チンチラの飼い方

古代から南米のアンデス固有の動物であったチンチラには、1900年代の初頭、毛皮のために絶滅寸前まで乱獲された歴史がある。スペイン人がインカ民族を征服した16世紀まで、チンチラは原住民にしか知られていなかったが、スペイン人はチンチラに毛皮を王族へ贈り、その後チンチラの毛皮はヨーロッパの市場で広く出回るようになった。1枚のコートを作るために100枚以上の毛皮を使うため、野生のチンチラの個体数が激減したが、現在は政府の保護下に置かれている。
20世紀初頭、チリで鉱山技師として働いていたアメリカ人、マティアス・F・チャップマン(Mathisas F.Chapman)は先住民たちが『きれいで小さな毛の生えた動物』と呼ぶチンチラに興味を持ち、飼育を試みた。しかしチンチラの飼育を始めて11年後の1934年、チャップマンは死亡した。しかし息子のレジナルド(Reginald Chapman)がチンチラの飼育を続け、ついに繁殖に成功した。本邦では、1961年に三島市の動物愛好家によって導入されたのが最初と報告されている。

チンチラの分類

野生におけるチンチラは、生活環境によって三種(br /evicaudata、Lanigera、Costina)に分類されている。br /evicaudata種は、海抜約1万5000フィート(約4500m)で発達した。彼らは短い耳(凍ることを予防するため)と尾を持ち、体が大きく、やや茶色がかった毛色を持つ。また、Lanigera種やCostina種と比較しておとなしい。
一方、Costina種は、長い耳と尾を持ち、とがった鼻頭と体形を持つ。そして野生ではやや湿度のあるところで生活している。
Lanigera種は海抜1万~1万2000フィートの間で発達した。Coastina種より大きく、より短い耳、短い鼻、広い頭を持つ。
分類に関しては、チンチラは1つの種類であり、生育地の高度に適応した上記の3つの亜種に分類されるという議論もされている。

チンチラの品種

飼育されている種類の多くはChinchilla lanigeraであり、毛色はライトグレーやダークグレーが基本であるが、毛色の変種が多くみられ、白(アルビノ)や、シルバー、黒、ベージュ、ブラウン、パイト等がみられる。

チンチラの分類

  • げっ歯目 Rodentia
  • チンチラ科 chinchillidae
  • チンチラ属 Chinchilla チンチラ Lanigera
  • チビオチンチラ br /evicaudata
    (和名なし) Costina
  • 英語名:chinchilla
  • 原産地:チリ北部
  • 頭胴長:約25.4~35.6cm
  • 尾長:約15.2~20.3cm
  • 体重:400~600g
  • 染色体数:2n=64

平均寿命は10~15年で、なかには20年以上も長生きするものもいる。最高級の毛皮が採れるため、多頭数の繁殖が長年にわたり行われている。野生では被毛はくすんだ灰青色であるが、突然変異で白、銀、ベージュや黒色が出現することもある。足底にはまったく被毛は生えていない。

チンチラの生態

野生のチンチラは南米のアンデス山脈の頂上付近に生息している。気候は寒冷(-15℃~-20℃)で、降雨量も少ないために湿度は0%に近い。したがって、チンチラの体は乾燥と厳しい寒さに耐えるように進化してきた。そのため、反対の条件である高温と多湿にはまったく適応できない。
生息場所は岩だらけの荒れ地で、岩と岩の隙間をトンネルとして利用し、群れで生活している。ただし、群れとはいっても各個体の間には厳密な距離が保たれている。
基本的には夜行性で、昼間は巣穴の中で休み、夕方になると地上に現れて枯れ草や雑草などを食べる。日光浴は行わない。野生のものは草、低木の樹皮、根、サボテンの根や葉などを食べ、雪解け水や岩場に結露した水滴などを飲んでいる。チンチラはほかのげっ歯目同様、自然界での地位は典型的な捕食動物である。そのためとても臆病で怖がりやすい。

チンチラの性質

チンチラは知能が高く、好奇心旺盛でいたずら好きである。チンチラは野生においては 標高が高く、空気も薄い日差しの強い環境に生息しているため、夜行性である。25℃以上では熱射病になり、危険な状態になる。暑さより寒さに対して耐性がある。聴覚は人の低周波、低音圧の聴域に反応する。また、非常に臆病で人を咬むことがある。ストレスにも弱く、神経性のショックにより死亡することもある。

チンチラの骨格

・後肢は前肢より長く、大きなジャンプをする。
・前肢端には2つの発達した偽指があり、これを親指がわりにして物をつかむことができる。野生のものは、この器用な指を使って岩場に生えた草の茎をたぐりよせて食べている。指数は4本である。

チンチラの外皮

・体毛は、きわめて細かくしなやかで美しく、2~3cmの長さである。1つの毛根から、80~100本くらいの細毛が密生している。
・耳介の毛は非常に薄い。
・ひげは大変敏感で、岩の隙間の中で、岩の端を感じとり、はまりこんで向きを変えることができなくなることを防いでいる。

チンチラの口腔

歯式は2(1/1 0/0 1/1 3/3)の20本である。歯根は開放性で、歯は生涯成長する。切歯は黄色で、1年に5.5~6.5cmも伸長する。

チンチラの消化管

チンチラは後腸で発酵を行う動物である。消化管が長く、平均で2.5~3.0cmになる。胃や盲腸が比較的大きく、長い空腸が腹腔の大部分を占めている。大腸の長さが小腸の約1.5倍で、水分利用が進んでいる結腸は高度な嚢状構造になっている。
糞臭が少なく、これは腸内細菌に乳酸桿菌が少ないことと、高度の水分利用が関係している。
胆嚢を持たないため、多量の脂肪を消化することができない。

チンチラの泌尿生殖器

子宮は双角で個別に子宮頚に開口する。膣を閉鎖する膜がみられ、発情期と分娩期にのみ開くようになっている。
ほかのげっ歯類において行われる膣垢像によっての性周期の判断は不可能である。
乳頭は3対ある。

チンチラの生理

ウサギと同様に食糞行動が見られる。しかしチンチラは盲腸糞をいったん体外に排泄し、再び摂取する。
皮膚からはラノリンという物質が分泌され、被毛の光沢を落とす原因となるため、野生での火山灰による砂浴びと同様、飼育下でも細かい砂を使用して砂浴びを行わせる必要がある。
菲薄な耳介と鼓室胞の発達した非常な大きな耳を持つ。そのため聴覚の研究対象にされている。

チンチラの性成熟/発情

チンチラの性成熟は5~9ヶ月である。飼育下では周年繁殖動物で自然排卵を行う。年間を通じて繁殖可能だが、本来は季節繁殖動物で、主に北半球では11~5月の間が発情期であり、多発情である。
性周期は40日(24~45日)である。春季発情は生まれた時期にもよるが、4~12月齢間にみられる。春季生まれのものは秋に、秋季生まれのものは1年後に最初の発情を迎える。

チンチラの出産

妊娠後、雌は体重が増え、乳首は腫脹してくる。妊娠期間は平均して111日で、出産は通常早朝に行われる。雌は巣をつくらず、新生仔を床にじかに分娩するものもいる。
出産数は1~5頭と幅があり、平均2頭である。新生仔は早熟で、開眼し、毛も生えそろい容易に動き回ることができる。
新生仔は1週間でペレットを採食するようになるが、離乳は6~8週齢である。チンチラは哺乳中の死亡が多い。特に哺乳期前半(生後30日前)が多く、そのうち1週未満のものが約半数以上を示している。チンチラは年3回まで出産可能だが、母体が衰弱するのを考慮すると、1年に1回が最適である。分娩後1~2日の間に後分娩排卵が認められる。

チンチラの後分娩発情

出産後、発情が数日間続くことを後分娩発情といい、雌はすぐに再び妊娠することができる。雌がこのときに妊娠した場合、ブリードバック(br /eedback)と呼ばれる。しかしこのケースは、雌に子供がいる場合望ましくない。ブリードバック中に不安になりすぎた雌や雄に、新生仔が偶然踏み潰されることがある。

チンチラの雌雄鑑別

雄は生殖突起と肛門の距離が雌よりも長い。雌の陰核は円錐形で膣の腹側に位置する。大きな尿道乳頭は一見陰茎に類似しているので、鑑別の際、紛らわしいことがある。また、雄は丸い開口部のある尖った生殖突起を持つ。雄の精巣は鼠径管内に位置し、真の陰嚢を欠く。

チンチラの繁殖のポイント

交配は、発情中の雌のケージの隣に雄のケージを置いて、数日間様子を観察する。雄は雌に求愛の声を出す。雌がこれを嫌がらなければケージを一緒にする。
互いににおいを嗅ぎ、耳を咬んだりしながら愛撫を行う。その後数日間、様子を観察し、雌が雄を受け入れたなら繁殖は可能である。相性が合わない場合は雌が雄を攻撃する。雄は抵抗もせず、死亡することもある。
繁殖用の雌は、出産時に問題が起きないようにするため、体重は650~690gあることが望ましい。

チンチラの生理学的数値

  • 体温 37~38℃
  • 心拍数 100~150/分
  • 呼吸数 40~80/分
  • 血液量 体重の約7%
  • 餌消費量 約20g/頭/日
  • 飲水量 約30ml/頭/日
  • 繁殖開始 5~9ヶ月
  • 性周期 24~45日(40日)
  • 妊娠期間 約111日
  • 後分娩発情 妊娠可
  • 産仔数 2(1~5)頭
  • 離乳 6~8週

チンチラの飼育

ケージ

チンチラは非常に活動的な動物で、広い場所を必要とする。木登りや跳ね回るのが好きで垂直に1mも跳ね上がる。そのためケージ内にはいくつかの高さの違いをつけるとよい。また、チンチラはよく物をかじるので、木製より金属製のステンレスメッシュのケージが好ましい。ケージの大きさは、チンチラが後肢で立ち上がって十分な高さと横に伸びをして十分な幅が必要である。例えば1頭の場合、横幅80~100cm、高さ100cm、奥行き50㎝のもので十分である。床の網目が大きいほど、ジャンプしたとき足がはさまれて折れることが多くなるので注意する。または、干し草やコーンチップ等を床材として使用してもよい。そして高い位置に棚板等を設置して、立体的にレイアウトするとよい。現状ではウサギやフェレット用のケージを使用している人が多いが、野生では高低差のある環境で生活しているので、床面積はともかく高さが足りないのは明らかである。

巣箱

ケージには巣箱を用意する。チンチラは知能の高い動物のため、ケージの中が単調だと退屈してノイローゼ気味になったり、自咬症で脱毛が見られることもある。隠れ場所としてだけでなく、遊び道具としても巣箱は必要である。
巣箱は木製のものが最適で、複数個設置し、1つを睡眠用にして、2階以上のところに遊び用を設置する。市販されている木製の巣箱でも、手製でもよい。

餌入れ

手先が器用なため、餌、床材を散らかす性質があるので、餌入れははめ込み式か壁掛け式が清潔である。

水入れ

水入れは、市販されているケージに取り付けるタイプの給水器がよい。チンチラは手が器用な上にかじる力が強く、活発に跳ね回る動物のため、床に置くタイプの水入れは使えない。
また、止め金から外れやすかったり、やわらかい材質のものは不適当である。退屈しのぎにボトルをはずしたり、ゴム栓をかじったりして、床を水浸しにしてしまう。水浸しの床は、チンチラにとって不適切であるので、すぐに床材を取り替えるとともに、水入れを工夫する。

遊び場

飛び回る動物のため、ケージを最低でも2階建てにして、踊り場を設けてやるとよい。チンチラ専用の回し車もある。

歯の磨耗

歯のためには定期的に軽石(チンチラストーン)、砥石、木の枝等を適当な大きさに加工して与えるとよい。

温度、湿度

理想温度  8.3~21.1℃
理想湿度  30~40%
温度変化があまりなく、換気のよい場所にケージを置かなければならない。チンチラは乾燥環境であれば、低温でも生存可能である。しかし、高温多湿は避けなければならない。高温多湿にチンチラをおくと耳が充血するので、このような状態になったら、即座に室温を下げる必要がある。隙間風や直射日光を避けた静かな環境が理想である。チンチラは夕暮れと夜明けに活動的となり、直射日光や大きな音を好まない。

トイレ

チンチラはトイレを習性するのは困難である。餌入れから離れた何ヵ所か決まったところをトイレとする。
もともと体臭はなく、排泄物もあまりにおわない。正常な糞は、乾燥していてあまりにおわないが、下痢をしたときの軟便は独特のにおいを放つ。

掃除

ケージ
ケージの掃除は、容器や床材によって異なるため、それぞれにあった掃除を行う。床材は汚れ具合により、毎日または数日おきに交換する。特に梅雨期は、なるべくこまめに水入れやトイレにしている場所を取り替える。また、ケージ全体を水洗いして日光消毒するとよい。
トイレ
ケージ内に設置してあるトイレを毎日掃除する。トイレ砂を取り替えるだけではなく、数日ごとに水洗いをすると清潔でよい。
餌入れ
餌を与える時に餌入れを乾拭きする。これはペレットなど乾燥した餌を与える場合であり、野菜などの餌を与える場合は、食後に水洗いして乾燥させる。
水入れ
水の汚れにくいボトルタイプの水入れが多用されているようだが、洗いにくいのが難点である。水筒などを洗うブラシを使うとよい。吸口側についているゴムの部分のぬめりもきちんと取る。手間はかかるが、熱湯消毒するとよい

チンチラの餌

チンチラは、完全な草食動物である。野生のチンチラの食事は草の茎、根などで栄養が乏しく、多くの粗繊維を含んでいる。チンチラの消化器系統は非常にデリケートである。飼育下では、下記の要素から成り立つ食事を与えるようにする。なお餌を長期間保存する場合には、湿気に注意が必要である。チンチラは野生でも水分の少ない繊維質のものを食べているので、水分の多い食べ物には適応できないのである。
また、チンチラは餌を選り好みする。古くなるとすぐに飽きて、他の新しい餌に飛びつく性格を持っている。

  • ◎ペレット
  • ◎干し草
  • ◎野菜、野草(水分の少ないもの)
  • ○果物、種子(おやつ程度)
  • ○その他

野菜類

【与えてもよい野菜】ニンジン、ブロッコリー、パセリ、カブの葉、チンゲン菜、大根菜、小松菜、サラダ菜、セロリ、みつば、カリフラワーなど
【与えないほうがよい野菜】ジャガイモの芽と皮、生の豆、ネギ、玉ねぎ、にらなど

干し草

マメ科 アルファルファなど
イネ科 チモシーなど

野草

【与えてもよい野草】
タンポポの葉、ノコギリソウ、ヒレハリソウ、ハコベ、クローバー、フキタンポポ、ペンペングサ、アルファルファ、オーチャードグラス、イタリアングラスなど
【中毒を起こす可能性がある植物】
アサガオ、アジサイ、アマリリス、イチイ、イラクサ、イヌホウズキ、ウルシ、オシロイバナ、オトギリソウ、カジュマル、カポック、カラジュール、キョウチクトウ、クリスマスローズ、ケシ、ゴムノキ、サツキ、サトイモ、サフランモドキ、ジギタリス、シダ、シャクナゲ、ショウブ、ジンチョウゲ、スイセン、スズラン、西洋ヒイラギ、セントポーリア、チョウセンアサガオ、ツツジ、ツゲ、ディフェンバギア、デルフィニウム、ドクゼリ、ドクニンジン、トチノキ、トリカブト、ナツメグ、ヒヤシンス、ベゴニア、ベンジャミン、ホオズキ、ポインセチア、マロニエ、ヨモギギク、ワラビなど

果物

【与えてもよい果物】リンゴ、メロン、ブドウ、イチゴ、バナナ、パイナップルなど
【与えないほうがよい果物】アボガドなど

レーズン

ほとんどすべてのチンチラがレーズンを好む。チンチラを特別にしつけようとする際、レーズンを用いると大変訓練の手助けになる。しかし、与えるのにも節度を保ち、レーズンは週に3~4粒までにし、幼若のものにはさらに少なめにする。レーズンを時々与えると、便秘の予防にもなるという。

種子類

与えてもよい種子類 大豆、落花生、えん麦、大麦、小麦、ふすまなど(ピーナッツの殻、トウモロコシなどは腐ると発癌性のアフラトキシンが発生する)

ペレット

最近はチンチラ専用ペレットが市販されている。チンチラは手で持って食べるので、ペレットのサイズはチンチラが持てる大きさのものが好ましい。ペレットは満腹になるほど食べないので過食の問題はない。 ペレットのカロリーは最低2,700cal/kgで、蛋白質16~20%、脂肪2~5%、繊維18%を含まなければならないといわれている。
チンチラ専用ペレットの入手が困難な場合は、ウサギまたはモルモットのペレットを利用する。

妊娠、授乳中の母親の餌

母親には、妊娠中から多彩で栄養価の高い食物を与え、さらにカルシウムとビタミンを添加する(ヨーグルトや小松菜など)。母親はたくさんの乳を出さなくてはならないため、多くの水分を必要とする。ペレットを主食としている場合は、特に出産から離乳まで水を切らさないように注意する。

新生仔の餌

新生仔の食餌は、授乳中は母親の乳で十分である。チンチラの新生仔は同時に柔らかいペレットや野菜も食べ始めることが可能である。4週目頃から乳量が減り、完全な離乳期に入る。

量をあまり飲みすぎて下痢をするようであれば控えめにする。野菜からも水分を吸収できるので多く与えたときは水を加減する。主食がペレットの場合は必ず水を与える。水が不足すると採食量が減少したり、結石などの疾患が多く発症する。チンチラは必要な水分を餌からとらず、草露や岩に結露した水滴をなめて摂取している。水分の多い餌には適応できないので注意する。また、湿度に弱い動物であるため、水漏れなどで床が濡れないようにする。

チンチラのケア

ブラッシング

ブラッシングはやさしくしなければ大量に脱毛し、はげができてしまう。毛は3ヶ月間隔で換毛する。時期や期間は個体によって異なるが、ほぼ全身の毛に変化がみられる。  砂浴びで被毛の油分(ラノリン)を除去し、清潔に保っているので、砂遊びを行っているチンチラには、積極的なブラッシングは必要ない。行うのであれば砂浴びをしない日にブラッシングすればよい。自分でグルーミングをして毛を除去するが、毛球症になることがある。毛玉を吐き出すことができないので、毛球症から腸閉塞を起こすことがある。

シャンプー

体臭がなく、きれい好きである。チンチラは砂遊びをすることにより、被毛の状態を整えるのでシャンプーや水浴びをする必要はない。

爪切り

チンチラの爪は鉤爪であり、伸びすぎることはまれである。したがって爪きりをする必要性はあまりない。

砂浴び

チンチラの皮膚からは分泌物(ラノリン)が多いため毛玉ができやすい。野生下では余分な分泌物を取り除くために、火山灰で砂浴びを行っている。飼育下でも毎日行うことが理想である。  砂浴びには市販されているチンチラ専用の砂を使用し、目安として1日に30分間、寝返りを打って動き回れるぐらい深い容器に入れる。容器は大きな梅酒瓶、金魚鉢などを利用する。砂は毎日取り替えて、清潔に保つ。  砂浴びにより、毛輪、外傷性の角膜炎、結膜炎の発生も見られる。チンチラ専用砂が入手困難な場合は、ゼオライドという砂を使用する。ゼオライドは猫砂、小動物の砂、園芸用の砂などに使用されているが、『鉢底石』として園芸用に売られているものが適している。これをコーヒーミルで粉砕して使用する。

注意すべき疾病

生殖器疾患

チンチラは妊娠、出産にともなうトラブルの発生が多い。栄養不良やストレスが原因に大きく関与している。

卵巣子宮疾
雌は子宮蓄膿症、子宮内膜炎、子宮脱等が好発する。また干し草の硝酸塩中毒により、妊娠中毒等もみられる。要因として高湿度、ストレス、不規則な照明等もかかわっている。症状は食欲消失、陰部からの悪露である。治療は抗生物質の投与もしくは、卵巣子宮摘出術である。

呼吸器疾患

チンチラはストレスのかかった環境、つまり過密飼育、換気不良、不適切な温度・湿度が呼吸器疾患の発生の要因となることが多い。

鼻炎/気管支炎/肺炎
チンチラの肺炎は剖検で発見されることが多い。Pasteurella spp.による呼吸器疾患では、食欲不振、呼吸困難、鼻汁、リンパ節炎などがみられる。Bordetella spp. Streptococcus spp. Pasteurella spp.は混合感染も多く、チンチラでは慢性の呼吸器疾患を引き起こすともいわれている。慢性呼吸器疾患になった動物は体重が減少し、粗毛となり、鼻汁、腹式呼吸がみられる。予後は不良である。

皮膚疾患

チンチラの被毛は標高の高い生息地に適応すべく厚い被毛を持ち、保温性に優れた外皮を持つ。したがってこの被毛を常時清潔に保つことが重要であり、被毛管理の失宜により、多くの疾患がみられる。

細菌感染疾患
集団飼育されている場合、咬傷による膿瘍が形成される。Streptococcus spp. Staphylococcus spp.が分離されることが多い。治療は抗生物質の投与である。
毛輪
大人の雄では包皮内の陰茎の周囲に毛がまきついて、嵌頓包茎になることがある。治療には陰茎を潤滑にし、巻きついた毛を除去する。
脱毛症
脱毛症は感染症および非感染性に生じる。後者ではトリコマニアが重要であるが、その行動を飼い主が観察することは少ない。また食事による栄養性失調、ホルモンの影響、遺伝的要因なども考えられる。餌にリノール酸、リノレン酸、アラキドン酸が不足すると被毛が粗になり、毛の成長も悪く、皮下膿瘍などがみられるようになる。またチンチラを荒っぽく取り扱ったり、けんかをさせると毛の一部がごっそりと脱落する。毛が元に戻るまで数ヶ月を要することもある。
皮膚糸状菌症
Tricophyton mentagrophytesがよく分離されるが、Microsporum canis、M.gypseumの感染例も報告されている。症状は鼻や眼のまわりの脱毛から始まり、前肢,躯幹に広がる。発疹には軽度の鱗屑がみられるが、掻痒や炎症はほとんど認められない。診断は真菌培養を行い、抗真菌剤の投与で治療する。砂浴びはしばらく禁止するか、頻繁に交換する必要がある。これは人畜共通伝染病である。

感染性疾患

チンチラの感染症はキャリアーであったり、または症状がみられたときには末期であったりすることが多く、治療に反応しないものが多い。

サルモネラ感染症
原因菌はS.enteritidis、S.typhimuriumなどである。流産や下痢がみられ、結膜炎や眼脂も認められる。若齢では無症状のまま敗血症で急死する。不顕性感染も多く、ストレスにより発病する。
ティザー病
原因菌はBacillus tyzzerである。自然感染例では水溶性下痢が起こり食欲減退がみられ、不活発になり死亡するものが多い。下痢による尾部、後肢、腹部の汚れが顕著である。

消化器疾患

チンチラは大変デリケートな消化管を持っている。疝痛、下痢、便秘、腸重積、直腸脱、膨腸などの症状がみられる。不適切な餌、急激な餌の変化、過密飼育、ストレスなどが素因である。細菌はClostridium spp. E.coli、Proteus spp. Pseudomonas spp.など、寄生虫は回虫、蟯虫、コクシジウム、ジアルジアなどが原因である。また抗生物質を使用する際は、ウサギ、モルモット同様に薬剤の選択に注意する。

不正咬合
チンチラは臼歯の過長のものが多い。下顎の臼歯は内側に伸張するので、舌に触れ、潰瘍を起こすことがある。また、上顎の臼歯は外側に伸張するので、頬側粘膜に潰瘍を形成する可能性がある。症状は、空腹状態であっても採食を拒否する、あるいは、柔らかいものや果物だけを採食し、ペレットを拒絶する、流涎による口の周囲の被毛の乱れなどである。口臭が異臭を帯びることもある。不正咬合は再発徴候の有無を検査し、治療は定期的な処置が必要となる。

神経筋疾患

原因はさまざまである。早期に原因を突き止める必要性がある。

カルシウム欠乏症
症状は切歯が白くなり、食欲低下、成長遅延、重症例では発作を起こしたり、頚を曲げたりする。特に妊娠中の雌と1歳未満の若齢に見られる。予防は炭酸カルシウムを食事に混ぜて与えることである。
神経障害/痙攣
チンチラはリステリア菌(Listeria moncytogenes)に極めて高いといわれている。本症は甚急性の傾向があり、運動失調、旋回運動や痙攣などがみられる。  Baliascaris procyonisによる脳脊髄線虫症がチンチラで報告されている。本症に罹患した動物は運動失調、斜頚や全身麻痺を特徴とする中枢神経系疾患となる。斜頚のチンチラではStreptococcus spp.感染がみられている。チアミン(ビタミンB1)欠乏では、旋回運動や痙攣を起こすことがある。
熱射病
チンチラは低い環境温度にもよく順応し、0℃の低温でも安定して生存が可能といわれている。26.7℃以上の温度、高湿度で虚脱状態となる。症状として動物は横臥し、浅速呼吸や高体温がみられる。重症例ではチアノーゼを起こして死亡する。治療は冷水浴を行い、点滴する。チンチラのケージは、放射熱や日光の当たる場所に置かない。