猫の飼い方
猫を迎えるにあたって
知っておきたい猫の体とその働き
仔猫を家に迎え入れる前に、猫の体の働きをある程度、知っておく必要があります。愛猫家は、自分と同じものを食べさせることが、猫に対する愛情のように思いがちですが、それは大きな間違いです。なぜならば、猫には猫の生理学があり、人間とは大いに異なっているからです。
必要な検診・ワクチンなど
- 【生後25日目】 検便・駆虫(虫くだし)
- 【生後30~40日目】 離乳開始→55日ごろまでに終わらせる(ドライのキャットフードを湿らせて与えるのが理想)
親譲りの免疫がない猫や流行地域の猫は猫パルボウイルス感染症、猫伝染性鼻気管炎、猫カリシウイルス感染症、猫白血病ウイルス感染症などの混合ワクチン接種
検便・駆虫、乳歯および咬合の検査 - 【生後2ヶ月前後】 第1回混合ワクチン接種・検便・乳歯および咬合の検査
- 【3ヶ月前後】 第2回混合ワクチン接種(以降毎年1回)・検便
- 【5ヶ月目】 検便(以降春夏秋冬年4回)、避妊・去勢手術はこの時期に発情の始まり
- 【6ヶ月目】 検便(以降春夏秋冬年4回)、避妊・去勢手術はこの時期に発情の始まり
- 【7ヶ月目】 歯の検査、発情の始まり
- 【10ヶ月目】 発情の始まり
- 【1歳】 健康診断(以降毎年1回以上)
- 【7歳】 7年以降は食餌に良質な蛋白質を加える
- 【7~12歳】 年2回健康診断を受ける
- 【13歳以上】 年4回健康診断を受ける
- ノミ・ダニ・条虫の予防:月1回(1年中)、予防薬(フロントラインスポットオン等)を首の後ろにつけます。
- 黄色脂肪症や骨の病気などの予防のためには、猫の栄養学にもとづいたドライのキャットフードが理想です。
- 猫白血病ウイルス(FeLV)・猫免疫不全ウイルス感染症(FIV)の抗体検査を年1~2回行います。
猫に入れ歯をしないわけ
本来が肉食獣である猫は、我々とは異なった歯を持っています。猫がアクビをした時にでも観察してみればわかるとおり、先が全部とがっています。歯と歯の間隔もあいています。歯の数も30本しかありません(犬は42本)。
肉食獣の歯は、噛み潰すのではなく、肉や骨に咬みつき引き裂くのに便利にできています。ですから、引き裂いた塊のまま飲みこんでしまいます。また、それだけに食道も、たいへん弾力に富み、唾液も多く、飲み込むのにたいへん適しています。
一方、これを受け入れる胃も、消化器全体から見て、人間よりもずっと大きな割合を占めていて、たいへん酸度が高く(ph1.4~4.5)、また、小腸はその割に短く、これも肉類を消化するのに適していますのです。
したがって、歯が1本もなくなったとしても、猫が人間に飼われて生活していて、飼い主が食べ物を飲みこめる大きさにして与えるかぎり問題はなく、ほとんど消化器に対して影響はないと考えてよいわけです。
しかし、自らいろいろな食餌にありつかなければならない半ノラ君や全ノラ君は大影響を受けます。
以上、猫の歯と消化器についてお話してきましたが、ここで間違えないでほしいのは、肉食獣は肉だけ与えていればよい、のではないということです。
猫の栄養学も、犬の栄養学と同様に、たいへん進歩しています。それにもとづいてよく考えて作られたバランスのよいキャットフードが市販されていますので、これを与えるのが一番よいです。
なぜならば、本来、肉食獣が食べている肉には、肉だけではなく、内臓も、骨も、腸の中の半消化物も含まれているわけで、我々の食べる肉とはまったく異なっているからです。
キャットフード(魚のカンヅメは除く)はこのようなことを考え、研究の結果、理想的なバランスを保つように作られています。
猫の年齢と人間の年齢を比べると
猫の年齢を人間の年齢に換算すると、およそ次の表のようになります。
1ヵ月半 | 4歳 | 3ヵ月半 | 6歳 | 6ヵ月 | 10歳 |
---|---|---|---|---|---|
9ヵ月 | 13歳 | 1年 | 15歳 | 1年半 | 20歳 |
2年 | 24歳 | 3年 | 28歳 | 4年 | 32歳 |
5年 | 36歳 | 6年 | 40歳 | 7年 | 44歳 |
8年 | 48歳 | 9年 | 52歳 | 10年 | 56歳 |
11年 | 60歳 | 12年 | 64歳 | 13年 | 68歳 |
14年 | 72歳 | 15年 | 76歳 | 16年 | 80歳 |
17年 | 84歳 | 18年 | 88歳 | 19年 | 92歳 |
20年 | 96歳 | 21年 | 100歳 |
歯を調べれば年齢がわかる
生後3週齢から乳歯が生え始め、8週齢でそろいます。生後4ヶ月から永久歯に生え変わり始め、7ヶ月齢ですべての永久歯が生えそろいます。
栄養について
最近まで、猫は栄養や代謝には、ほとんど注意が払われないで飼われてきました。しかし、肉食獣である猫の代謝過程は、膨大な猫の栄養学の研究により、多くの点で人のような雑食動物と異なった、栄養上の特殊な要求をもっていることが明らかになっています。
繁殖期や発育期の猫に見かける障害は、伝染病以上に、栄養の欠陥によって起こる場合が多いのです。事実、栄養が不充分な猫には、伝染病が発生しやすく、充分な栄養を与えた仔猫は、そうでない仔猫よりも、細菌やウイルスに対して免疫を獲得しやすく、寄生虫などに対しての抵抗力も、それだけ強いということができます。
また、猫の幼齢期のものや、室内だけで飼われている猫(日光に当たってもキャットフードで飼っていないもの)は、カルシウムとリンの摂取比率が、正しくない場合が多々あります。それにより、カルシウムの絶対量が足りないことで起こるホルモンの病気で、二次的に、俗にいうクル病(正しくは栄養性二次性上皮小体機能亢進症)が起こることがあります。猫は、特に、この病気の起こりやすい動物であることを忘れてはなりません。
“栄養の良い”といっても猫と人間とは違うのですから、猫の栄養学に従った、正しい栄養要求量に合わせた、ドライタイプのキャットフードを、与えるのが最も理想的な方法です。しかし、成猫になってからでは食性が強く、急にキャットフードを与えても、なかなか食べてくれません。だから、離乳の時が肝心で、これを与えておけば、栄養に関しては、もう一生が保障されたようなものです。ですから、仔猫の時から、食べさせるのが一番です。
なお、成猫になってからキャットフードに変える場合は、今まで与えていた食餌の全体量を20%ほど少なくして、ほんの少しずつ、わからないようによく混ぜて与えていくことです。普通は、このようにして切り替えることができます。
運動について
犬は、散歩や運動などと言う言葉をよく耳にしますが、猫の運動というと、いったいどのように運動させるのかと不思議に思うかもしれません。しかし、猫も人間に飼われている事実を考えると、やはり運動不足になることが多いわけです。
もちろん、野外を自由にとびまわれるような飼い方をされている猫にとっては、ことさら運動でもないわけですが、アパートやその他の高層住宅の1室やケージの中で飼育されている猫にとっては、健康を維持するために、どうしても運動が必要になります。
ケージ飼いの猫は、できるだけ広いケージで飼育することはもちろんです。室内だけで飼育されている猫は、ボールなどを使って遊んでやったり、犬のように首輪と引き綱を使って散歩や、広場があればそのようなところを利用して遊んでやったりします。ただし、このような首輪と引き綱は、生後2~3ヶ月のうちから十分慣らしておく必要があります。
しかし、最も良い方法は、猫を(犬の場合と同じですが)2頭以上で飼ってやることです。
動物には、自然で美しい競争性があり、運動量を増し、食物の摂取量も増しますし、おまけに、猫の精神生活上も健康であり、しかも、それぞれの個性もそれだけ発揮されることになるのです。ただ気をつけなければならないのは、猫が自由に活動できる空間に対して、数が多すぎることは、仔猫をもうける場合には、絶対に避けなければならないということです。
ペットは責任を持って飼わなければなりません。ペット条令も今後、強化されていくはずです。猫はつないで飼いましょう。―と言うおかしな時代が来ないとは言い切れません。
これは、つないで飼うということではありませんが、これから猫を飼おうと思っている方は、首輪と引き綱に、仔猫のうちから慣らしておくのは良いことです。
性質の良い猫にするために
仔猫は、生後4週(約1ヶ月)頃になると、人間に対して近づいてきたり、じゃれたり、日増しに珍しいしぐさや、違った遊戯などが認められるようになります。
この頃から、仔猫は幼児期に入り、いわゆる社会化と呼ばれる大切な時期が始まります。この時期は人間の場合とまったく同様に、仲間や人間に対して社会的関係を確立するのにたいへん重要な時期です。これは12週(約3ヶ月)まで続きます。 この時期の社会的な経験は、その後の行動に大きく影響し、社会的関係の形成期として一生支配することになる重要な時期です。このような時期に人間にまったく接触しないと、通常人間との社会化はできません。
すなわち、知らないものは極度に恐れて、なつかないとか、人や犬を襲う猛猫などということになります。
猫を飼う場合には、人間に良くなつき、しかも猫らしく行動することが、人間と猫のふれあいの中で、最も重要な部分だといえます。
このような理由から、仔猫を飼う時期は、生後6週(約1.5ヶ月)から10週(約2.5ヶ月)が最も良いということになります。そして、猫とよく遊んでやることが性質の良い猫にする第一歩だといえるでしょう。
一般的に、良くない猫というのは、実はこのような、社会関係の形成期にあまり人にも仲間の猫にも、その他の動物にも接触せずに成長した猫か、あるいは、この時期にたいへん恐ろしいこと、もしくは苦痛を経験し、いわば人間不信か動物不振になっている猫が多いのです。
雄猫の尿のスプレー防止法
雄猫が家具や柱などに、尿をひっかけて困る、と言う話をよく聞きます。雄猫の排尿行動は、単に尿を排泄するという行為だけではなく、他に意味があることは、ご存知の方も多いと思います。
雄猫は性的に成熟すると、繁殖という大切な行動のため、各々の縄張りを持つようになります。そのために尿のにおいを縄張り宣言として、いろいろなものにつけてまわるようになります。
これは雄猫の正常な行動であり、猫の社会ではごく自然なことといえます。しかし、人間社会では、たいへん不都合なことになるわけです。
雄猫の排尿行為は、前述のように繁殖行動と深いかかわりを持っているので、性的に成熟をする前か、または性的に成熟してからまもなく、去勢手術することによって、90%は尿をひっかける行動を抑制することができます。しかし、残りの10%程度の猫は、去勢しても尿をひっかける猫ということになります。
猫は、たいへん非グループ的な動物だといわれています。猫は、絶えず他の猫や他の動物を意識しています。そこで何か不安があったり、神経質になっているような時には、最も尿をひっかけることが多くなるといわれています。
また、去勢した猫でも、一時的にはよくなっていたのに、再び尿をひっかけることが多くなることよくあります。原因は、近所の猫たちが繁殖期に入ったり、新しい雄猫が縄張り内を徘徊していたりするためです。
また、同じ家で新しい猫や動物を飼い始めたり、人間の家族に赤ちゃんが生まれたり、新しい家に引っ越したりしたような時にも尿をひっかけるという行動が起こりやすくなります。
いずれにしても、この行動は成熟猫の正常な行動ですから、雄猫の場合、100%これを抑制するのは難しいことです。しかし、去勢手術をすることによって、ほとんどの場合、この行動を防止できます。それでもうまくいかない場合は、フェリウェイ(猫の尿マーキングを抑制するスプレータイプの薬)を、猫が尿をかけやすい目的物にスプレーするのもよい方法です。
手入れ(毛の手入れ)
猫は、自分の舌で全身を掃除しますが、手入れを怠ると、長毛種では毛玉ができたり、多量の毛を飲み込んで、消化器に毛玉のたまる病気になりかねません。ブラシをかけたり、クシ入れをしたり、タオルでよく拭くなどのことは怠らないでください。特に、長毛の猫は毎日クシで毛をといてやりましょう。
また、毛にペンキやガムを、つけてくることがありますが、ベンジンやシンナーなどで、落とそうとすると、炎症を起こすことがあります。このような場合は、ついてしまった部分の毛を、思いきってハサミで切り取ってしまうのが一番よいでしょう。
ノミ予防
ノミがつくと痒いばかりでなく、アレルギー性皮膚炎になったり、条虫などの寄生虫の感染源となります。よく、暇にまかせてノミをつぶしてやる方がいますが、これでは、わざわざ猫に条虫(さなだ虫)をうつしてやっているようなもので、言語道断です。
だから、定期的に(1ヶ月に1回)、ノミ予防の薬(フロントラインプラス)を、猫の首の後ろにつけてあげてください。これは、1年中冬でも忘れないことが大切です。
入浴
猫は、シャンプーをあまり喜びません。しかし、仔猫の時から習慣づけておけば、成猫になっても平気です。シャンプー剤は、猫専用のものを使ってください。また、病院には、低刺激性・保湿性のシャンプー・コンディショナーが用意してあります。皮膚の弱い子には、おすすめです。
代表的な病気
仔猫の骨の病気(栄養性二次性上皮小体機能亢進症、俗にいうクル病)
骨は、食餌中のカルシウムとリンのバランス(1.2:1)が保たれて、初めて正しく作られるのです。このバランス(特にカルシウムの絶対量の不足)が悪い食餌で育った猫は、骨が軟らかくなり、曲がりやすくなり、しかも骨が折れやすく、背中や腰あるいは関節を痛がる、便秘しやすい、神経質などの症状があらわれてきます。
このような病気にさせないために、犬猫用のミルクを充分与えること、子猫用のドライのキャットフードではじめから飼うことです。そして、できるかぎり余分に肉、魚肉を与えすぎないことです(肉にはリン30に対し、カルシウム1の割合で、カルシウムはほとんどありません)。
不幸にして、この病気にかかった時でも、ほとんどの場合は助けることができますが、その場合も、骨の変形や、骨折が決定的にならないうちに、充分な治療を受けることが何より大切です。この場合、一番重要なのは、食事療法で、注射や飲み薬は、これを助けることに過ぎないのです。すぐに、お宅の食餌内容を調べてください。
猫伝染性腸炎(猫パルボ)
非常に感染力の強いウイルス病です。猫から猫へ直接うつるし、ウイルスで汚染されたもの、ノミ、ハエからも感染します。
症状は、急激な発熱、嘔吐、下痢などで、脱水、昏睡状態になって死亡します。仔猫では、特に感染しやすく、死亡率は90%にも達します。もちろん、仔猫だけでなく、免疫を持たない成猫にも感染します。
発病した猫に対しては、二次的な細菌感染の解決のために、広範囲に効く抗生物質の注射や、そのほか、脱水状態に対しては大量の乳酸加リンゲル液等の輸液が必要です。よほど病気が進んで手遅れにしてしまわないかぎり、早期診断と上記のような強力な治療によって、良い治療効果をあげることができるようになりました。
しかし、いずれにしてもたいへんな治療をしなければなりませんので、この病気も、治療よりも予防に、徹するべきでしょう。このように、やっかいで恐ろしい病気ですが、ワクチンで、ほとんど完全に予防することができるのです。仔猫では2ヶ月目と3ヶ月目に、成猫は年1回の追加接種が必要です。
猫伝染性腹膜炎(FIP)
猫伝染性腹膜炎は、ウイルスによって起こる猫の伝染病で、いろいろな猫の病気の中でも、予防・治療ともに難しいものです。
現在のところ、有効なワクチンもありませんから、確実な予防法も、決め手となるような治療法もないという、不治の病といってもよいやっかいな病気です。仔猫でも成猫でも、雌でも雄でも、どんな種類の猫でもかかる可能性があります。
猫伝染性腹膜炎には、2つのタイプがあって、1つは胸部や腹部に液体がたまってくるウエットタイプと呼ばれているもので、この腹水がたまるために、腹部が膨大してくるものです。
もう1つは、そのような症状のないドライタイプといわれているもので、慢性の全身的な病気です。おかされる臓器や部分によって、その症状もさまざまに変化しますので、それだけ診断も難しいことになります。
治療は、食欲を増加させたり、症状をやわらげることに向けられますが、飼主の手厚い看護が必要です。
猫白血病ウイルス感染症
猫白血病ウイルス感染症には、皮下や胸腔や腹腔内にリンパ肉腫と呼ばれるはれものができたり、異常なリンパ球が増えるという症状を起こすものがあります。 しかし、多くはその目立った症状を見ることなく過ごすことになります。この病気は、表に症状を出さないものがあるために、複数の猫(頭数が増えれば増えるほど)を飼育している場合には、感染の機会がそれだけ多くなりますから、定期的に検査するなどして十分な注意を払う必要があります。
検査で感染してることがわかった猫や、死亡した猫が出た場合は、その猫を隔離した後、家中を完全に消毒し、その後1週間は新しい猫を導入しないなどの配慮が必要です。
この病気は、慢性ですが、非常に死亡率が高く、治療を行っても、残念ながら現在では、ほとんどの場合、完全に治してやることはできません。少しでも命を長く、気持ちよく生活できるように治療をしてやります。
予防は、白血病の検査をした上で、陰性ならば、ワクチンを接種してください。
猫伝染性鼻気管炎
猫伝染性腸炎と同じく、ウイルスにより感染します。特に、家の外に自由に出ている猫に多く、人のインフルエンザに似た症状を示す呼吸器系をおかす病気です。
症状は、くしゃみ、流涙、鼻汁などからはじまり、重くなってくると、発熱、食欲不振、脱水、肺炎、虚脱などで、強力な治療を受けなければ死亡率は60%にも達します。
この病気の大切な点は、不顕性感染と呼ばれる、一見、健康に見えるものでも、ウイルスをまきちらすものがいることと、その他のストレスでそれが顕性に転じるものがあることです。このような場合も、寄生虫がいたり、平素の栄養状態(単に肥っていることではない)などがよくないと、それだけ重くなります。
幸いにして、猫ジステンパーとの混合ワクチンが使用されるようになりました。接種時期については、病院で相談してください。
猫伝染性貧血(ヘモバルトネラ症)
病原体(リケッチア)が寄生して赤血球を破壊する病気です。この病気は、不顕性感染といって、病原体が寄生していても、何も症状を現わさない猫が多いのです。しかし、他の病気などで体力が衰えたり、かかっているのに気がつかないで手術をしたりすると、しばしば急性の症状があらわれてきます。
発熱、貧血、黄疸などが現われ、元気、食欲がなくなります。すぐに獣医師の診察を受け、血液検査等をしてもらいましょう。もし、赤血球が破壊されて重度の貧血を起こしている場合は、直ちに強力な治療が必要になります。それと同時に原因の究明を並行させて行なわなければなりません。
人間に感染する猫のトキソプラズマ症
トキソプラズマは、原虫の一種で、すべての温血動物に感染します。つまり人間、特に妊婦が犬や猫から感染すると、流産や奇形児出産を招くというので、妊娠中は動物を飼育しない方がよいと、以前からいわれてきたのはそのためです。
しかし、現代の獣医学・医学では、この恐れはきわめて低くなっており、これは間違った知識と言えます。そのひとつとして、犬から感染することはありません。
猫が、トキソプラズマに感染すると、網膜炎や脳炎、心筋炎、リンパ腺炎、腹膜炎、肺炎などいろいろな病気を起こすことがあります。もちろん、妊娠中に始めて感染した猫は、流産したりします。
しかし、ほとんどの猫は病気にならないですんでしまいます。むしろ、上記のような病気を起こすことは、まれだといえるでしょう。
そして、後に血清検査でこの病気にかかったことがあるという証拠となる陽性を示すことになります。猫全体の約30~50%は、感染を経験し陽性を示すといわれています。このように、血清検査で陽性を示す猫は、後に再び感染しても、すでに免疫があり何も症状を現わしませんし、たとえ妊娠中であっても胎子への影響もなく、また人間へ感染させることもないのです。
動物を飼っている家の方や妊婦は、このトキソプラズマ症の先天感染(胎児への影響)は、たいへん心配なことのひとつであると思いますので、人間のトキソプラズマの感染について書き添えておきます。人間への感染は、いくつかの経路が考えられます。
- 1.感染動物の生肉、あるいは充分火の通っていない肉を、食べることです。豚の生肉を切った包丁や、まな板を洗わないで、生野菜を切って食べるというようなことも、わずかに感染の原因になります。
- 2.ハエやゴキブリがトキソプラズマの卵にあたるオーシストを運ぶことがあります。
- 3.まだ一度も、トキソプラズマに感染したことのない(陰性)猫が、始めて感染したときには、1~2週間の間、便の中にオーシストを出します。この猫の便から感染します。
- 4.庭の土いじりの時に、オーシストが手につくことがあります。
以上のような4つの方法で、人間に感染しますが、ほとんど人間は、何も病気になることなく過ぎてしまい問題にならないのですが、トキソプラズマ陰性の妊婦が、始めて感染した場合に限り、胎児に影響が及ぶことがまれにあります。しかし、妊娠中に始めて感染する妊婦は、数百人に一人であり、さらに胎児まで影響の及ぶ例は、その数分の1と言うことです。
また、飼い猫の約30~50%は陽性を示すので、すでにこれらの猫は便の中にオーシストを出すことはありません。胎児への影響は、このように2段がまえで守られているということになります。
つまり、猫が動物病院で、人間はもちろん病院でトキソプラズマの検査をしてもらい、その結果、猫も陰性、人間も陰性の時には、次のことに充分注意が必要になります。
- 1.豚の生肉を食べないこと、猫に生肉を与えないこと。
- 2.猫の糞は、毎日、他の人に始末してもらうこと(オーシストが感染型になるのには2~3日かかります。その前に、焼却または水洗便所に流してしまいましょう)。
- 3.食事前には、よく手を洗うこと(オーシストを口に運ばないように)。
- 4.庭の土いじりは、ゴム手袋をすること(土の中のオーシストを手につけないこと)。
- 5.ハエやゴキブリが、オーシストを運ぶことがあるので、防虫対策をすることなどです。
寄生虫病(回虫、条虫、鉤虫、コクシジウム)
各種の寄生虫が、消化管内に寄生するために、下痢、血便、嘔吐などを起こし、一般に食欲や元気がなくなり、やせてきます。重症例では、貧血や脱水状態に陥り、死亡することもあります。
特に、仔猫は寄生していることが多く、重症になりやすいので気をつけましょう。成猫も、年に4回は、検便をしてもらいたいものです。ただ1回の検便では発見できないこともあります。便がなかなか正常に戻らないようなときは、もう一度、検便をしてもらいましょう。
また、条虫はのみが中間宿主なので、ノミの寄生を予防することが寄生虫予防の最良の方法です。
皮膚病
皮膚を痒がる、フケが出る、脱毛する、発疹ができるなどの症状が現れたら、皮膚病かもしれません。
皮膚病には、寄生性(カイセン、ノミなど)のもの、感染性(カビ、細菌、ウイルス)のもの、ホルモン性のものなど、いろいろの原因があります。いずれにしても、早期に獣医師に診察治療してもらってください。
「皮膚病ができたので薬をください」と来院する方がありますが、上記のように皮膚病の原因はさまざまであり、その原因により、治療法も異なりますので、猫も一緒に来院しなければ確実な診断は受けられません。また、皮膚そのものの検査の前に、その皮膚を着ている体そのものをよく調べておかなければ、本当のことがわかりません。ご協力ください。
猫の歯の病気
猫には、ムシ歯はほとんどありませんが、歯石がたまると、歯肉炎、歯周囲炎、歯槽膿漏、さらに口内炎のもとになることもあります。いずれにしても口臭が強くなり、よだれが出たり、食欲がなくなったり、歯がぐらついたり、抜けたりします。
年に2回は診察を受け、歯石を取ってもらいましょう。ひどくなると、歯がぬけてなくなることもありますが、歯周囲炎で歯槽膿漏になると、全身、特に心臓や、腎臓、その他の重要な臓器に重大な影響を与えることがありますから、注意が必要です。
予防は、
①ドライのキャットフードを与える
②ブラッシング
③食べても大丈夫の歯磨き→CET→1回0.5~1.0cmを1日2~3回食後になめさせる
④食餌療法→t/d→噛むだけで歯の表面をきれいにします。
などで、定期的に口の中をよく診察してもらうことが大切です。
猫の眼の病気と見分け方
昔から“眼は心の窓”といわれている通り、眼だけの病気のほかにいろいろな全身的な病気の一つの症状として、眼が病気を示してくれることがよくあります。猫伝染性鼻気管炎、肺炎、トキソプラズマ症、猫伝染性腹膜炎、悪性リンパ肉腫などでは、結膜炎、虹彩炎、毛様体炎、網膜炎や、全眼球炎までおこすことがあります。
下記に示す10項目は、このような眼の病気の発見にたいへん役立つもので、、とくにあげておきます。
- ①左右の眼がなんであれ、異なっていれば、左右どちらかの眼が異常であることが多い。
- ②左右の瞳の色や虹彩の色が異なっていたら、左右どちらかの眼が異常であることが多い。
- ③左右の瞳の大きさが異なっていたら、どちらかの眼が異常です。
- ④目やにがたくさん出ている眼は異常です。
- ⑤たくさんの涙があふれ出て、目頭の毛の色が茶色くなっている眼は異常です。
- ⑥眼を開くことができないで閉じていたり、しょぼしょぼさせたり、時々前肢で眼をこするような時は異常です。
- ⑦昼間、瞳が白く見えたり、赤や青く見える眼は異常です。
- ⑧必要以上にまぶしがる時は異常です。
- ⑨まぶたに触れただけで痛がるような時は異常です。
- ⑩歩きたがらず、ものにぶつかったり、ふらついたりするような場合、眼に異常があることがあります。
代表的な眼の病気
- 外傷性角膜炎
- 猫は、ケンカでよく角膜(眼の一番表面)に傷を受けます。涙を流し、眼を開くことができず、角膜は白く混濁してきます。傷は、ごく浅いものから、他の眼の病気を引き起こすほど深いものまでさまざまです。猫は、外傷を受けた眼を、大変気にして前肢でこすることが多く、二次的に悪化させたり、新しい傷をつけることもあります。
獣医師の的確な診断と早期の治療を必要とします。だれの目にもわかるほど悪化してからでは、治療も長引き、猫の苦痛も長く続き、費用も余分にかかることになってしまいます。 - 結膜炎
- 猫の結膜炎は、猫伝染性鼻気管炎や猫肺炎に伴って現れてくることが多く、診断的に大変、意味深いといえます。
その他に、細菌感染やアレルギーが原因の結膜炎もあります。結膜炎は、最もありふれた、眼の病気ということができます。眼は充血し、涙と目やにが多くなります。
原病の治療はもちろん、抗生物質の点眼や注射または内服、抗アレルギー剤の使用、そして何より大切なことは、頻繁に洗眼して眼をきれいに保つことと、猫が自分の手や爪で眼をこすり、傷をつけないようにエリザベスカラーやコルセットを使用して眼を保護してやることも必要です。 - 黄色脂肪症(ビタミンE欠乏症)とビタミンB1欠乏症
- 猫に、魚や魚のカンヅメ類を多く与えているとビタミンEとB1の不足が起こります。全身の脂肪組織が黄褐色に変性し、強い炎症を生じます。重いものでは、高熱と全身の強烈な痛みを生じ、猫は体に触られることを極端に嫌うようになり、動作緩慢、食欲廃絶、便秘、視力障害などが生じます。
予防は、魚類の多給を避け、良質の猫用のドライフードと、ビタミンE剤を与えることです。
雄猫の尿道閉塞(尿閉)
雄猫の尿道は、非常に細いので、粘液や砂粒大の結石でもつまることが多くこれを専門的には尿閉と呼んでいます。トイレに何回も行くが尿は出ない、または、血の混じった尿がぼたぼた、たれるような症状があったら、この病気の可能性が極めて高いといえます。自分の身に置き換えてみればすぐわかることですが、大変な苦しみを伴う致死的な病気ですから、決して様子を見てからなどと、のんびりしていてはなりません。いわゆる救急車で駆けつけるべき病気の一つです。
尿が出ない状態は、明らかに緊急事態と考えて、直ちに獣医師の適切な処置を受ける必要があります。そうしないと尿毒症を併発して死に至ります。
予防としては、水分を充分与え、尿を我慢させないことです。
雄猫の尿閉(猫泌尿器症候群)はキャットフード(ドライタイプ)が原因か?
愛猫家の間でも、ドライのキャットフードを与えると、尿結石ができて、尿閉になるなどということを言っている人たちがいますが、これは誤りです。この問題に関する現在の獣医学的見解は次の通りです。 この病気の原因としては、
- ①尿の量が少ないこと
- ②尿のPHのアルカリ性または酸性へのかたより過ぎ
- ③尿を我慢すること
- ④食事中のマグネシウム、リンやカルシウムなどの含有量が多いこと
- ⑤運動不足
- ⑥細菌
- ⑦肥満
などがあげられ、少なくともこれらの3~4項目の要因が重なった場合に、発病すると考えられています。
これらの原因を、ドライフードのキャットフードにあてはめて考えてみましょう。ドライのキャットフードのマグネシウムおよびリン含有量は、むしろ猫用の缶詰食品などに比べ少ないのです。しかし、乾燥したままで与える場合には、いつでも好きなだけ水が飲めるようにしておかなければなりません。
水が充分に飲めないような場合には、必要な水分が体内に足りなくなり、尿は濃くなりすぎることになります。
これは、尿量や排尿回数が減り、原因の①の項目にあてはまることになりますが、このことは、新鮮な水をいつでも飲めるようにしておくだけで解決します。
水をあまり飲まない猫には、食餌をお湯やスープで充分ふやかしてから、与えればよいのです。
ドライフードは必要なビタミン類も豊富で、その他の栄養もバランスよく含まれ、比較的理想に近い猫の完全食ということができます。
また③に対しては、いつでも気持ちよく排尿できるように、猫のトイレをいつも清潔に保つことが大切なことになります。
しかし、すでに尿閉が起こっている猫を治療する場合は例外で、市販のドライフードや一般家庭で作る食事はやめて、病院の指示する処方食を与えるのが一番よいことです。
その理由は、食餌の問題以外にいくつかの原因がその猫の体に存在することと、このことで、より多くの水分を与えることになるからです。
今日では、この病気のある猫に対しては、尿石用の処方食を与えるのが最もよい食餌療法とされています。
しかし、この尿閉症候群も、再発する場合や、内科的にコントロールできない場合には、尿閉が二度と起こらないように手術を餌けることが最善の方法です。
壮年老年病
人間はだれもが、いつまでも若くありたいと思いつつ、やがては壮年期、老年期と年をとっていくものですが、動物もまったく同じことがいえます。予防獣医学の発達とともに若年齢での死亡率が低くなり、多くの動物が長生きできるようになってまいりました。
人間社会では、高齢化がいろいろと問題を投げかけていますが、動物界においても、飼主の方々が病気予防や正しい食餌を心がけるようになり、それだけ、犬・猫・小鳥なども長年元気に過ごし、ペットの社会にも高齢化の現象が現れてきました。そして、これに伴う特殊な高齢特有の疾病も多くなってきました。動物も年齢が進むにつれて、いくつかの高齢特有の特徴を示してきます。
例えば、首をすくめていたり、背を丸めていたり、尿のしつけがくずれてきたり、自分で毛の手入れを次第にしなくなったりしますが、これらはいずれもその特徴です。
それでは、このような動物の体の中ではいったいどんなことがおきているのでしょうか。そのいくつかをあげてみましょう。
- ①睾丸が軟らかくなったり、卵巣が小さくなり、生殖器、ホルモンの機能が低下してくる。
- ②末梢血管が働かなくなってくる。
- ③肝臓に脂肪が多くついてくる。
- ④体温の調節がうまくいかなくなる。
- ⑤水を飲む機能が低下してくる。
- ⑥消化器にガスがたまりやすい。
- ⑦腎臓の働きが低下してくる。
- ⑧下垂体の萎縮やホルモン産生器官の機能が低下してくる。
- ⑨乳腺の腫瘍(雌)が増える。
- ⑩免疫反応が弱くなる。
以上動物の高齢に伴う一般的な体の変化について述べてきましたが、さらにいくつかよくある病気についてお話しておきましょう。
歯石と歯肉炎および歯根炎
最近は、猫も歯の問題で動物病院を訪れることが多くなってきました。といいましても虫歯のためではなく、ほとんどは歯石ができているのに気がつかず、無処置で、放っておいたためにおきた歯肉炎や歯根円のために、口が臭くなったり口内炎が起きて食欲がなくなったりするためです。
歯肉や歯根の病気になると、口臭が強くなり、歯がぐらぐら動いてきたり、膿が歯と歯肉の間から出てきたりします。
このような状態を放置しておくと、歯が全部抜けてしまうだけでなく、消化器にガスがたまりやすくなり、口腔と鼻腔の間に瘻管(穴が開いてふさがらない)ができたり、心臓や腎臓その他にも悪い影響を及ぼすことさえあるのです。
歯が抜け始めたことに気づいた飼主は、とかく「もう高齢だから」などと気軽に思いがちです。もちろん年齢が高くなるにつれて歯石は少しずつついてきますが、歯が抜けてしまったのは、何も高齢が直接の原因ではなく、明らかにその結果起きた歯根炎によるものです。
歯石を放置しておくと必ず、歯肉炎、歯周炎、歯根炎などに進み全身にも悪影響を及ぼします。ですから、ぜひ定期的に歯のチェックをしてもらい、歯肉炎や歯根炎にならないように、歯石を取ってこれらを予防することが大切です。
家庭でできることとしては、
- ①ブラッシング(指、ガーゼ、歯ブラシなど)。
- ②食べても大丈夫の歯磨き→CET→1回1.0cmを1日2~3回食後になめさせる。
- ③食餌療法→t/d→噛むだけで歯の表面をきれいにします。
- ④おもちゃ等
以上のように歯石のもととなる歯垢を、つけないようにすることです。できる範囲で、やってみてください。
うまくいかない時は動物病院で、相談してください。
慢性の腎不全(末期の腎臓)
いろいろの慢性の腎臓病が進行し、働いている腎臓の組織が25%以下になってしまった時に、初めて症状があらわれる病気です。
最初に気づく症状は、多飲多尿、夜尿などで、体重の減少、口臭(アンモニア臭)、口内炎などの尿毒症と呼ばれる症候群です。
この病気の特徴は、脱水して体の水分が不足している場合、正常な腎臓では非常に濃い尿になるのに、この場合には、尿の濃度が薄く、しかも尿比重が固定されてしまうことです。
「末期の腎臓」というように、この病気は残念ながら、治る病気ではなく、QOL(生活の質)を高める治療をすることしかできません。
慢性腎不全の猫の家庭での日常管理
腎臓が部分的ではあるが、元に戻らないほどにダメージを受けてしまっているので、この病気の動物は、尿に出されるはずの老廃物質が、健康な動物の何倍も、血液中に残ってしまうのです。
この能率の悪い腎臓を上手に使って生命を維持していくためには、
①充分な水を補給すること。薄い尿が、たくさん排泄されて水分がどんどん体から出てしまうので、いつでも好きなだけきれいな水を飲めるようにしておいてください。
②処方食(例えば、Hill’sの猫用k/dなど)を食べさせる。
・蛋白質を制限→窒素老廃物の貯留を軽減し、尿毒症の症状をやわらげます。
・リンを制限→高リン酸血症、上皮小体機能亢進症の改善に役立ちます。
・ナトリウムを制限→高血圧のコントロール、腹水症の改善に役立ちます。
・高カロリー(非蛋白質カロリー)→充分なカロリーで体蛋白質の異化(体の蛋白質が分解されてエネルギーとして使用される状態)を防ぎます。
・アシドーシスの改善→腎臓病時におけるアシドーシス(体が酸性に傾くこと)を改善します。
③ストレスを与えないこと。暖かくして、動物が安心できるところで生活させること。
④定期的に血液検査を行い、BUN(血液中尿素窒素)とCRE(クレアチニン)を測定してもらい、必要なアドバイスを受けること。
以上のようなことに注意して、少しでも長生きできるように手助けしてください。
便秘
老齢になると便秘することが多くなります。便秘の原因としては、
- ①食餌の中に消化のよい祖繊維が不足している。
- ②消化液の分泌の減少。
- ③腸の蠕動運動の減少。
- ④水分摂取の減少。
- ⑤体の手入れ不足により口から入る毛球など。
があげられます。
便秘といっても1日や2日便が出ない程度のものから、便の大きな塊ができて大腸が太く詰まるもの(巨大結腸)まであり、特に後者のほうが問題になります。症状は、食欲不振、嘔吐、腹部を痛がるなどです。
予防としては、
- ①祖繊維の多い食餌を与え、回数を増やす。
- ②水分の多い食餌を与える。
- ③食後に、必ず運動をさせる。
- ④抜け毛を取るために、ブラッシングを頻繁にする。
以上のような事項を行い、それでも便秘が起こるような場合には、獣医師の診察を受け、必要な治療を受けてください。
薬の飲ませ方
家庭で薬を飲ませるときは、「獣医師の指示を守る」ということが重要です。特に、抗生物質等の投与間隔については、それを守らないと薬の効果がなくなってしまうことさえあります。
粉薬は、湿らせて舌に塗りつけるか、オブラート、カプセルなどに包み、のどの奥深くにいれて飲ませます。
水薬は、プラスチック製のスポイトを用い、頬をつまみ、歯とのすき間に入れて流し込みます。
錠剤は、つまんですばやく喉に深く入れ、すぐに口を閉じます。スポイトで水を飲ませるか、鼻をしばらくつまんでいて手を放すと、ペロリと鼻をなめ、その拍子に薬を飲んでしまいます。
上記のほかに、食欲のある猫では、粉薬や水薬を食餌に混ぜて与えることができますが、この場合は、はじめに残さない程度の量の食餌を混ぜ与え、それを全部食べてしまった後に、残りの食餌を与えるようにします。しかし、どうしても薬を混ぜると食事を食べない場合には、前述の方法により投薬するしかありません。
猫は、警戒心が強く、敏捷なので、手荒に扱って一度失敗すると、後は手の施しようがなくなることがよくあります。このような時は、まず落ち着かせてから、バスタオルなどを用いて抱き、薬を飲ませます。どうしてもできない場合は、内服のために通院したり、入院が必要になる場合もあります。
退院後の注意
猫が退院した時は、家でのいつもの状態と異なることがあります。また、皆さんに守っていただかなければならないことも、いくつかあります。参考にしてみてください。
- ①帰宅した時は、猫が興奮して、たくさん食べたり飲んだりして、これが嘔吐、下痢の原因になることがありますので、与えすぎないよう注意してください。
- ②退院後数日、なれない環境にいたので落ち着きません。完全に回復するには数日かかります。ホテルの場合も同じです。
- ③外科で入院していた猫は、退院時には戸外で運動させないでください。
- ④その後の様子を知らせるよう獣医師に依頼された場合は、必ず、守るようにしてください。
- ⑤何か少しでも異常を発見した時には、必ず、主治医に連絡して、納得が行くまで充分に話し合い、必要があれば再び診察を受けるようにしてください。
猫のお産と新生子の病気
猫のお産
雌猫は、生後6ヶ月~12ヶ月で最初の発情が起こり、妊娠が可能になります。その後、年に2~3回は、妊娠分娩することが可能です。しかし、通常は体が充分に発育していない最初の発情では、交配しない方がよいといわれています。
雄猫は、雌猫より3〜4ヶ月遅れて成熟するのが普通です。
発情
雌猫は、発情すると落ち着かなくなり、外陰部は充血、腫脹してきます。また、背中やお尻をなでると、尾を上げ、顔やお尻をすりよせてきます。雌猫は、通常真冬から冬の終わり、および春から初夏にかけて、年に数回発情します。
つまり、猫は季節的多発情性の動物で、1繁殖季節に15~21日の周期で発情を繰り返し、発情期間は3~6日間です。しかし、交配が行なわれない場合には、発情期が10日も続くこともあります。
このような場合、猫は、発情時のあの特徴ある声で鳴き続けます。夜中などは、大変耳ざわりなものですが、これを止めるには、交尾刺激をしてやることで、排卵が起こり、おさまることがあります。具体的には、きれいな綿棒のようなもので、陰部を軽く刺激してやることです。
また、分娩後1~4週間の授乳期間中に発情交尾することも、まれではありません。
交配適期
猫の交配は、交尾排卵で、発情中の交配の刺激によって排卵されるので、受胎率が高く、仔猫の生まれる確率が高いのです。
また、発情中何度でも、交配の刺激で排卵するために、発育の異なる仔猫を一度に生むこともあります。
ですから、特に純血種の場合は、交配がすんだと言って安心していると、雑種と純血種の仔猫が、一緒に生まれたりすることもまれにあります。
妊娠
本当に、妊娠したかどうかは、交配後の雌猫の体重を測定してみることでわかります。体重が、徐々に増加するようならば、ほぼ確実で、妊娠28日目に獣医師の診察を受ければよいのです。
交配前のプログラム
繁殖を希望する雌猫は、あらかじめ、発情が来る前に、ワクチン接種を受け、また寄生虫の検査、必要に応じて駆虫処置も受けて起きます。
交配後のプログラム
交配後25~28日目に受診(第1回目)、腎臓・肝臓の検査(尿持参)、触診・超音波検査による妊娠鑑定を受けますが、午前中に朝食を与えないで、尿、便をさせた後、来院することが望ましい(28日目をこえると診断がしにくくなる)といえます。 順調に体重が増えて、食欲も安定していれば、交配後57~58日目に受診(第2回目)し、分娩の難易度の検査、および分娩と新生子と母親の管理等について説明を受けてください。
妊娠中の注意事項
- 運動
- 妊娠の前半は、通常の運動ならば、大いに結構です。後半も、消耗や危険のないかぎり運動させるのがよいのです。ただし、強制してはいけません。
- 食餌
- 胎児が発育するにつれて母猫も、食欲が増すものです。良質のキャットフード(ヒルズの処方食猫用p/dなど)を1日3~4回に分けて与えること。これは、大きくなった子宮が、胃腸を圧迫して苦しくなるのを防ぐためです。食餌の量は、いつもの2倍ないし3倍に増やします。
- 駆虫
- 初期に駆虫します。4週を過ぎてからは、通常行ないません。いずれにしても、駆虫はワクチンと同様に、妊娠前に済ましておくほうがよいといえます。
日光浴:良質のキャットフードを与えているかぎり、ビタミンDの不足はありませんが、充分な日光浴をするのは、猫にとって気持ちのよいことです。
お産
猫の平均妊娠期間は、63日と考えられていますが、58日から71日の間でかなり変動します。妊娠42~43日を過ぎると、レントゲン撮影により胎児が移るようになります。
57日目に、病院でレントゲン検査・血液検査・超音波検査等をしてもらい、必要があれば、入院分娩の手はずなどを、獣医師と前もって相談しておきます。
分娩が近づくと、食欲もなくなり、体温も下がります。分娩は、一般に夜半過ぎから夜明けにかけてが多いようです。陣痛が始まったら、異常のあるなしにかかわらず、すぐに獣医師に連絡を取っておくことです。最初の仔猫が生まれてから最後の仔猫が生まれるまでの時間は、一定していません。
生まれてきた胎児は、うすい袋をかぶって出てきますが、母猫はすぐにそれを食い破って食べてしまい、臍の緒を噛みきります。もし、仮死状態で生まれた胎児がいたら、すぐに鼻の穴をふさいでいる粘液をていねいにふきとり、口の中をぬぐってやった後、体をふいて全身を強くマッサージしてやることです。
胎児の姿勢に異常があったり、胎児が大きすぎる、あるいは陣痛が弱すぎたりすると、難産が起こります。このような場合には、直ちに獣医師に診てもらい、その指示に従うことが母猫、仔猫のより多くの生命を救うことになります。
産後
分娩が終わっても母猫は、仔猫が気になって、なかなか排便や排尿さえ、外に出ようとしませんが、時間をみはからって、上手に誘い出し、産室の汚れた床を取り替えたり、不具な仔猫や、特別に手当てが必要な弱々しい仔猫が、いないかどうか調べます。
また、母猫と仔猫の様子をよく観察し、乳が飲めない仔猫がいたら、母猫の乳首につけて吸わせてやるとか、母猫が意識的に遠ざけるような仔猫がいたら、離して獣医師に相談してください。
授乳中の母猫は、平素の2倍以上栄養を必要としますから、日ごろ食べなれてる食事のほかに、猫用の粉ミルクを溶かしたものや、水も産室の中や、近くに運んで、安心して食べられるようにしてやるのもよい方法です。
このように、お産の後の母猫と仔猫の世話には、細心の注意が必要です。
新生子の生理と病気
新生子の生理
新生子とは、出生から3週齢までの仔猫のことです。この期間の死亡率は、約20%に達していますが、この率は、繁殖系、飼育環境、衛生状態などで、良くも悪くもなります。
生後24時間は、90%は眠っています。残りの10%は母乳を飲む時間です。母猫のミルクを飲むことによって母体で暖められ、新生子は体温を保つことができるのです。また、母親に充分な伝染病の抗体がある場合は、母乳を飲むことによって、免疫抗体を受け継ぎます。
3日目までは、脚を曲げる筋肉が優勢なために、新生子はいつも丸まっています。
4日目までは、皮膚を収縮させることができません。
6日目までは、まだ体を震わせることはできません。
7日目までは、体温調節ができません。
10日目ぐらいから、眼が開きだします。
16日目ぐらいから、歩き出すことができます。
体重は毎日調べ、生後8~10日で、生まれたときの2倍になるのが正常です。
体温調節機構は未発達なので、4週齢までは、成猫の体温より1~5.5℃低いことも珍しくありません。
新生子の育て方
不幸にして母猫が死亡したり、母猫が病気になって育子が行なえない場合、母猫に代わって、飼主が育ててやることが必要になることがあり、また、捨てられた仔猫の面倒をみてやる場合にも、人間が母猫の代わりをしてやることになります。
まず、仔猫のいる部屋の温度を27~32℃に保ち、仔猫のベッドにも、ペットヒーターなどで保温してやることもよいでしょう。
仔猫が泣く時は、病気か、寒がっている場合か、おなかがすいてミルクが飲みたいときです。
ミルクは、猫用のミルクを与えます。動物用の哺乳瓶を用意して、ミルクは毎日新しく作り、38℃ぐらいに暖めて飲ませます。
初めは、うまく飲めないかもしれませんが、あせらず時間をかけて飲ませてください。だんだん上手に、飲むようになるはずです。
ミルクの量や回数については、猫用のミルクの説明書に詳しく書いてありますが、猫の育ち具合にもよりますので、それより先のことは、獣医師に相談してください。
新生子は、自分だけでは、便や尿の排泄ができません。母猫が、赤ちゃんの体をなめてやることで、うまく排泄することができるのです。
したがって、人が育てる場合には、母猫の代わりに、食後に、脱脂綿やティッシュぺーパーなどを利用して、肛門および陰部をやさしく刺激してやればよいでしょう。こうすることによって、猫は、容易に便や尿をすることができます。
毎日、体重を計り、健康状態をチェックしてみましょう。よく飲み、、よく眠り、よい便をしながら、毎日、確実に体重が増えているようであれば、発育は、順調であるということになります。
生後1ヶ月ぐらいになれば、初めての虫下しや、ワクチン接種が必要になりますから、必ず獣医師に相談するようにしてください。
新生子の病気
母猫が健康で、環境がよければ、3ヶ月齢までは、一般の飼主の方に関係のある病気は、あまりありません。
起こりやすいのは、低血糖症、低体温症、水分の不足による脱水です。
これらの原因は、母親にある場合と、新生子そのものにある場合があります。
- 母親の場合
- 栄養不足、ミルクの分泌の不足、病気、仔猫の面倒をみないなどがあります。
- 新生子の場合
- 未熟子、先天性奇形、兄弟が多くて充分にミルクを飲んだり、世話をしてもらえない場合があります。 だから、新生子の病気を注意する場合は、母猫の健康状態も充分に注意しなければなりません。
- 簡単な処置
- 低血糖症:ハチミツまたは砂糖をとかした温水を与える。
- 低体温症:体温を34.5℃以上にして、母猫にもどす。この場合、人間の胸で暖めてやってもよい。
- 脱水:水分やミルクを与える。
- 寄生虫病:
- ①交配する前に、母親の便の検査を行い、必要に応じた駆虫をしておく。
- ②生後3週齢になったら、1回目の駆虫、特に回虫の駆虫を行ないます。
新生子の病気の見つけ方
毎日、1頭1頭の状態を調べます。
- ①体重を調べる。病気になると、体重の増加はストップします。
- ②便の状態、色を調べる。病気が進むと、便の色、形、臭い、などが変わってきます。
- ③体温を調べる。母親は、仔猫の体温が下がると、他の猫と区別して、面倒をみなくなってしまいます。また、口の周りにミルクがつくのも、体温が下がっている証拠です。
- ④全体の動きを調べ、他の新生子と比べて、よく観察することです。
その他、異常があればただちに、獣医師に相談することが大切です。
猫とはどんな動物か
感覚器官
- 視覚
- 猫は双眼視できるので、遠近の距離感を正確に判断できます。色の識別能力は高くありませんが、青や緑は多少区別ができるとも言われています。わずかな光でも増幅することができるので、暗いところでも人の6~7倍くらい物を見る能力があります。
- 聴覚と平衡感覚
- 餌となる動物などのかすかな泣き声やかさかさと動き回る音を聞き分けるように進化してきました。集音のために耳介の角度を変えることができ、左右の耳に入るわずかな時間差で音源の方向をより正しく把握できます。
猫は耳の内耳にある体の平衡感覚をつかさどっている内耳前庭器官が発達しているため、ある程度高い場所から落下しても、柔らかい関節と発達した筋肉、優れた平衡感覚が協調して、すばやく体位を回転して足から着地できます。 - 味覚と嗅覚
- 味覚は犬のものより発達していると言われ、塩味、苦味、酸味に反応しますが、甘味に対する反応は明らかではないようです。
また、猫は鋭い嗅覚を持っており、新しい食べ物や飲み水、新しい猫の仲間、知らない人などは、すべて匂いを嗅いでみます。 - 触覚
- 生まれた直後の猫の子は、目が見えないので触覚で乳首を捜します。猫は口の周り、頬や眼の上などに長くて硬い立派なヒゲが生えており、触毛ともいわれる剛毛で接触や振動に対して鋭敏に反応します。また、異常や危険を感じるとヒゲを動かして注意深く行動し、さらに、狭いところを体が通り抜けられるかどうか知る時にも役立っています。
食性と狩り
肉食動物のうちで、猫類は最も狩りに適応した動物と言われ、食生は肉食性で植物を原則的には食べません。しかしながら、家猫は長い間人間に飼われてきたので、多かれ少なかれ雑食性の傾向があります。
猫はネズミ、小鳥、カエル、トカゲ、魚、昆虫などを本能的に狩りますが、そのためには母親からそれらの動物の狩りをすることを学習する機会が必要であり、学習しないと餌の対象として認識が発達しないと言われています。また、狩りは空腹の時に成功する確率が高いのですが、餌を常に与えられている家猫は、狩りをする必要が次第になくなってきています。それでも猫によっては狩りをし、成功した獲物をくわえてきて飼い主に見せることがあります。
繁殖行動
- 性成熟
- オスは生後6ヶ月から12ヵ月の間に初歩的な性行動がみられることがありますが、一般的には生後18ヶ月頃から成獣のオスとして行動が大きく変化し、特徴的な泣き声や尿を壁に吹きつける尿スプレー等の行動がみられるようになります。特に、オス猫の性行動に伴う三大問題といわれる、放浪癖、オス猫同士の喧嘩、尿スプレーが顕著になります。
また、分泌腺からの分泌物をこすりつけたり、爪研ぎをしたり、糞尿などの排泄物を利用して自分の存在を誇示し、マーキング行動をします。 メスは生後7ヵ月から12ヵ月の間に最初の発情があり、発情徴候は、落ち着きがなくなり、尾を上げては排尿回数が増加し、特有の泣き声を出すなどの行動がみられます。また、一種の化学物質であるフェロモンを出してオスの性衝動を誘発します。
発情の頻度や間隔は飼われている環境や品種などによって個体差がありますが、一般的には1年に3回、約3ヵ月の間隔で、1月中旬~3月中旬、5~6月、8~9月にみられ、発情は約1週間程度続くものが多いといわれていますが、発情しても交尾しない場合は4~5週間おきに発情するといわれています。 - 交尾排卵
- 猫は交尾の刺激によって排卵するタイプの動物です。
- 妊娠
- 交尾排卵といっても、排卵は交尾が何回か行われることが必要といわれ、有効な交尾の刺激の場合は24時間後に排卵を起こして受精します。
妊娠の徴候は3週間経過する頃、乳首がふくらんでピンク色になり、さらに30日も過ぎる頃には腹囲が膨らむ、6~7週間を過ぎると胎動がみられることがあります。妊娠期間は63~65日、約2ヵ月です。 - 分娩と新生児
- 受胎してから約2ヵ月後、仔猫が3~8頭(平均5頭)産まれます。母親は新生児の体をきれいにするためによく舐めますが、その時に、肛門や尿道を舐めて刺激することで、仔猫は排泄できるのです。また、母親はそれらの排泄物を食べて巣の中や子猫の体を清潔に保ちます。
寿命
日本の家庭で飼われている猫の平均寿命は現在10歳前後と推定されていますが、ワクチンの開発と獣医学の進歩、キャットフードの普及によるバランスのよい栄養食などによって少しずつ寿命が延びている傾向にあり、長寿の猫としては20歳以上のものもいます。
なお、外飼いの猫の寿命は、室内飼いの猫に比べるとずっと短く3~4年といわれていますが、これは栄養状態や疾病、生活環境、交通事故等の要因が大きく影響しているものと考えられます。
生態と習性
- 社会生活
- 猫類の生態は単独生活が基本ですが、家猫は家畜化されることによって生理、生態が変化することもあり、一軒の家の中で複数の猫が暮らす場合や、餌場、休息場所を共有する場合、コミュニティーを形成するなどして生活する場合もあります。社会生活をする上では動物相互間の情報交換や意志伝達が大切になりますが、猫の意志伝達手段としては音声、顔の表情、ボディランゲージなどの他、マーキング行動でみられる「尿マーキング」、「顔や脇腹などの擦り付け」、「前肢による引っかき行動」、「肛門嚢からの分泌物」、「雌の発情期の性フェロモン」など、匂いによる伝達手段も極めて重要です。
- 行動範囲
- 猫は各々が一定の広さの行動圏(ホームレンジ)と狩猟圏(ハンティングエリア)を持っていますが、犬に比べはるかに行動半径が小さく、家猫の空間的広がりとしての範囲は、主として自宅とその周辺の庭程度が行動圏になっています。 メスや去勢されたオスの行動圏は小規模で狭いが、去勢されていないオスは広く、メスの数倍と考えられており、近所のメス猫数頭を対象に巡回しているともいわれ、メス猫の分布状況によってはかなり広い地域を行動圏にしていることになります。
猫は自分の縄張りには尿や分泌物をつけて印をつけますが、また、猫は空間的な住み分けとともに、時間的住み分けをして争いを避けることができます。自由に行動できる猫の場合は夜になると共有地に出かけますが、ここで狩りをすることもあるので狩猟圏といわれ、都会では駐車場や空き地などがこれにあたり、集合の場にはオスもメスも集まって猫たちは相互に交流を深め、仲間の関係を強化して地域社会の安定に役立っていると考えられています。
一方、屋内飼育の場合、行動圏は家族で暮らす部屋やベランダですが、本来猫は安心できる空間があれば暮らしていけるので、猫が立体的に自由に行動できるように家具等を配置してやることが大切です。また、複数の猫が飼われている場合、狭くても餌が豊富であればお互いに争いを避けるような行動を示して結構うまく生活していくことも可能です。 - 夜行性
- 猫は本質的には夜行性の動物です。その証拠に闇夜でも視力が働き、人の目が感じる最低の光量の6分の1の明るさでも物を見ることができるほどです。家の中で飼われている猫の行動を見ると昼間よく寝ていて、24時間の3分の2は眠っているとも言われていますが、夜になると活動的になる傾向があります。
- 鳴き声
- 鳴き声には仔猫が母猫に甘えたり、訴えたりするミューミューという鳴き声、母猫が子猫を呼び寄せたりする鳴き声、発情期のオス・メスの誘い合うような鳴き声など猫同士のコミュニケーションの手段として使われている他、警戒、威嚇、闘争の鳴き声があります。 声帯は関係ありませんがゴロゴロという「喉ならし」も音による気分の伝達の一種で、怒りを表すうなり声や口を半開きにして喉から呼気を出す「シュー」または「ファー」と聞こえる威嚇も重要な表現です。
マーキング行動
- 擦り付け
- 幼い猫は母猫に尾を立てて体を擦り付けます。これは甘えと親愛の情を示す行動ですが、成猫が飼い主や仲のよい仲間に近づく時にも顔や脇腹をこすりつける行動がみられ、安心や親愛の情を示していると考えられます。この行動は顔から分泌される匂い物質を擦り付ける大切なコミュニケーションの一つです。
- 爪研ぎ(引っかき行動)
- 従来、爪研ぎは、爪が常に伸びてくるので適当な間隔で爪を研ぎ、利用しやすい武器にしておく必要から行う行動と考えられてきましたが、その他にも爪で傷つける視覚的マーキングと足の裏から分泌される匂いのマーキングの両者が同時に行われているのです。 また、機嫌のよい時に爪研ぎをしている猫も見られ、単なるマーキング行動だけでなく、大切なボディランゲージでもあるようです。
- 尿マーキング(尿スプレー)
- 猫の尿マーキングは行動圏を明らかにして自分の存在を誇示したり、不安を感じた時に示すマーキング行動です。オス猫は成熟すると、尾を挙げて柱などの対象物に尿を噴射する「尿マーキング(尿スプレー)」を行い、自分の縄張りを主張したり、メス猫でも発情期になるとトイレ以外の場所に尿をして「尿マーキング」をすることが少なくありません。また、最近の行動学的研究では、性行動に関するマーキングのほかに不安や欲求不満が高まると「尿マーキング」を行うことも指摘され、オス猫では去勢手術をすると90%近くはやめると言われていますが、10%近くがマーキングをやめない理由として、不安やストレスが関係しているといわれています。
毛づくろい(セルフグルーミング)
猫は清潔好きで、いつも体を舐めたり前肢で顔を洗うような動作をしていますが、この毛づくろいは獲物であるネズミなどに匂いで感づかれないために必要な習性で、そのために猫の舌の表面はザラザラしており、細かい汚れまで取り除くことができます。猫同士が舐め合う行動がみられるのは、気のあった仲間であることを示します。不安や心理的ストレスが続くと、毛づくろいの頻度が高まって毛が抜けてしまうこともあります。
猫の家出
猫は飼い主が理由の分からないまま家出してしまうことがよくあります。猫は優先権がはっきりしており、また、自分の縄張りに固守する習性があるので、環境の変化にはデリケートに反応することはよく知られています。例えば新しい猫がきた場合にそれが気に入らないで前からいる猫が家出してしまうことや、引っ越した場合、新しい家になじめずに出て行くような例はよく見られるところです。特にオス猫の家出が多い傾向にあるのはメス猫より行動範囲(行動圏、生活圏)が広いので他の地域が気に入ったり、かわいがって食べ物を与える人がいるとそこに定着してしまうということが考えられます。 また、これとは別に自立性の強い猫はそのグループの現状に満足できず、グループを離れる場合もあります。
猫を飼うにあたって
人と猫が幸せに暮らすために
猫を飼う前に、まず次のことを家族全員でよく話し合ってください。
- あなたの住まいで猫は飼えますか? 周囲の環境はどうですか?
- 猫の寿命は10年以上です。将来のことも考えていますか?その間も変わらぬ愛情と責任のもとに、近隣に迷惑をかけないように終生飼養できる心構えがありますか?特に高齢の方が飼い始める場合は、飼い主自身の健康状態が猫の将来に影響を及ぼすことも十分考えておく必要があります。
- 猫を不幸にしない、不幸な猫をつくらないという心構えがありますか?
- 家族構成の変化、転居など将来のことは考えていますか?子供たちの要求に押し切られていませんか?
- 毎日の食費だけでなく、病気をした時の治療費、予防注射、不妊・去勢手術などの費用を負担できますか?
品種の選択
猫の品種は大きく分類すると、短毛種と長毛種の二つに分けられ、選ぶ基準としては毛の長さの他に、鳴き声の大小や性格、環境への適応力等があります。詳しくは当院まで御相談ください。
猫の社会化期
猫にも猫特有の社会があり、そのルールを学ぶ社会化期があることが知られています。社会化期に人やほかの動物などに馴れさせておくと落ち着きのある飼いやすい猫になり、逆に人やほかの動物との接触がないと、見知らぬ人や動物に会った時に攻撃的になったり、臆病で神経質な猫になったりします。
子猫同士がじゃれて遊び始めるのは3週齢頃からで、運動機能の発達に伴って追い回したり、忍び寄って跳びかかったり、取っ組み合いを始めるようになります。このような遊びの行動を通じて、傷を負わせない程度の咬み方や降参したり休戦する動作をお互い学ぶようになります。
いわゆる猫同士の「社会化」が始まるのが10~12週齢と言われており、この頃に母親や一緒に生まれた兄弟姉妹たちと過ごす経験は、子猫の社会化に大切なことです。
したがって、子猫を飼う場合は社会化期を過ぎてからが好ましい時期と言えます。もし、捨てられた子猫や人工保育で育てた猫を飼う場合は、同年齢くらいの子猫がいる家庭に預けて、猫同士が自由に遊べる機会を作ると「社会化」がうまくいくと言われ、遊びのルールを体験したり、排泄の仕方を学ぶよいチャンスになるはずです。
猫の健康管理
食餌の管理
猫は食べ物に対する適応力が強いため、今でこそ穀物や野菜なども食べますが、本来の食性は肉食です。猫がもともと亜熱帯の砂漠型の動物ですからほかの動物と比較すると水の摂取量が大変少なく、水がある程度欠乏しても耐えられ、高タンパク質で高脂肪を好み、人間と違ってビタミンCは体内で合成します。さらに狩猟動物の特徴として、胃が大きく食い溜めでき、食べなれた味に固執します。
猫の食餌には味付けは不要です。猫の食餌にとって菓子類は要注意食のひとつで、糖分を多く摂取すると消化にカルシウムやビタミンB群を大量に消費しますので理論的には欠乏症を引き起こすことにもなりかねません。他の調味料や香辛料にも同様のことが言えます。
キャットフードは手軽で栄養的にもまず安心できますが、いろいろなキャットフードの中から自分の猫に一番よいものを選ぶには、ある程度の知識をもつことが必要です。詳しくは当院に御相談ください。また、買うときには期限の表示や成分の表示などを忘れずにチェックしましょう。
病気
体温、脈拍、呼吸数の正常値はおよそ次のとおりです。もし異常があれば体の具合が悪いことを疑ってみます。
体温:38~39度 脈拍:100~130(1分間) 呼吸数:20~30(1分間)
- ウイルス感染症
- 猫で注意すべき主なウイルス感染症には次のようなものがあり、この中にはワクチンで予防できるものとワクチンがないものとがあります。
- ワクチンで予防できるウイルス感染症
- ・猫汎白血球減少症(猫パルボウイルス感染症)
- 猫ウイルス性鼻気管炎
- 猫カリシウイルス感染症
- 白血病ウイルス感染症(FELV)
- ワクチンの接種
- 生まれた子猫が初めて飲む母乳を「初乳」と言い、さまざまな病気に対する抗体が含まれています.。子猫は生後2ヵ月目くらいまではこの抗体に守られているのですが、この期間を過ぎると病気に対して抵抗力が低下していきます。そこでワクチン接種が必要になるわけです。
ワクチン接種は生後7~8週頃に1回目、その3週間後に2回目、そしてその後は毎年1回の追加接種を行います。子猫をもらってきたり、ペットショップから飼ってきたりするのはちょうど1回目のワクチン接種の頃にあたります。もらってくる場合は前の飼い主にワクチン接種の有無を聞き、していなかったり、わからない場合は子猫が来たらなるべく早く病院に連れて行き、健康診断をしてもらうとともにワクチンの接種もするとよいでしょう。
「屋内飼いだからうちの猫はワクチン接種不要」と言う声もよく聞かれますが、猫が外に出なくても、パルボウイルスのように人の靴や衣類について家の中に侵入する可能性がありますのでワクチンは必ず接種するようにしましょう。 - ワクチンのない怖いウイルス感染症
- 伝染性腹膜炎(FIP)
- 猫免疫不全ウイルス感染症(FIV)
- 感染源の猫は唾液の中にウイルスを出すので、同居猫が舐めあったり、ケンカの傷から感染することが多くあります。猫を複数飼っていたら感染源の猫は他の猫と接触させないようにしましょう。また、抵抗力のない子猫は外に出さないほうが安全でしょう。
いずれにしても、日々の猫の体調や外見、行動等をよく観察し、何か異常が見られたらすぐに獣医師の診察を受けるようにしましょう。 - 人と猫の共通感染症
- 寄生虫とウイルスは原則として宿主特異性がありますから、通常、猫回虫はネコ科動物だけに寄生して、犬には寄生しません。
猫のカゼの原因であるウイルスは、犬にはうつりませんし、犬のジステンパーウイルスは、猫には感染しません。
細菌の中にも、サルモネラ菌、カンピロバクター菌のように、犬、猫、人間に感染し、下痢や腸炎を起こす菌もあります。カビ(真菌)ではミクロスポーラム・カニス(犬小胞子菌)は、犬にも猫にも人間にも感染し、皮膚炎を起こさせます。 - 皮膚糸状菌症
- 猫の皮膚糸状菌症は、耳、眼の周辺、鼻や口の周り、首、四肢などに円形の脱毛がみられ、リング状に皮膚の病変が現れます。疥癬のように、激しいカユミはありません。まれに、皮膚の抵抗力の弱い子供や女性では、顔や首筋、腕の内側などにミクロスポーラム・カニスが感染し、リング状の皮膚炎ができることもありますから注意が必要です。
ミクロスポーラム・カニスという、真菌による猫の皮膚炎は人間の白癬と同じ真菌の感染で起こるものです。
猫の皮膚に円形の脱毛ができたときは、この皮膚病の疑いがありますから、早めに獣医師の判断を仰ぐほうがよいでしょう。 - 猫ひっかき病
- 猫にひっかかれたり、咬まれたりした後に傷の部分が赤く腫れたり、1~3週間後にリンパ腺が赤く腫れたりすることがあります。原因についてはいろいろな菌が報告され、なかなか特定されませんでしたが、最近わかりました。
猫に咬まれると必ず、これらの症状が出るのではなく、子供や免疫力が低下している高齢者などに多く現れます。猫にひっかかれたり、咬まれたりした時は、傷口を石鹸などでよく洗い、ヨード系の消毒液を使って十分消毒しておいた方が良いでしょう。 - トキソプラズマ
- この寄生虫は、ペットの犬や猫が持っていて感染源になるから注意が必要で、妊婦はペットを飼わない方が良いと家庭医学の本や婦人雑誌などで警告されています。しかし、犬はトキソプラズマに感染することはあっても、感染源となるオーシスト(感染型)を出しませんから、まったく心配ありません。
猫がトキソプラズマに感染すると、発熱、下痢、貧血、食欲不振などになり、1~3週間、便の中に感染源であるオーシストを排出するので注意する必要があります。しかし、猫を飼っていなくても血液検査をすると過去の感染を示すトキソプラズマ抗体陽性の人がみられます。正確な感染経路は不明ですが、豚にも多い病気であり、豚肉などの加熱が悪かったり、調理する過程で感染することも考えられます。また、園芸や庭いじりをした時に、土壌中のオーシストが口から入る可能性もありますから、手洗いの励行が必要です。
問題になるのは、妊娠中に感染すると、母体にはほとんど変化はありませんが、虫体は胎盤を通って胎児に移行し、流産や先天性トキソプラズマ症(脈絡網膜炎、水頭症等)の赤ちゃんが生まれることがまれにあることです。
もし、トキソプラズマを心配するのでしたら、血液検査(トキソプラズマ抗体検査)を受けてください。陽性でしたら抗体があるので再感染の心配はありません。陰性の時は注意が必要です。仮に猫がトキソプラズマのオーシストを便とともに出しているとしても、2日以内に便を処理すれば感染力がないことがわかっています。毎日猫のトイレをきれいにして、手洗いを励行すればよいのです。
猫が遭遇しやすい事故
屋内飼育であれば、生命に関わるような事故は比較的少なくてすみますが、子猫は身軽でどんなことにも興味を示しますから油断はできません。ドアにはさまれたり、お湯やてんぷら油でやけどをしたり、電気コードをかじってショートしてやけどをしたりすることもあるので注意が必要です。じゃれていたビニール紐を飲み込んだり、お針箱の針山から糸つきの針やしつけ針にじゃれているうちに飲み込んでしまうこともあります。また、殺虫剤や洗剤などが誤って体にかかったりすると、本能的になめとろうとするため、中毒になることもありますから、体に薬品などがかかった時は、すぐにシャンプーをして洗い流してやらなければいけません。
集合住宅の高層階のベランダから落下する事故も都会ではよくあるので、ベランダへは出さないようにするか、ベランダの手すりは猫が出られないように金網等を張りめぐらせておく方が安全です。
また、猫の交通事故も多発しているので注意が必要です。
猫のノミ
猫に寄生するノミは猫ノミで本来は猫や犬の被毛の中に住み付いていて、動物たちの血液を栄養にしてどんどん繁殖し続けます。ノミに刺されると痒いだけでなく、アレルギー性の皮膚炎を起こしたり、多数寄生すると吸血されるために猫に貧血が見られたり、瓜実条虫(猫条虫)を媒介します。
人には刺すだけで住み付くことはありません。
ノミの生涯(ライフサイクル)は、卵→幼虫→さなぎ→成虫と変化します。ノミの卵は小さく芥子粒大で粘着力がなく、猫の毛の間で産み落とされてもすぐ床に落ちてしまいます。床で孵化した幼虫は光が嫌いなのでカーペットの下などの暗いところに隠れてしまい、そこでさなぎになり、そこへ猫や人が近づくのを待ちます。人や猫が近づくと振動でさなぎの殻が開き、成虫(ノミ)になります。
人と猫の共生を図るために
しつけ
猫は「単独生活者」であるのが基本なので命令に服従することがないため、犬のように「しつけ」をすることが難しいと言われています。
猫の「しつけ」は、猫が本来とっている行動の中で、我々人間と共同生活する上で、不都合なことや、迷惑になる行動をコントロールすることで、母猫が子猫にものを教えるように、あせらず、穏やかに根気を持って続けることが大切です。もし猫を叱る場合でも現行犯で現場をおさえ、猫の眼の前で強く手をたたいたり、「ハリセン」や空き缶等の大きな音の出るものを猫の近くでたたいて脅かすことで、やってはいけない行動を学習させます。
猫にしつけられることとしては、決まった場所で排泄、爪研ぎをすること、慣れさせた方が良いこととしては、体の隅々まで触らせること、ブラッシング、コーミングなどの手入れ、ケースやバスケットに入れること、リードを付けて散歩することなどがありますが、ここではトイレのしつけについて説明します。
「トイレのしつけ」
猫は普通1日に3回程度の排尿と1~2回の排便をします。また、2~3ヶ月の子猫は寝起きや食事の後に排便する習性があります。
猫は本来、糞や尿を自分の縄張り内の一定の場所で柔らかい土に穴を掘って、その窪みに排泄し、終わった後に前足で土をかけて埋めて隠す習性があります。この排泄行動は生得的なもので、子猫のときから教えなくともするものです。
したがって、部屋の中の静かな落ち着ける場所、例えば洗面所の片隅などに排泄用の箱を置いて、中に砂や市販の猫用トイレの砂などを入れた猫用のトイレを準備してやればすぐ覚えます。
子猫を初めて家に迎え入れる時には、生まれ育った家から匂いのついた少量の砂をもらってきて新しいトイレの中に入れておくと良いでしょう。また、猫を観察していてトイレに行きたそうなソワソワした様子がみられたら、トイレに連れて行って、そこで排便することを覚えさせます。
トイレの設置数は頭数プラス1が標準です。
小さな猫が成猫用のトイレを使うのは、初めは難しいこともありますから、クッキーの空き缶のような小さい容器に砂を入れておくと覚えやすいでしょう。
もし、トイレ以外の場所を汚したり、トイレの場所をなかなか覚えられない時は、粗相をした何箇所かにトイレを作って、利用頻度の高いトイレを残すようにします。猫がトイレを使わない理由の中には、置く場所が落ち着かないということであったり、トイレが不潔であったり、トイレの砂が気に入らないなどが考えられます。
家の中のトイレを使うようにしつければ、近隣に迷惑をかけることも少なくなります。
また、尿や便の異常も発見することができますから、猫の健康管理の上からも必ず室内でトイレを使うようにしつけてください。
避妊・去勢
わが国では年間約30万頭の猫が不幸にして処分されています。しかもその多くが離乳期前後の子猫です。
将来、子供を生ませるつもりがないのでしたら、メスもオスも繁殖防止のために避妊、去勢をして飼うようにすべきです。避妊あるいは去勢するかどうかは、猫を飼うと決めた時点で決めておくべきです。手術の時期についてはいろいろな考え方がありますが、猫が成長しきらない生後6~7ヶ月頃が適切と思われます。手術はいくつになっても、また、いつでも実施可能です。
もし、メスを手術しないで飼うと、メス猫は平均して生後7~8ヶ月で性成熟して、繁殖の能力が備わります。猫は交尾排卵というメカニズムですから妊娠の可能性は約90%と高く、そして、妊娠期間も60日前後と大変短く、出産頭数は平均3~5頭です。さらに子育ての時期もたった3ヵ月と短く、しかも離乳中に妊娠可能となることも珍しくありません。
また、猫の発情期は春と秋が中心ですが、家族同様に大切にされている猫は、ほぼ年間を通して、妊娠、出産する傾向にあり、出産回数が年に3回という例もまれではなくなっています。このようなことから多くの子猫が生まれることとなり、新しい飼い主探しに苦労することとなります。
メス猫が発情すると、かなり遠くからオス猫が集まってきて鳴き声を交わすので、夜間など迷惑に感じる人も少なくありません。中にはトイレ以外の場所で放尿(マーキング)するものもいます。
オスの場合は子供の処置の心配はありませんが、発情期のメスを求めて鳴く鳴き声や、屋外と出入り自由に飼われている猫はメスがいる家へ侵入して尿マーキングをしたり、メスをめぐる闘争や威嚇のうなり声は近所の迷惑になるでしょう。
性成熟したオスは外出したがります。それを外出させないでいると、家中に尿スプレーをして回ります。また、よその複数のメス猫と交尾して妊娠させることにもなります。オス猫の尿スプレーの独特のにおいはとても耐えられるものではありません。
避妊、去勢のメリットは、以上のような問題解決のほかに、メスの場合は乳腺や子宮、卵巣などの疾病が、オスの場合は前立腺の疾病等が予防できます。
また、メスは妊娠、出産、育児から解放されるので、そのため老化が遅くなり、そして子育ての経験をしないために子供っぽい無邪気な気質を長く保つようです。
オスは、数日から長いときには10日間近くも飲まず食わずで発情中のメス猫を張り込んで家に帰らなかったり、放浪中、他の猫との接触で感染症にかかったり、ケンカによるケガや交通事故などに遭うことが少なくありません。去勢により、このようなトラブルが減少します。
屋内飼育
猫は餌が充分得られれば特に広い生活空間は必要としませんので、農村地帯や交通量の少ない郊外や庭付き住宅地などを除いて、都会では猫を屋内で飼うほうが猫にとって安全です。
猫は他人の庭に糞をしたり、鳴き声等、迷惑をかけたり、そのため猫がいじめられたりするだけでなく、交通事故に遭ったり、猫の多い地域では猫の伝染病の病気の流行も多く、接触感染の機会も多くなります。
また、外猫では餌やりの際の共有食器が感染源となり、結果として短命になるので、自由に屋外を徘徊できるようにするのは勧められません。
特に屋外飼育では自由な交配が行われるので、野良猫を増やしてしまうこととなり、結果的に不幸な猫を増やしてしまうこととなります。
飼い始めた子猫のときから、その習性に充分配慮してやれば、屋内飼育にしても比較的狭い縄張りで満足するものなので、猫にとってはストレスになることもありません。また、留守がちで一頭で退屈している猫にとっては、もう一頭仲間を増やすことも良い対策であると動物行動学者は提唱しています。
屋内飼育の場合の配慮、注意事項には次のようなことがあります。
- 避妊、去勢手術をする。これは屋内飼育をする場合の必須条件でもあります。避妊、去勢の効果等については前述したとおりです。
- トイレのしつけをする。このための快適なトイレを設置する。
- 猫は犬と異なり高い場所によじ登る習性があり、この運動は猫の重要な部分をなしているので、立体的な運動ができるように配慮する。また、猫が遊べるような道具を与えたり、外を眺める場所を設けるなどして気を紛らわせてやることも重要です。
- 猫から食べ物の要求があったり、「遊び」の要求などがあった場合、できるだけ応えてやり、また、時々話し掛けたり、なでたりして愛情深く接する。
- 猫が嫌がらない程度に、ブラッシングやコーミングをしてスキンシップを図る。
- 屋内に危険がないかを確かめ、屋内が猫にとって安全で、過ごしやすい環境を作る。例えば、テレビの上や飾り棚やたんすの上にあがってもよいようにしておく。
輪と飼い主の明示(迷子札)
猫の首輪をつけることは、猫が狭い場所をくぐり抜けたりした時に、首輪がものに引っかかって首を絞めかねないので、危険ではないかと言う意見もあります。
しかし、猫の行動を見ているとヒゲが何かの障害物に触れると、すぐに後戻りをするためよほど不運でない限り心配なく、これまでも首輪による事故報告というのは極めてまれです。もし心配でしたら、伸縮性のある首輪や多少ゆるめに首輪をつけておくと良いでしょう。
首輪や迷子札を日頃からつけておくことは、飼い猫であることと、飼い主を明示することになり、飼い主責任を明らかにし、近隣への迷惑防止、いじめから猫を守り、また、迷子や病気、あるいは交通事故の場合の速やかな連絡に役立ちます。
Q.尿マーキング(尿スプレー)の対処法は?
尿マーキングには、発情に伴う「性的マーキング」と「不安やストレスのためのマーキング」があることが、最近の研究で明らかになりました。
「性的マーキング」は、去勢や避妊手術をすればほとんど解消していますが、後者の「不安マーキング」は、その猫にとって「不安やストレス」が何であるのかを考えることが大切です。
例えば、室内を改装したり、新しい家具が入ったりということが原因となることもあり、家族や他の動物が新しく加わったということも不安やストレスの原因に挙げられます。
今までは、尿マーキングされた場所に食器を置いて、そこで食べさせるとか、近づけないように植木鉢を置く、尿スプレーをしそうになったら水鉄砲や霧吹きなどで猫に水をかけて罰を加えるなどの方法が取られていましたが、最近では猫の「顔こすり」でマーキングされる「フェイシャル・フェロモン(顔から分泌されるフェロモン)」の製剤を尿マーキングされた場所に散布すると防止効果があることが証明されていますので応用すると良いでしょう。
Q.猫の家出を防ぐには
猫の家出を防ぐのに基本的なことは、まず、猫の優先権を大切にしてやることと急激な環境の変化は避けるか、できるだけ緩和してやることです。
前から猫を飼っていて、新しい猫を迎える場合は、新しい猫にはかわいそうですが、前からいる猫のほうと一緒にいる時間を多く取り、前からいる猫の優先権を大切にしてあげ、新しい猫が前からいる猫に付きまとうようだったら軽く叱ってやると良いでしょう。
引越しの際、子猫や若い猫では新しい環境に適応する能力があるのですが、数年間、あるいは、それ以上に生活していた環境から、他の新しい土地へ引っ越した場合には、家族の顔ぶれは同じであったとしても猫にとっては安心できる場所とはいえません。
引越し先に適応させるためには、猫のトイレはもちろんのこと、好んで寝ていたソファーやマット、座布団など猫の匂いがついているもの、古くなって捨ててしまいたくなるものでも持っていくことです。新しい部屋に落ち着くまでに1~2週間ほどかかるかもしれませんが、その間は猫が外へ出ないように十分用心してください。
猫の性格にもよりますが、少なくとも1ヵ月間は新しい安息できる住家として認識する期間と思ってください。
Q.猫の交通事故を防ぐには
出入り自由で飼われている猫が、夜間交通事故に遭うケースが多く発生しています。
夜間は運転手が猫を認識するのが難しいということもあるでしょうが、夜行性である猫が夜になるとその行動が活発になり、夜の集会等で仲間を追いかけたり、発情中にメス猫の争奪戦で周囲の様子に関わりなく、突発的な行動に出やすいために事故に遭う確率が高くなると思われます。
また、猫の眼は夜行性動物特有で光を集めて暗い中でも見えるように鋭敏になっているので、車のヘッドライト等の強烈な光に照らされると目がくらんで道路の横断中に立ち止るため事故に遭いやすいという点や、猫が物をはっきり見ることのできる距離は2~6メートルと言われており、6メートル以上になると像がぼやけて動いているものでも止まっているように見えるらしく、そのためかなりのスピードで走ってくる車に対してうまく対応できないということがあると考えられます。
このような不幸な事態を招かないようにするためには、去勢手術や不妊手術をし、交通量の多い地域では、屋内飼育にすることが一番の対策です。
また、オス猫はメス猫の発情期などにはかなり遠方まで徘徊するので、事故に遭遇してケガの程度がひどい時は、家に帰り着くことができず、途中で絶命してしまうことさえあります。善意の方が保護して手当をしてくれても、どこの家の猫か不明と言うこともあるので、猫には首輪をつけて、飼い主の電話の番号などを記した迷子札もつけておくと良いでしょう。
Q.猫のノミ対策は?
梅雨頃から秋口までノミが大発生して、犬や猫に寄生し、動物たちを悩ませるだけでなく、部屋中に寄生してノミだらけになり、人にも危害を及ぼします。
シャンプーしたくらいではノミの発生は食い止めることができませんし、猫はシャンプーを嫌いますから駆除剤(殺虫剤)を使うことをお勧めします。
最近では、犬や猫に副作用の心配がない殺虫剤が入手できるようになりましたので獣医師の指示で安全な薬を使用してください。
駆除剤には、首輪型のもの、スプレーで体に散布するもの、内服薬、注射薬、滴下式薬などさまざまなタイプのものがあり、その効果も猫に寄生しているうちに速効的に作用し、さらに持続性のあるもののほか、寄生しているノミには殺虫作用を持たないが、産み落とされたノミの卵が幼虫になることを阻止する作用(発育阻害作用)を持つものもありますから、それぞれの特徴を活かした効果的な使い方をすることが大切です。
室内でノミが大量発生した時は、猫の体に寄生しているノミだけでなく、室内の絨毯や床のフローリングの隙間などに落ちているノミの卵も除去しないと次の発生源になります。このような場合は、電気掃除機で丁寧に毎日掃除する他に、殺虫剤と発育阻害剤を併用すると良いでしょう。
Q.爪研ぎの対策は?
屋内飼育では、猫が家具や柱や絨毯などで爪を研いで傷つけてしまうことがしばしば問題になります。
「爪研ぎ」行動を一切禁止するのは、猫の大切な習性を抑制することになり、健康上不都合があり、また、かわいそうでもあります。
禁止するのではなく、爪研ぎをしてよい場所を作ってやり(市販や自作の「爪研ぎボード」を用意する)、それ以外でやることを禁止するという方法を取ってください。
爪研ぎ行動が見られたら、叱らずに猫を「爪研ぎボード」のところへ抱いて行き、前肢をつかんで教えてやるとよいでしょう。自分の足の裏の匂いがついたボードを確認して、そこでするようになるものです。また、同じ行動圏内の子猫は、しばしば母猫が利用した爪研ぎの材料を学習して、同じものを利用することがあります。すでに「爪研ぎ」されて爪跡がついた家具やソファには近づけないように植木鉢を置いてしまうとか、爪が引っかからないようにプラスチック板を粘着テープなどで仮留めしておくのも予防対策の一つです。
Q.近隣の猫の排泄対策は?
猫に庭や花壇を汚されて困るという苦情は、迷惑行動の中で常に上位にランクされています。現在のところ、これに対する決定的に有効といえる方法はなかなかありませんが、猫の習性等を利用した対策として、次のようなことが考えられます。
猫が排泄していく場所は、猫にとって快適で安全である所や何らかの猫を引き寄せる要素(食べ物、メス猫の匂い、糞にかける土や砂がある等)があり、自分の縄張りであることを示すためにマーキングの意味合いで用を足していくことが考えられます。
被害を受けている家庭の庭は、砂利や植木鉢で汚されやすい場所を覆ったり、猫がマーキングの標的とする不用な物を片付けるなどして猫のトイレとして不適当な条件に改めるのも一つの方法です。また、猫が侵入してくるにはある程度決まったルートがあるので、そこを塞ぐことなども考えられます。
猫が繰り返し糞をしていく場合には、糞の匂いが残っていると大抵その周囲にしていくので、匂いが残らないように後始末をするとよいでしょう。(洗剤や水で洗い流す、消臭剤、茶殻、コーヒー殻を撒くなど)。
また、猫を寄せ付けない忌避剤や猫のシルエットをかたどった「かかし」のような効用を狙った製品も開発されていますが、猫の個体差や、周囲の状況もさまざまなことから、確実で持続的な効果があがる方法はないようです。
猫は警戒心が旺盛なので、これらを設置しっぱなしにするのではなく、時々配置を変えたり、複数の方法をとることで相乗効果が期待できます。
猫は大きな音や水に濡れるのを嫌うので、猫が侵入しているのを見かけたら、園芸用の霧吹き器などにより水をかけたり、大きな物音で驚かすなどして、猫にその好ましくない行動と自らが不快感を覚える体験とを結びつけさせていくのも一つの方法です。また、可能であれば自分の家か飼い主の庭の一角に小さな砂場等、猫が好む排泄しやすい場所を作るなどして、特定の場所にさせるようにするのも一つの方法かと思われます。その他、自分の家で犬を飼い、庭をその犬のホームレンジとする方法も考えられます。
猫による迷惑や苦情は近隣間のコミュニケーション不足も大きく影響してくることも考慮する必要があります。