循環を通らずに心室から直接体循環へ入ることができるため、より早く体の中心部へ熱を転移することが可能になる。
トカゲに限らず爬虫類はすべて腎門脈系をもち、体幹後部および後肢の静脈が集まり、腎臓を経て後大静脈に至る。
トカゲでは腰帯後背縁と第一、二腰椎横突起間の筋層外側にリンパ心臓がみられる。この壁には横紋筋線維がみられ、その伸縮によってリンパ液が静脈に送られる。またリンパ管との間には弁があり、リンパ液の逆流を防止している。
トカゲの呼吸器
肋骨と胸骨が結合して胸郭を形成し、肋骨を動かすことにより胸郭を拡張あるいは収縮させ、これによって肺内の空気を出し入れすることができる。
気管は口腔底にそってかなり前方に開口している。肺は細長く、肺胞からなり、肺内は肺胞中隔によっていくつかの分室に分けられていて、末端では気嚢になって終わる。カメレオンでは肺の周囲の臓器間隙に発達した気嚢が入り込んでいる。
トカゲの泌尿生殖器
腎臓は後腎性で体腔背下側にみられ、外形は種類により若干異なり、楕円形であったり長楕円形であったりする。左右の腎臓には数本の集合管があり、腎臓から出た尿管は乳頭管へと通じる。トカゲの多くは膀胱を欠く。尿は半円形で便とともに排泄される。
精巣と卵巣はそれぞれ左右一対あり、体腔の背側、腎臓の前方に位置している。
精巣は楕円形で精巣上体が付随し、精管は尿管とは別に総排泄腔に開口する。
卵巣にはさまざまな大きさの未成熟な卵細胞のかたまりがみられる。これらの卵は繁殖期になると急速に発達する。
トカゲには卵性のもののほかに卵胎生のものもあり、受精はいずれも卵管内で行われる。卵胎生のものでは卵管内の卵は殻の代わりに薄い透明な膜で覆われていて、この膜の中で胎児が成長する。
雄には交尾器があり、これにより雌の総排泄腔内に精子を放出する。
トカゲの筋肉
トカゲの筋肉の基本的な構造は、四肢歩行の哺乳類と多くの点で類似している。
トカゲの外皮
皮膚は表皮と真皮から成り立っている。爬虫類では体表からの水分の蒸発を防ぐため、多くのケラチンを含んで死滅・扁平化した、たくさんの細胞が角質層をつくっている。いくつかの種類のトカゲで、鱗の下の真皮内に小骨片がみられる。
鱗は角質層が部分的に肥厚したもので、鱗間の角質層は比較的薄い。
カメレオンやヤモリなどでは体色を変化させることができるが、これはメラニン細胞内の色素顆粒の移動によるものである。
トカゲの中でカナヘビやイグアナなどでは大腿部腹面に疣いぼ状の突起物として確認される大腿腺がみられる。
脱皮は定期的に行われ、ヤモリでは脱落した皮膚を自ら食べる。蛇のように一度に脱皮が起こるものから、部分的に数箇所ずつ脱皮が起こるものもいる。
トカゲの感覚器
メクラトカゲ科Dibamidaeなどでは眼は退化しているが、多くのトカゲでは眼はよく発達している。一般にトカゲは眼瞼をもつが、眼瞼をもたないものでは眼球前面は透明な鱗で覆われている。眼瞼をもつものでは瞬膜がみられ、瞬膜あるいは眼瞼の間には結膜で覆われた溝があり、この溝の内角側からハルダー腺が、外角側からは涙腺が開口する。瞳孔は通常円形あるいは楕円形であるが、ヤモリの仲間では小孔に区分されているものもいる。
ムカシトカゲSphenodon punctatusやトカゲの仲間では頭頂部の鱗に円形の小さな頭頂眼がみられ、これは頭頂孔と呼ばれる頭骨にみられる小さな穴に収まっている。頭頂眼は水晶体、ガラス体、網膜と普通の眼と同様な構造をもっているが、レンズと網膜が接近しすぎていて、また虹彩もなく網膜の構造も完全ではないので、ものをみることはできない。頭頂眼は体温調節に関与しているに関与していると考えられ、ここで受けた光刺激がホルモン分泌とも連動して、トカゲのさまざまな行動を支配していると推測される。夜行性のヤモリやテグーTupinambis sp.など一部のトカゲでは頭頂眼が退化しているものもある。
外耳部は浅い窩や鼓膜がみえる程度の短い外耳道として存在し、カメレオンなどいくつかの種類では鼓膜は皮膚に覆われている。
トカゲの雌雄鑑別
雄のトカゲには一対のヘミペニスが総排泄腔の尾側両端に収まっており、そのため雄の尾の基部は雌のそれより太い。このヘミペニスが勃起時に反転して総排泄腔部からでてくる。
セックスプロウブを尾の遠位部左右どちらかの端から挿入することにより、雌雄鑑別ができる。セックスプロウブを静かに総排泄腔に挿入し、尾側に向けてゆっくり進めると、雄では嵌入しているヘミペニスが位置する溝に入るので、深く挿入することができる。これに対して雌ではほとんどセックスプロウブは入らない。感染を防ぐためにセックスプロウブはあらかじめよく消毒しておくことが必要で、挿入時には組織を貫通させないように注意する。
セックスプロウブを使用する以外に、尾の基部に生理食塩水を注射する方法もある。生理食塩水を注入すると、雄ではヘミペニスが外反して出てくる。反転したヘミペニスは生理食塩水が吸収されるとともに溝の中へ戻っていく。
成熟したオオトカゲVaranus sp.の仲間では雄のヘミペニスが石灰化していることが多く、X線検査によって確認できる。大腿腺のみられるトカゲでは容易に雌雄を区別することができる。成長した雄では大腿部腹面にある大腿腺がよく発達していて大きいが、雌ではあまり発達せず小さい。
カメレオンの中には雄で角のような突起が雌に比べてよく発達するものがある。バシリスクBasiliscus sp.では雄は頭部にとさかが発達し、背から尾にかけても帆のような飾りが伸びてくるなど、外見的にも一目で雌雄の区別がつくものもある。
マツカサトカゲTrachydosaurus rugosusでは尾の形で区別できる。
グリーンイグアナIguana iguanaでは雄の顎は雌に比べて大きく、カナヘビでは雄より雌のほうがいくぶん大きい。
ヤモリではcloacal sacと呼ばれるくぼみが総排泄腔の後部に一対あり、雌ではこのサックの入り口にcloacal boneと呼ばれる骨がある。雄ではcloacal sacが雌より大きい。
一部のトカゲでは繁殖期になると雌の色が鮮やかになるものがある。
主な病気
食欲不振
特に購入直後のものなどで採食を拒むものがいる。この拒食の原因の多くは、飼い主によって与えられた不適切な餌やいじりまわしすぎにある。トカゲはその種類によって草食、肉食、昆虫食あるいは雑食などであったりする。トカゲを飼育する前には、必ず何を食べさせているかを調べることが必要である。
不適切な温度や光周期も食欲不振の原因となるので、飼料の改善とともに、適切な光周期と温度かで飼育するようにする。飼育温度はトカゲの種類によって異なるが、多くは23~30℃の間で管理することができる。さらに日中は高く、夜間は低めの温度に設定するなど、一日の中で温度差が生じるようにするとよい。
チアミン欠乏症
チアミン欠乏症は餌として肉のみ、あるいは野菜のみを与えた場合や、チアミナーゼ活性の強い魚などを飼料として与えた場合に起こることがある。
症状は四肢や尾の麻痺による運動失調、食欲不振、二次感染などである。
治療には非経口的にチアミンを投与する。飼料に総合ビタミン剤を添加し、動物を丸ごと与えることによってチアミン欠乏症に陥るのを防止できる。
代謝性骨疾患
トカゲの中でも、飼育をはじめて数ヶ月程度の若いイグアナによくみられる。
原因はカルシウムの不足やカルシウムとリンのアンバランスな飼料の給与、あるいは紫外線不足などである。飼い主が与えている多くの野菜は、イグアナに必要な栄養を満たしていないことが多い。
代謝性骨疾患に関連してよくみられるものは栄養性二次性上皮小体機能亢進症と線維性骨異栄養症である。特に発育期のイグアナにおいては下顎の対照的な腫脹や長骨の腫脹がみられ、四肢は外観的には肉付きがよいと誤解されることある。重症のものでは痙攣発作がみられる。
X線検査では菲薄な緻密質と、透過性の亢進した骨が確認でき、病的骨折を起こしていることもある。
治療には経口あるいは非経口的に、カルシウムをビタミンD3とともに投与し、同時に飼料の改善を行う。カルシウムを多く含む植物としてはモロヘイヤ、なずな、小松菜などがある。飼料には総合ビタミン剤を添加し、食欲がないものには強制給餌を行う。日光浴は体内でビタミンD3を生成するのに重要であり、ビタミンD3は腸でのカルシウム吸収を助ける。日光浴が不可能ならばフルスペクトルタイプの蛍光灯や紫外線灯を使用する。治療中は骨折を予防するため、木登り用の枝は取り除いておく。
昆虫の外骨格にはカルシウムはほとんど含まれていないので、昆虫食のトカゲにはビタミン剤とともにカルシウム剤も添加するとよい。
ビタミンD過剰症
イグアナに多発する傾向があり、ビタミンDやカルシウム含量の多いドッグフードやキャットフード、ビタミンD製剤の与えすぎ、あるいは紫外線灯の長時間照射による紫外線の過剰などが原因として考えられている。症状として食欲低下や嗜眠、血管内特に動脈内にカルシウム沈着がみられ、血清カルシウム値は一般に上昇する。また軟部組織には転移性の硬化がみられ、症状が進むとX線検査で診断できる。
予防には飼料や環境の改善が重要である。グリーンイグアナは本来完全な草食性のトカゲなので、無理にドッグフードやキャットフードを与える必要はない。これらの配合飼料のみで長期にわたって飼育した場合、カルシウムやビタミンDの他、すべての栄養素が過剰になっている可能性がある。これらの飼料を与えるのであれば、不足している栄養素の補給を行う程度にとどめておく。カルシトニンの非経口投与が、血清中のカルシウム濃度を下げるのに有効という報告もある。
腎疾患
ビタミンDやカルシウムの過剰により、腎の石灰化が起こったり、細菌感染による炎症やゲンタマイシンなど腎毒性のある薬剤が原因になることがある。
腎疾患では食欲不振や全身性の浮腫、沈鬱などがみられることもあるが、特異的な臨床症状はない。進行し、腫大した腎臓はX線や時に触診により確認できる。
治療として抗炎症剤や抗生物質の投与を行い、脱水のみられるものなどには輸液を行う。また必要であれば低蛋白質食を与える。症状を示しているものの多くはすでに症状が進行していて、治療に反応しないことも多い。
自家中毒
不適切な飼育温度に代謝機能の低下や、重度の脱水状態など各種の疾患が原因となり、消化管の内容物が長期にわたって停滞することによって起こる。
便が長期間消化管内に停滞することによって、糞便と腸管が癒着し、消化管の炎症や、さらに悪化すると部分的な腸の壊死などが起こる。また腹部の変色がみられることもある。このような状態に陥ると食欲は廃絶し、元気もなくなり、ほとんど動かなくなる。
浣腸により便を排出し、補液を行う。便の排出が不可能であれば外科的に開腹し、腸切開を行って便を取り出す。壊死が存在する場合には腸切除術を実施する。
日射病
夏の炎天下に、換気不十分な水槽内に閉じ込めた状態で、長時間日光浴をさせた場合などに起こる。
突然、前兆がなく発症し、開口呼吸がみられ、口や鼻から泡を吹き出すことも多い。高温にさらされたために、中枢神経の麻痺や大脳皮質の浮腫などが起こる。
こうした場合には体温を速やかに下げることを考えて、直ちに涼しい日陰に移し、全身に冷水をかけたり、濡らしたタオルなどで全身をくるんで冷やすことが必要である。また、必要であれば輸液を行う。
これを予防するためには、夏の日光浴は午前中の涼しいわずかな時間帯を利用して行うとよい。風通しのよい場所で必ず日陰をつくり、自ら体温調節ができるようにする。
細菌感染症
さまざまなグラム陰性菌や陽性菌が病原体となることが知られている。餌や温度・湿度が不適切であるなど、管理不良が細菌を増殖させ、同時にトカゲの免疫力を低下させることになる。
- 細菌性皮膚炎
- 外傷などが原因となる。湿度の高い環境などで飼育されているトカゲに多くみられる。
病変部には鱗の変色や脱落、組織液などの滲出液がみられることもある。敗血症を起こすと内部臓器に広がったり死亡することも考えられる。
治療としては壊死部を除去しポピドンヨードで十分洗浄し、局所に抗生物質軟膏を塗布する。局所療法とともに、非経口的にクロラムフェニコールやゲンタマイシンなどの抗生物質を投与する。特に脱水がみられるものにゲンタマイシンを投与する場合、補液を行う。小型のトカゲなどでは、注射による投与がかなりのストレスとなる、このような場合は飼料に添加して与えるようにする。 - 皮膚膿瘍
- 咬傷や外傷などから感染が起こり、皮下膿瘍が生じることがある。膿瘍の内部にはチ―ズ様物質が充満し、周囲は線維性の組織で取り囲まれている。
病変部は局所麻酔などにより外科的に取り除く。ポピドンヨード液で切開部を毎日洗浄し、抗生物質軟膏を塗布する。 - 胃腸炎
- 細菌感染による下痢がみられることがあるが、細菌性に限らず寄生虫感染でも下痢がみられるので、便検査を行い寄生虫感染の有無などを確認する。
治療は抗生物質の経口投与であり、食欲のないものには補液を行う。
真菌感染症
衰弱している個体や、蜜飼いなどの不適切な環境下で管理されているもので感染がみられる。真菌感染は二次的なことが多く、細菌感染症などに続発することがある。
真菌感染では肝臓の壊死やカビ性の腸炎を起こすことがあり、皮膚病変部には壊死や皮膚の脱落などがみられる。
皮膚生検や真菌培養により診断する。全身的な疾患では死後に診断されることが多い。
治療としてケトコナゾールの経口投与やアンホテリシンBの体腔内投与を行う。しかし必ずしも効果が期待できるわけではない。皮膚病に対しては抗真菌剤を塗布し、限局した病変は外科手術で除去する。ヨード剤などを用いた薬浴も効果がある。
ウイルス感染症
数種類のウイルスがトカゲから分離・同定されているが、それらのすべてに病原性があるか否か不明である。
カナヘビの仲間で乳頭腫がみられる。乳頭腫は背部や頚部、四肢などにみられるが腹部にはみられない。咬傷によって伝播する可能性があるようだが、明確な感染経路は不明である。
ウイルス疾患に対する治療法はなく、細菌や真菌による二次感染によって病状が悪化することがあるので、二次感染に対する治療を行う。発症しているものは他の個体に感染するのを防ぐために、健康な個体とは隔離して飼育する。乳頭腫では罹患した個体が死に至ることなく、病変部を外科的に除去することもできる。
寄生虫感染症
本来野生の爬虫類には寄生虫はつきものである。捕獲し飼育されている爬虫類における不適切な温度、湿度、光線、餌、あるいは不適切な飼育面積や併発症のようなストレスが重なって、平常の宿主と寄生虫との関係を壊し、その結果活動減退や体重減少、食欲不振などを起こし、死に至ることもある。
飼育されている爬虫類では一般に直接的な生活環をもつ寄生虫が増殖し、間接的な生活環をもつものでは中間宿主が存在しない限り、感染することはほとんどない。
- 外部寄生虫
- トカゲの眼や外耳の周囲、四肢や尾の付け根などにダニやマダ二が寄生していることがある。
マダニはイベルメクチンの経口投与あるいは皮下注射や、オリーブオイルを塗布してダニを窒息させるなどして駆除する。また一匹ずつピンセットで取り除いてもよい。ダニの駆除はトカゲに対してだけでなく、飼育しているケージに対しても行う必要がある。 - 内部寄生虫
- イグアナなど草食性のトカゲでは、蟯虫感染がよくみられる。蟯虫は少数寄生では特に症状は示さないが、重度の感染では腸閉塞などを起こすこともある。虫卵は細長く、浮遊法などの便検査で検出できる。
野生で捕獲される以前に、ネズミや鳥などをえさとしていたトカゲや昆虫食のトカゲなどでは、条虫がかなり高い確率で検出される。偽葉目の条虫では糞便中に成虫の片節を検出することで診断できる。卵の形は種類によって異なり、有蓋のものと無蓋のものがある。
舌虫の成虫は気管、肺などの呼吸器系に寄生し、体腔や皮下織にも認められ、重感染では皮下腫脹がみられることもある。診断は皮下腫脹部や呼吸器系内から成虫や幼虫を検出することによる。舌虫の卵は肺洗浄や糞便検査で検出される。爬虫類に感染した舌虫に有効な化学療法剤は知られていない。
トカゲには、毛細線虫の感染がみられることがあるが、多くは不顕性感染である。
線虫類の駆除にはフェンベンダゾールやレバミゾール、イベルメクチンが用いられ、条虫類の駆除にはプラジクアンテルなどを用いる。原虫感染に対してはメトロニダゾールなどの抗原虫薬が有効である。
擦過傷
大型のトカゲを狭いケージで飼育している場合や、ケージや金網に鼻先を擦りつけたり、トカゲが驚いてケージの壁面に突進したりすることなどによって生じる。また床材によっては歩行行動の結果、腹部や四肢、尾などに擦過傷が絶えないこともある。
患部は十分消毒して、抗生物質軟膏を塗布するだけの局所療法でほとんど治療できる。鼻先や唇の前部にできた擦過傷をそのまま放置しておくと、肉芽の増殖によって変形をきたすことがある。
咬傷・外傷
同一ケージで数匹のトカゲを飼育している場合、飼育密度が高いため、発情期などに雄同士が噛み合うことがある。また生き餌としてマウスなどを与えて、そのままトカゲが捕食せずに放置された場合、マウスは空腹になりトカゲの外皮をかじりはじめることがある。カメレオンなどでは輸送中の挫傷などにより、四肢特に前肢の腫脹や外傷がみられることがある。
咬傷から皮下膿瘍を併発することがあるので、患部はポピドンヨードでよく消毒して、大きな欠損を生じている場合には少し皮膚が外反するように皮膚を縫合する。患部に感染がみられる場合は、局所あるいは全身的な抗生物質療法を行う。感染はグラム陰性菌によることが多いので、グラム陰性菌に有効な抗生物質を第一選択薬として用いるとよい。
四肢脱皮不全
飼育ケージ内の湿度が低すぎると、脱皮不全が起こることがある。この中途半端に剥離した皮膚が絞輪の役目をして、特に指や尾端を締めつけて虚血性の壊死を引き起こす。
残存した皮膚は壊死を防ぐために水で十分にふやかし、軟化させてから速やかに取り除く。尾部では自切に注意して行う。壊死して乾燥した尾や指は切除する。
予防は常にケージ内に新鮮な水を入れたバットなどを入れて、トカゲが水浴びできるようにするか、特に脱皮時期にはトカゲに霧を吹付けるようにすることである。
尾の自切
トカゲを保定しようとして尾をつかむと、切れてしまうことがある。これを自切と呼び、敵に対する防御手段で、自切した尾は再生する。
トカゲの多くは尾を自切する能力を持つが、オオトカゲ上科Platynotaやイグアナ下目Iguaniaのものではほとんど自切はみられない。尾は運動器官であると同時に栄養を貯蔵することができ、オオトカゲなどでは武器として用いられる。尾はどの部分でも切れるわけではなく、ある決まった部分で切断される。尾椎には自切面と呼ばれる切れ目があり、その周囲の筋肉や脂肪組織も自切膜と呼ばれる結合組織の膜で仕切られている。自切面で尾が切れると、出血はほとんどみられない。尾の再生部分には尾骨の代わりに軟骨が形成され、この再生部分に自切面はみられない。
自切した尾の切断面を縫合すると尾が再生するのに時間を要することになる。患部は感染がみられなければ乾燥するようにして、特に処置は必要ない。感染があれば抗生物質軟膏を塗布するか、全身的な抗生物質の治療を行う。尾が再生してくるまでの間はケージの床面を清潔にしておく。
骨折
トカゲの骨折の多くはケージから出しているときにドアに挟んだり、誤って踏みつけてしまったりすることにより起こる。また代謝性骨疾患に起因する長骨の骨折もみられる。
四肢の骨折では跛行などがみられ、患部は腫脹したり内出血がみられることも多い。
多くの場合、副木などによる外固定や、ケージ内で安静にしておくだけでも骨折は治癒する。しかし治癒後に若干の変形などがみられることがあるので、必要に応じピンなどを用いて整復手術を行う。治療中はカルシウムやビタミンD3の投与を並行して行う。
総排泄腔脱
胃腸炎や下痢、重度の寄生虫感染がみられる場合など、さまざまな状況下で起こることがあり、総排泄腔から反転しうっ血した粘膜が突出してみられる。
脱出した粘膜は直ちに洗浄し、湿らせた綿棒などで整復した後巾着縫合を行うか、総排泄腔に対して垂直に縫合糸を一糸かける。縫合を行った後、便と尿が正常に排出されるか否かを確認し、一週間程度で抜糸する。感染を予防するために、抗生物質の投与も同時に行う。脱出した組織に壊死がみられる場合には切除する。
卵塞
卵塞は不適切な飼育や飼料、産卵前の感染やその他のストレスなどによって起こる。
産卵が遅延しているか否かを判断することは難しいが、雌で腹部の膨大がみられ食欲がなくなり、確実に卵をもっているのに数週間たっても産卵がみられないようであれば、卵塞が疑われる。
診断は触診により卵を触知するか、X線検査を行う。触診は注意して行わないと、卵が壊れて腹膜炎などを併発することがある。
卵の除去は外科的に行い、卵管切除術あるいは卵巣卵管切除術を実施する。手術を行う前に切開部の皮膚は十分に消毒して、鱗を切断せずに鱗と鱗の間の皮膚を切開するようにする。トカゲでは正中線から数ミリほど離れた場所に腹側静脈が走っているので、この血管を避けて側腹切開を行うようにしたほうがよい。またトカゲははっきりとした腹膜がみられないので、切開時に臓器を傷つけないように注意する。開腹後は常法で手術をすすめる。皮膚の閉鎖は切開部が内側に反転しやすいので、水平マットレス縫合などを用いて少し皮膚が外反するように縫合する。
予防として、飼育ケージ内に産卵場所を設け、卵をもっているものは産卵するまでいじりまわさないようにする。
腸重責
爬虫類においても腸重責を含め哺乳類と同様にさまざまな疾病がみられる。
腸重責は腸内の寄生虫、腸炎、腸内異物などに続発し、腸の激しい蠕動亢進によって起こる。症状としては食欲不振や粘血便、脱水、腹部の緊張などがみられる。
X線検査場などで腸重責が疑われた場合には、直ちに開腹して整復する。重積部分を整復しても血行の回復がみられない場合などには患部を切除して、腸吻合を行う。
季節的な性格の変化
特に成熟したイグアナの雄で、冬季に攻撃的になることがあり、飼い主が怪我をすることもある。これはイグアナの発情が冬季に起こるためで、繁殖の期間は慣れているイグアナでも攻撃的な行動をとることがある。
性格がきつくなる時期には、ケージ内の清掃時以外はできるだけイグアナに触れないようにする。発情がおさまれば再び元のおとなしいイグアナに戻るはずである。